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メイド長と御曹司 編

御曹司は心が折れる

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といった具合に意気込んだは良かったものの、流石にここまで振られ続けるのは精神的にきつい。

澄花に振られ続けて今回で999回目、タイムリープもこれまでに998回してきた。

一時間毎にタイムリープが始まることから推察するにざっと一か月半が経過。その間ずっと告白しているのだから、流石に精神が擦り切れてきた。



一応ではあるが精神を保つための対処策として、告白を終えた後にベッドの中で毎回日記を付けるようにしていた。

開いてみると、これまでのやり取りが箇条書き形式でまとめられており全体像を俯瞰的に見ることができるのだ。



<4回目>

「久遠澄花さん、俺と付き合ってもらえますか」

「謹んでお断りします」



<24回目>

「俺と付き合って、そして一緒に夢を掴みましょう」

「現実主義者なのでお断りします」



<59回目>

「俺には君がいないと駄目なんだ」

「御曹司ならきちんと自立してください」



<106回目>

「結婚して毎朝俺を起こしに来てください」

「既に来てますので結婚する必要がありません」



<270回目>

「ねえーどうしても駄目なのー?」

「駄々こねても駄目なものは駄目です」



<422回目>

「澄花、俺の女になれよ」

「強引な人は嫌いです」



<549回目>

「Veux-tu m'épouser!!」

「嫌です」



<713回目>

「好き好き好き好き好き好きぃ!」

「…………」



<856回目>

「ねえちょっとだけ! 首を縦に振るだけでいいからさ!」

「懇願しても無駄ですよ」



<988回目>

「俺……もう駄目かも」

「はぁ、そうですか」





これらがその一部分。まあ、最後の方は心が折れかけてるのがよく分かる。

でもこれだけ振られ続ければ弱気になっても仕方ないよ。うん。



「って、いや待て待て、ここで弱気になってどうするんだ」



そうだ、俺の目標は澄花と付き合うこと。ここで諦めたら駄目に決まってる。

再びあの頃のように話したい。その望みを叶えるんだ。



ちらりと時計を見ると十一時、もうすぐタイムリープが始まる。

突然睡魔が襲ってきて、重い瞼を閉じればあっという間に当たり前と化した光景が視界に広がるのだ。



「でも、もうこれ以上レパートリーが……」



告白する以前からずっとイメトレし続けてきたが、流石にこれ以上の消費は想定外だった。

外国語で回していくか、豆知識や慣用句を用いるか、はたまた他に頼るか……

そんなことを考えていると、いつの間にか睡魔が襲ってきて、目を開ければ999回目のタイムリープが終わっていた。

目の前にはメイド姿の澄花が立っていて、寝間着でベッドに横たわっていたはずの俺は部屋着を纏い一丁前に屹立していた。



「…………」



俺は固まっていた。何を言うべきか分からなくなってしまったから。

どの言葉を掛ければ澄花が振り向いてくれるのか、999回のタイムリープをもってしても全く手応えがない。

さっきまでの威勢はどこへやら、好きな相手を前にして俺はとうとう心が折れてしまった。



「…………澄花はさ、俺のこと嫌い?」



初めてそう訊く。この長いタイムリープの中で、ずっと想いを伝えてばかりだった俺が初めて告白をしなかった瞬間だ。



「嫌いに決まってますよ」

「なら教えてくれないかな? 俺のどこが嫌いなのかって。服がダサいなら勉強するし、仕草がキモかったら直すし、髪型が変なら美容室に通うし、顔がキモイって言われたら……整形だって覚悟の上だ」

「それは少々やり過ぎでは」

「でも俺は澄花に好かれたい。お前と付き合えるなら今の地位を投げうってでも構わない。だから教えてほしいんだよ、澄花」



半ば懇願するように俺は訊いた。我ながら本当に情けないと思う。

澄花はなにも返事をせず、部屋の中では時計の針が静かに鳴るばかりだった。



「…………今の澄花が可愛いのは重々承知だよ。でも俺はただ昔みたいに楽しく話せたら、それで十分なんだよ」



もう顔を見れない。どうせ次のタイムリープが来れば澄花がこの出来事を綺麗に忘れてしまうのだと分かっていても。

いつもみたいに軽蔑の言葉を残して澄花は部屋から出ていくのだろう。

一歩一歩足音が遠ざかり、俺はただその時が来るまで耐えていた。



「そんなにビクビクしないでください。そんな調子では司様の質問に答え辛くなるじゃないですか」

「え……?」



だが予想に反して、澄花は穏やかな声だった。

部屋の扉に手をかけ、こちらに背を向けたまま、澄花は言葉を続ける。



「…………司様には笑顔がお似合いです。いつもみたいに過剰に前向きな方が貴方らしいですよ」



そう言い残して、澄花は扉を向こうへ消えていった。

銀色の長い髪をなびかせながら、その合間から僅かに覗かせる優しい瞳。

一瞬だけ、俺は懐かしい気持ちになった。



「結局、なんで嫌いかは教えてくれないのかよ」



そう愚痴をこぼすが、口元には対照的に笑みが浮かんでいた。

タイムリープしている俺の気も知らずによくもまあ言えたものだと思うよ。

でも、ちょっとだけ救われたから今回だけは許す。



「よし! 今度こそ絶対に告白成功させるぞ!」



次で1000回目のタイムループ。澄花と付き合うという目標のため、俺は再び立ち上がった。
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