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ルイの婚約者

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「なんで彼女を王妃に選んだの!!!!」

 自室に入室してからすぐにルイに向かって叫んでしまった。会議では王妃がルイを国王と認めるとルイが各役職に就く者を発表した。
 摂政は勿論私だ。そもそもこの職種は実質王位継承権第二の者しかなれない。王に何かあった時に王の代理ができるのだから当たり前だ。
 宰相にはアーサー・アレクサンダー・グレースの名を告げた。事前にその事を伝えた時、叔父と共に引退しよう思っていたらしく最初嫌な顔していた。しかし、叔父の「期待している。頼む」というと二つ返事で引き受けてくれた。叔父の力はすごいと思った。
 法務大臣にはオリビア・クラークの名を告げた。これは私が推薦したのである。オリビア嬢の知識は捨てがたい。そして、ただ私の妻として城に住まわせるのも勿体と思った。クラーク家であることから渋い顔をする者もいたが魔法契約をしていることで全員承諾を得る事ができた。絶対に破ることができない魔法契約は裏切り根拠となる。
 そして、貿易大臣のみ継続で公爵の爵位を持つアルジャーノン・シーモアだ。私は彼の顔をよく覚えていない。私が引きこもりだったこともあるが、彼自身ほとんど外交で国内にいないのである。国内の情勢は手紙のみで得ている。彼以上に外国に顔のきくものはいない。この職務を引き継ぐにはしばらく彼について回らないといけないのだ。
 彼は若くて優秀であるため今回は継続となった。これは珍しいことである。

 そして、王妃は彼女だ。

 私があまりに大きな声を出したためルイは目を丸くしている。そして、私を抱きしめて「落ち着て」と言う。その甘い声に心臓の音が早くなった。
 ルイはすぐに私を抱きしめる。そうすれば私が落ち着くと思っているようだ。

 確かに……落ち着くけど。

 そして、私の両肩を持ちすこし距離をとった。それから私の瞳をじっとみている。

「まず、信じてほしい。僕はルカ一途だよ。しかし、この国の国王は必ず王妃が必要なんだ。ルカはなぜ彼女に対して否定的なんだい?」

 もちろん、我が国の王妃の必要性は知っている。だから結婚も否定はしないが……人選の問題がある。

 ルイが選んだのはソーワ国のアイラだ。彼女は漫画の主人公でありルイが惚れる相手だ。

 ここで漫画補正がはいったのか。

 このままでは漫画通りアイラに国を乗っ取られてしまうのではないかと不安になった。
 しかし、ルイにそんな事は言いづらくて何も言わずに下を向いた。

「なにが不安なんだい? 彼女色々と都合がいいだよ」

「都合?」

 私はルイの言葉に目だけ動かして彼の顔を見た。彼はまっすぐに私の顔を見ているが眉が下がっている。

「そうだよ。ルカは会った事がないかもれないが僕は茶会で何度か会いその後も交流があるんだ。もちろん彼女が特別という訳ではなく各国の王族とは交流があるよ。その方が将来動きやすくなるしね」

 “交流”という言葉は耳がいたい。私は記憶が戻る前も後も基本的引きこもりだ。交流は王族にとって今後につながる大切なことだと知っているが、知らない人と話すには抵抗がある。

「交流……してなくて……」

 私は視線を床に落とすと小さな声で言った。すると、ルイはあわてて「責めるつもりはないよ。むしろしなくても……」と私の肩にある手に力がこもった。痛くはなかったがビクリと身体が動いた。それに気づくとすぐに力を緩めてくれた。

「ごめん。力がはいりすぎて……とにかく彼女は条件がいいだよ」

「条件?」

「そう。まず彼女は僕に興味がないというか、権力にしか興味がない」

 ルイに言われて、漫画のアイラについて考えた。少女漫画の主人公であるが、悲劇のヒロインという印象はない。彼女はどちらかというとダークヒロインだ。
 アイラの出身国ソーワは男尊女卑である。あの国では女性は男性のアクセサリーや家を繋ぐ道具として扱われている。
 王女であるアイラは外交の道具として育てられてきた。
 アイラはそれが不満であった。そのため女性が権力を持てる国へ嫁ぎたいと考えていたのだ。しかし、ルカに脅されてルカの婚約者として我が国にくる。ここでは捕虜のような扱いをうけたため不満に思っていた。 
 その時ルイがソーワ国の国王であるアイラの父が危篤である事をアイラに知らせるのだ。アイラはそれを好機と思い“父が心配”と言ってルイの力をかり城を脱走する。
 アイラが父を心配するわけがないのだ。幼い頃が自分を道具として扱ってきた父をよく思っていない。その証拠に脱走後アイラは自国には戻らず、闇市の奴隷を解放して革命をおこすのだ。

 結果、我が国の女王となる。

 漫画通りのアイラならば、恋愛よりも権力を欲しがるだろう。

 でも……

 私は頭を上げてルイの顔みた。ルイはとても美しい顔をしている。そしてキラキラと光る金色の髪がそれを更に引き立てているのだ。
 私はそっとルイの顔に触れた。肌をすべすべ気持ちがいい。

「ちょっ……ルカ」

 うわずった声をルイは上げた。
 私は思考に夢中になって気づかなかったが、ルイが真っ赤な顔をして私を見ている。
 どうやら触りすぎてしまったらしい。

「あ、ごめん。ルイの顔がとても綺麗だったから。この顔を見たらアイラ王女殿下も惹かれてしまうのではないかと思って……」

 すると、ルイはとても嬉しそうな顔をした。

「安心して大丈夫。彼女が僕を好きになる事はありえない。だから今も頻繁に交流があるんだ」

 ありえない……?
 なんで?

 確かに漫画のアイラがルイに口説かれている場面は何度かあったけれど彼女はときめくどころか頬を赤くそめることはなかった。
 その理由を聞こうとすると、ルイは勢いよく私を抱き寄せた。そして、今度は痛いほど強く抱きしめられた。

「それにしても、ルカ嫉妬してくれるなんてうれしいな」

 嫉妬?
 これが嫉妬なのかな?

 ルイの腕の中で私は自分の気持ちが分からずにいた。
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