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異様な光景

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 身体が動くようになったのはあれから二ヶ月経ってからだ。城の修復作業が終わり、私は自室に戻ることができた。ルイやトーマス騎士団長、そして騎士たちも回復しているらしい。ただ、亡くなった騎士たちもいる。これからその騎士たちを弔うのだ。
亡くなった騎士は全員二階級特進、そしてその家族には生涯生活保障がされる。元々死を覚悟して騎士になっているため家族が国に不満をぶつけることはないと聞いた。

 だが、悲しいものは悲しいのだ。

 城の広場には黒い服や黒を身にいつけた多くの人が集まっている。弔いの時は黒というには前世と同じだと思った。
私はそれを王妃の後ろにある王子席から見渡している。王妃の隣には国王がおりその後ろにルイがいた。ずっと魔法陣を使い顔は見ていたが直接会うのは久々だ。元気そうでよかった。そして、私たちの後ろの壁に沿って、護衛部隊の騎士たちがいる。アーサーと摂政のオリバー叔父は隅に座っていた。こういった演説や式典には王族でも直系のみが前に出てくる。

 トーマス騎士団長が不在なのが気になる。まだ体調が悪いのだろうか。

 この席は民のいる位置よりも15メートル以上高い、それのに、民のすすり泣く声が聞こえた。

 国王が立ち上がり、一歩前に出ると民を見渡す。そして、大きな機械を手にしていた。

「城に侵入した者がいた」

 国王がその機械に向かって話すと、言葉が大きくなり広場に響き渡る。民は静かに国王の話に耳を傾けている。先ほど聞えたすすり泣く声も聞こえない。数える事ができないほど人数がいるのに誰の声も聞こえない。
 怖く感じた。

「目的は闇市に関わった疑いのあるため投獄していた元騎士の脱獄手引である。元騎士は闇市の問題解決のために必要であった。そのため多くの騎士、そして我が息子たちが侵入者と勇敢に戦ったが……」

 そこまで、話すと国王は目をつぶり、手を顔に当てて首を振った。その姿は涙ぐんでいるように見える。その瞬間民が殺気だったように思えた。

『国王陛下』

 そして、“国王陛下”というコールが始まった。その声で水や風の音が全く聞こえなくなった。民は国王を応援するように国王の名を呼んでいる。つまり、さっきの殺気は侵入者への怒りだったのだろう。
 全員が皆、国王を支持している。反対する声は一切ない。

 異様な光景である。

 国王が手をあげると、コールはやみしんと静まり返った。民の呼吸のみが聞こえる。さっきの状態とは真逆だ。

「声援感謝する。我が国のために力を貸してほしい」

 国王が寂しそうに笑うと、「きゃー」という民からの黄色い声がして人が倒れる音がした。雄叫びも上がる。

『国王陛下』

『国王陛下』

 なりやまないコール。

 私は気持ちが悪くなってきた。

 胸が痛みだした。ケガのせいかと思ったが違うような気がする。この感じを私は知っている。

 発作だ。

 どんどん呼吸をするのが辛くなる。しかし、民の前で倒れるわけにはいかないと思い必死に足を踏ん張るがその足も震え出した。
 助けを求めようと護衛部隊の騎士を見ると、なんと彼らは皆国王に見入っているようだ。国王以外のことを一切気にする様子がない。
 これは護衛騎士としてありえない。彼らは常に周囲に目を光らせ中ればならい存在だ。
民の様に口を開くことはないがまる神を見るような目をしている。

 誰とも目が合わなかった。
つまり、ここから居なくなっても気づかれない可能性があることに気付いた。そして、無理やり身体を動かし、後方の扉に向かった。
扉は閉まっていたが、演説中であるため鍵は掛かっていない。扉に寄りかかり、体重をかけて開ける。重い扉が音を立てて少し開いたが誰もこちらを向かない。

 異様だ。

 その扉も隙間に身体を半分いれると、思いっきり内側に引っ張られた。私は抵抗できずにそのまま中へと引き込まれた。 中に入りたかったから別に構わない。全身が中に入ると、引っ張られた方を見る。

「ルイ」

 思わず大きな声を出してしまい、ルイに手で口を塞がれた。私がルイと目を合わせて頷くとすぐに手を離してくれた。
 ルイは“向こうへ”と指をさしていたが、私は身体を動かすことができなかった。今も胸に痛みを感じる。ルイは何か分かったようで頷くと私を背負い、歩き始めた。

 ルイも回復したばかりだというのに申し訳ない。
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