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6話
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「すぴーすぴー」
午後。
家族の猛攻を難なくしのぎ切った私。
誠心誠意謝るだけで許してくれるなんてちょろいぜ……。
だがお外には行けなくなったので、こうして昼寝している。
「すやすや――」
ふかふかの子供用ベッドで寝息を立てているが、実は狸寝入りなのだ!
メイドもいないのに、なぜ寝たふりをしているのか。
それは、
――ぽふっ。
私のおなかの上になにかが落下した。
それはとても軽く、意識していなければ存在を感じないほどだ。
ガサ、ガサ、ガサ。
正体不明のなにかは、大胆に布団の上を這いずって私の顔へ向かってくる。
来なすった。
私はやつに気取られないよう目を閉じたまま、その位置を精密に想像する。
やつめ、狙われているとは夢にも思っていないだろう。
この謎の生物を認識したのはもう一年以上前になる。
寝返りができるようになったころ誰もいないはず部屋で、どこからか視線を感じたのが最初だ。
気のせいだろうと思っていたが、いつだったか起床したときに枕元からなにかが逃げ出すのを目撃した。
これ以来、私は睡魔と戦いながら謎の生物の情報を集めている。
眠ったふりをしている途中に本当に寝てしまうことが多々あり、調査は難航したがある程度の生態はつかめた。
それがこれだ。
体重はとても軽く、手のひらサイズ。飛行能力をもちすばしっこい。
私が眠っていると近づいてくる特性があるようだ。
私の部屋に住み着いているのは、いったいなんなのか。
いまだに姿を見たことはない。
大きな虫か、はたまたしっぽを回転させてホバリングするネズミか。
その正体を今日確かめる!
私は素早く両手を布団から出すと、がしっと重みを感じる場所を挟んだ。
「きゃ~! 捕まったかしら~⁉」
聞こえたのはソプラノの悲鳴。
手の中でなにかがじたばたと暴れている。
じんわりと温かなそれは昆虫類の手触りではない。
私はゆっくりと目を開ける。
両手に挟まってもがいていたのは、人型の生物だった。
「こび……と?」
「小人じゃなくて妖精ですぅ~! あんな低能生物と間違えないでほしいかしら!」
小人、もとい妖精は訴える。
「そ、それでこんな美少女妖精である私を捕まえて、い、いったいどうするつもりかしら⁉」
……どうしようか。
当初の予定どおりに進めれば、
捕まえて――
「たべゆ」
「いやああああああああああああ!!」
妖精は悲鳴を上げた。
「わ、私なんて食べても全然おいしくないわよ⁉ それよりもっとおいしそうな妖精連れてくるから、私だけは食べないで~!」
私としても意思疎通できる生き物を食べるのは気が引けるんだが……。
本当に食べられると思ったらしく、同胞を売って助かろうとする妖精。
「ほら、私とあなたって同じ髪の色じゃない? 緑色の髪のよしみで、見逃してほしいかしら!」
あっ、言ってはならないことを。
私は無言で両手を口に近づける。
……いい匂いがする。本当に食べちゃおうかな。
「後生です! 後生です! あなたのうちに秘められたギフトの使い方を教えてあげるから、どうか食べないでください‼」
『ギフト』とな?
興味を持った私は、両手を離して妖精を解放した。
気になった! お前を食べるのは最後にしてやろう!
いや、元から食べるつもりはないんだよ? 本当だよ?
自由を手に入れた妖精は、膝の上でせっせと服のシワを伸ばしている。
背丈はタバコのケースと同じくらい。妖精というだけあって綺麗な顔にすらりとした大人の体。白いワンピースみたいな服は、人間のものと作り方が違うのか、縫い目が見当たらない。斜めがけのポシェットを身に着けているがそのサイズでは大したものは入らないだろう。
そして目を引くのが、私と同じエメラルドで紡いだかのように透き通る緑色の長髪。
私はこの髪の色をあまり気に入っていないが、その話はまた今度だ。
「ふぃ~。それではあなたのギフトについて教えてあげるかしら」
「まって」
服を整えた妖精は、さっそく本題を話始めたが、その前に聞きたいことがある。
「な、なによ。気が変わって食べることにしたとか言わないかしら……」
膝の上から立ち上がり、ファイティングポーズをとる妖精。
そうじゃなくて、
「なまえなに」
お互い名前も知らない同士じゃやりにくい。
「私はコレット。妖精のコレットかしら」
「わたしは――」
「知っているわ。クララでしょう?」
私の言葉を遮るコレット。
「どうしてわたしのなまえ知ってるの?」
「それはずっと覗いていたからに――な、なんでもないかしら~」
気になっていたことを自分から吐きよった。
ごまかすように八の字に飛んでみせるコレット。
妖精はごまかすときに八の字に飛ぶのか?
「なんでわたしのことずっとみてたの?」
「ちがうかしら、たまたま入った部屋に――」
「うそつき。一才のころからずっとみられてたもん」
見苦しく抵抗を続けるコレット。もういっそ食べてしまおうか――
「見てた! ずっと見てたわ! 珍しいギフト持ちの人間がいたから気になっていたかしら~!」
コレットはようやく正直に白状した。
視線の正体は妖精のコレットだったのだ。これで長きにわたる懸念が一つ消える。
それで、さっきからちょくちょく出てくる『ギフト』ってなんなのさ。
「ギフトは人間種が先天的に持つ不思議な力のことかしら。誰にでも使える魔法とは違ってその人にしか使えない能力なのよ~」
やっぱりあったんだ魔法。
ギフトが私の中にあるという話だが、いったいどんなものだろうか。
目を閉じて『ギフト』と念じるも、当然なにも起こらない。
「どうやってギフトつかうの?」
「今のままでは使えないわ。ギフトは覚醒させるまでなんの役にも立たないかしら~」
「コレットがギフトをつかえるようにしてくれるね」
使い方を教えるとはそういうことだろう。
「えっ? 私が人間ごときのこまごましたこと知る訳ないわ」
急に真顔になるコレット。
知らないの? それではなぜ使い方を教えると言い出したのか。
「ただ人間は『螺旋の宝玉』に触れてギフトを使うようになるから、その場所を教えてあげるかしら」
「どこにあるの?」
「王城の宝物庫かしら~」
「かしら~」じゃない!
そんなところに入れる訳がないだろう。
家から出たこともない私が王城の宝物庫に忍び込むなんて無謀もいいところだ。
「貴族の学校に通えばそのうち触れられるみたいよ~」
「なんさいで使えるようになるかわからない」
若い方が何事も呑み込みが良いから、すぐにでも開放したい。
「だったら自分から触りに行けばいいかしら」
「じぶんから?」
「宝物庫に忍び込んで、こっそり触ればいいわ」
コレットは艶っぽく笑う。小さいくせに無駄に美人だ。
「でも……」
「どうせ減るものでもないのだし~」
そう言ってのけるが、王城に向かう機会がない。
家を抜け出そうものなら、今朝とは比べ物にならないほどに手酷いお叱りを受けるだろう。
ようやくファンタジーできるかと思ったが、現実はかくも厳しい。
「コレット……わたしおしろにいけないからむりだよ」
それを聞いても妖精の表情は晴れやかなままだ。
「それだったら心配ないわ~。あなたは近いうちに王城に行くのだから」
コレットは自信に満ちた表情でそう告げた。
その日のうちに、私宛に国王から手紙が届いた。
母がかみ砕いて説明してくれたところによると、「同い年の王子と仲良くなるかもしれないからよかったら王城にこないか」とのことらしい。
父は行きたくないんだったら断っていいんだぞと何度も言ってきたが、ギフトの件もあるし、なにより私は外に出たい。
私が登城する意思を示すと、とんとん拍子で準備が進み、明日には父と二人で王城に行くことになった。
外出は当分無理かと思ったが、一通の手紙で魔法にかけられたように事態は急変した。
頭上を見上げると、シャンデリアの周りをぐるぐると回っていたコレットがウインクした。
午後。
家族の猛攻を難なくしのぎ切った私。
誠心誠意謝るだけで許してくれるなんてちょろいぜ……。
だがお外には行けなくなったので、こうして昼寝している。
「すやすや――」
ふかふかの子供用ベッドで寝息を立てているが、実は狸寝入りなのだ!
メイドもいないのに、なぜ寝たふりをしているのか。
それは、
――ぽふっ。
私のおなかの上になにかが落下した。
それはとても軽く、意識していなければ存在を感じないほどだ。
ガサ、ガサ、ガサ。
正体不明のなにかは、大胆に布団の上を這いずって私の顔へ向かってくる。
来なすった。
私はやつに気取られないよう目を閉じたまま、その位置を精密に想像する。
やつめ、狙われているとは夢にも思っていないだろう。
この謎の生物を認識したのはもう一年以上前になる。
寝返りができるようになったころ誰もいないはず部屋で、どこからか視線を感じたのが最初だ。
気のせいだろうと思っていたが、いつだったか起床したときに枕元からなにかが逃げ出すのを目撃した。
これ以来、私は睡魔と戦いながら謎の生物の情報を集めている。
眠ったふりをしている途中に本当に寝てしまうことが多々あり、調査は難航したがある程度の生態はつかめた。
それがこれだ。
体重はとても軽く、手のひらサイズ。飛行能力をもちすばしっこい。
私が眠っていると近づいてくる特性があるようだ。
私の部屋に住み着いているのは、いったいなんなのか。
いまだに姿を見たことはない。
大きな虫か、はたまたしっぽを回転させてホバリングするネズミか。
その正体を今日確かめる!
私は素早く両手を布団から出すと、がしっと重みを感じる場所を挟んだ。
「きゃ~! 捕まったかしら~⁉」
聞こえたのはソプラノの悲鳴。
手の中でなにかがじたばたと暴れている。
じんわりと温かなそれは昆虫類の手触りではない。
私はゆっくりと目を開ける。
両手に挟まってもがいていたのは、人型の生物だった。
「こび……と?」
「小人じゃなくて妖精ですぅ~! あんな低能生物と間違えないでほしいかしら!」
小人、もとい妖精は訴える。
「そ、それでこんな美少女妖精である私を捕まえて、い、いったいどうするつもりかしら⁉」
……どうしようか。
当初の予定どおりに進めれば、
捕まえて――
「たべゆ」
「いやああああああああああああ!!」
妖精は悲鳴を上げた。
「わ、私なんて食べても全然おいしくないわよ⁉ それよりもっとおいしそうな妖精連れてくるから、私だけは食べないで~!」
私としても意思疎通できる生き物を食べるのは気が引けるんだが……。
本当に食べられると思ったらしく、同胞を売って助かろうとする妖精。
「ほら、私とあなたって同じ髪の色じゃない? 緑色の髪のよしみで、見逃してほしいかしら!」
あっ、言ってはならないことを。
私は無言で両手を口に近づける。
……いい匂いがする。本当に食べちゃおうかな。
「後生です! 後生です! あなたのうちに秘められたギフトの使い方を教えてあげるから、どうか食べないでください‼」
『ギフト』とな?
興味を持った私は、両手を離して妖精を解放した。
気になった! お前を食べるのは最後にしてやろう!
いや、元から食べるつもりはないんだよ? 本当だよ?
自由を手に入れた妖精は、膝の上でせっせと服のシワを伸ばしている。
背丈はタバコのケースと同じくらい。妖精というだけあって綺麗な顔にすらりとした大人の体。白いワンピースみたいな服は、人間のものと作り方が違うのか、縫い目が見当たらない。斜めがけのポシェットを身に着けているがそのサイズでは大したものは入らないだろう。
そして目を引くのが、私と同じエメラルドで紡いだかのように透き通る緑色の長髪。
私はこの髪の色をあまり気に入っていないが、その話はまた今度だ。
「ふぃ~。それではあなたのギフトについて教えてあげるかしら」
「まって」
服を整えた妖精は、さっそく本題を話始めたが、その前に聞きたいことがある。
「な、なによ。気が変わって食べることにしたとか言わないかしら……」
膝の上から立ち上がり、ファイティングポーズをとる妖精。
そうじゃなくて、
「なまえなに」
お互い名前も知らない同士じゃやりにくい。
「私はコレット。妖精のコレットかしら」
「わたしは――」
「知っているわ。クララでしょう?」
私の言葉を遮るコレット。
「どうしてわたしのなまえ知ってるの?」
「それはずっと覗いていたからに――な、なんでもないかしら~」
気になっていたことを自分から吐きよった。
ごまかすように八の字に飛んでみせるコレット。
妖精はごまかすときに八の字に飛ぶのか?
「なんでわたしのことずっとみてたの?」
「ちがうかしら、たまたま入った部屋に――」
「うそつき。一才のころからずっとみられてたもん」
見苦しく抵抗を続けるコレット。もういっそ食べてしまおうか――
「見てた! ずっと見てたわ! 珍しいギフト持ちの人間がいたから気になっていたかしら~!」
コレットはようやく正直に白状した。
視線の正体は妖精のコレットだったのだ。これで長きにわたる懸念が一つ消える。
それで、さっきからちょくちょく出てくる『ギフト』ってなんなのさ。
「ギフトは人間種が先天的に持つ不思議な力のことかしら。誰にでも使える魔法とは違ってその人にしか使えない能力なのよ~」
やっぱりあったんだ魔法。
ギフトが私の中にあるという話だが、いったいどんなものだろうか。
目を閉じて『ギフト』と念じるも、当然なにも起こらない。
「どうやってギフトつかうの?」
「今のままでは使えないわ。ギフトは覚醒させるまでなんの役にも立たないかしら~」
「コレットがギフトをつかえるようにしてくれるね」
使い方を教えるとはそういうことだろう。
「えっ? 私が人間ごときのこまごましたこと知る訳ないわ」
急に真顔になるコレット。
知らないの? それではなぜ使い方を教えると言い出したのか。
「ただ人間は『螺旋の宝玉』に触れてギフトを使うようになるから、その場所を教えてあげるかしら」
「どこにあるの?」
「王城の宝物庫かしら~」
「かしら~」じゃない!
そんなところに入れる訳がないだろう。
家から出たこともない私が王城の宝物庫に忍び込むなんて無謀もいいところだ。
「貴族の学校に通えばそのうち触れられるみたいよ~」
「なんさいで使えるようになるかわからない」
若い方が何事も呑み込みが良いから、すぐにでも開放したい。
「だったら自分から触りに行けばいいかしら」
「じぶんから?」
「宝物庫に忍び込んで、こっそり触ればいいわ」
コレットは艶っぽく笑う。小さいくせに無駄に美人だ。
「でも……」
「どうせ減るものでもないのだし~」
そう言ってのけるが、王城に向かう機会がない。
家を抜け出そうものなら、今朝とは比べ物にならないほどに手酷いお叱りを受けるだろう。
ようやくファンタジーできるかと思ったが、現実はかくも厳しい。
「コレット……わたしおしろにいけないからむりだよ」
それを聞いても妖精の表情は晴れやかなままだ。
「それだったら心配ないわ~。あなたは近いうちに王城に行くのだから」
コレットは自信に満ちた表情でそう告げた。
その日のうちに、私宛に国王から手紙が届いた。
母がかみ砕いて説明してくれたところによると、「同い年の王子と仲良くなるかもしれないからよかったら王城にこないか」とのことらしい。
父は行きたくないんだったら断っていいんだぞと何度も言ってきたが、ギフトの件もあるし、なにより私は外に出たい。
私が登城する意思を示すと、とんとん拍子で準備が進み、明日には父と二人で王城に行くことになった。
外出は当分無理かと思ったが、一通の手紙で魔法にかけられたように事態は急変した。
頭上を見上げると、シャンデリアの周りをぐるぐると回っていたコレットがウインクした。
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