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婚約の話

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 サラが部屋に戻ってきたため軽食を用意してもらった。ルイは大量に甘い物を摂取していた。今回二つ同時に発動したため疲れたのだろう。私も一緒に食事をしてから重い足取りでルイと共におじさんの部屋へ向かった。

 おじさんがいる部屋の衛兵に扉を開けてもらい入室する。中には騎士がいたが退出をお願いした。ルークの時も退出したようである。
 窓から飛び降り逃げたことのあるおじさんの部屋は常に騎士が滞在している。すべて私の護衛騎士が担当している。余計な任務を増やしたと思っているが後悔はしてない。必要なことだ。
 ベッドの近くにおじさんが立っていた。おそらく扉を叩く音で飛びおきたのだろう。髪が乱れていた。
 おじさんは私たちが来たことを確認すると挨拶をしてテーブルへ招いた。そこに着席をするとルイがおじさんに労いの言葉をいった。おじさんは小さな声で返事をした。

「……ルカ第二王子陛下。以前は……私の固定概念を押し付けるような発言をして申し訳ございません」

 おじさんが頭を下げるとルイは満足そうな顔していた。おじさんは気の強い性格の方ではないと思ったがここまでしおらしくはなかった。一人称まで変わっているためルイが何かやったに違いないと思った。

「いえ、それよりさきほど演技は素晴らしかったですね。以前のオリビア嬢そのものでした」

 ルイが褒める。私はそれに同意するように頷いた。あまりに似すぎていて気持ちが悪くなったほどだ。
 おじさんは「たいしたことはありません」と首をふった。

「オリビア嬢の中の方は優秀だよ。この数日で我が国のことは殆ど理解できたし、オリビア嬢自身について説明するとあの様に再現した」

 社交辞令ではなく他人をほめるルイは珍しい。しかもとても楽しいそうである。このおじさんを利用しようとしていることは明白である。

「この世界の事について学習したのですか」

 私が聞くとおじさんは「はい」と言って棚にある本を指さした。ルイが全て用意したものであると言うが相当な量があった。しかも、国の法律や政治のことなど難しい内容の本もあった。図書室で私も読んでいるが内容が理解できず時間がかかったのを覚えている。
 つまり知識を得て自分の立場を理解したためしおらしくなっただろうか。それにしては……。
 棚に置いてある書籍を見てあることに気づいた。おじさんがそれらを全て読んでいるのであればアレも知っているはずである。

「あれらを理解されたのでしたら、私の指示で城に住む意味も知っているのですよね」

「婚約のことでしょうか。存じております。殿下が望むのでしたら承諾いたします」

 問題ないと話すおじさんに驚きすぎて言葉を失った。私との婚約や利害一致するといえこんなに簡単に承諾するとは思っていなかった。だっておじさんは一見可愛い少女であるが男の意識をおり私の外見は王族特有の美しい顔を持っていたとしてもどう見ても男だ。
 脅されたか何取引したしか思えない。

「ルイ」

 そんなことをする人間は一人しかいない。私が強い口調で彼の名前を呼ぶとルイはニコリと笑い返事をした。

「婚約はルカの希望だよね」

「そうだけど……」

 確かに婚約を望んでいた。それはおじさんと利害一致すると思ったからだ。この件はきちんと説明して納得してもらってから進めたいと思っていた。
 私から貴族のオリビア嬢に婚約を申し込み、国王陛下が承諾すればおじさんの意思関係なく成立するがそれをしたくはなかった。物ではなく意思を持った人間なのだからおじさんの意見を尊重したい。

「婚約は強制するものではないと思っています。婚約の事も含め貴方の意見を聞かせてください。ルイに何か言われたのでしたら気にしないでください」

 満面の笑みを浮かべるルイを睨みつけて、再度おじさんの方を見た。彼は突然、女性になってしまい困惑しているはずであるのにルイはさまざまな事を依頼したようだ。

 彼が不憫でならない。

 立ち上がり、おじさんの側に行くと、テーブルの上に組まれた彼の手をそっと触れた。

「私は貴方の見方ですよ」

 私の言葉にルイが目を大きくする。それからすぐに怖い顔でおじさんを睨みつけた。おじさんの身体がビクリする。

「ルイ」

 私は低い声でルイを叱るように名前を呼んだ。するとルイは睨むのをやめたが口を固く結び眉間にシワをよせた不愉快そうな顔をした。

「殿下……」

 おじさんが小さな声で私を呼んだ後、何か言ったが聞き取ることができなかった。おじさんは下を向いており、震えているようにも見える。
やっぱりルイがおじさんを追い詰めているに違いないと思った。
 私はおじさんの言葉が聞こえるように身をかがめて顔を近づけた。すると、おじさんが更に何か言ったが聞き取れないためもっと側に寄ろうとすると手の平を見せられた。
 私は訳が分からずにその手の平を見た。

「殿下……近すぎます」

 今度もおじさんの声がはっきりと聞こえたが顔を上げてくれない。男の顔が近づき気持ち悪かったのかもしれない申し訳ないことをしたと思い顔をひいた。

「殿下は美しすぎます」

 今度ははっきりとおじさん言葉が聞き取れた。よく見ると微かにおじさんの顔は赤くなっていた。
 確かに、この顔は一目を惹くらしく茶会でも男女問わずよってくる者がいた。ルカはそれが苦手で逃げ回っていた。その中でもオリビア嬢はしつこく気持ち悪さを感じていた。
その彼女の気持ちが残っているのかと思ったがオリビア嬢がルカを見て頬を染めるとういうかわいらしい仕草をした記憶はない。

「恋愛対象が男性ではないのですが……」

 下を向いたままおじさんは言う。オリビア嬢の思いが残っているのならば仕方ないことだと思う。

「ルカ」

 私の名前を呼びながらルイは立ち上がると眉をひそめておじさんを睨みつけながら私の側へきた。おじさんは肩をすくめている。
ルイは私の手を引いて席に座らせられた。余りに強引な行動に驚いて抵抗するのを忘れてしまった。
 ルイは席に座ると私の顔をじっと見た。近い……。

「味方ってどういうこと」

 ルイはものすごく怒っているようである。
 なぜ怒られなければいけないのかさっぱりわからない。転生したばかりで不安な人間をルイは脅して思い通りにしようとしたのだ。味方するに決まっている。

「ルカはオリビア嬢に怒っていたよね」

 ルイの言葉に力がはいる。何をそんなに熱くなっているのか理解できない。おじさんに怒っていたのは性別による固定概念を押し付けてきたからだ。それは謝罪してくれたのでとくに気にしてはいない。
 私もカッとなってしまったと思っている。
 あ……もしかして、あの謝罪もルイが脅した結果発した言葉なの……。

「あの謝罪はルイが言わせたの」

 無理にさせた謝罪など無価値だ。その事をルイに注意しようとしたところで「違います」と声が上がった。

声の主はおじさんである。
 私は出そうになった言葉をしまい、おじさんの方をみた。ルイも目を大きくして私と同じ方向をみている。

「謝罪が独断で行ったことです」

 おじさんは顔を上げた、その顔はまだ赤みを帯びていた。眉を下げ、頬を桃色に染めるオリビア嬢の顔は可愛く思えた。彼女の眉はいつも吊り上がっていたためキツイ印象だった。しかし元はキレイな顔をしていることに今気づいた。

「ルイ第一王子殿下に依頼されたのは従者の対応と婚約の件です」

 おじさんは胸に手あて深呼吸をした。すると次第に顔の赤みがひいていった。

「でも、以前より控えめではありませんか。一人称も変わっていますし、婚約も承諾するのですよね」

「言葉遣いは本を読んでこの環境にふさわしいものを選んだだけです。それと婚約はルイ第一王子殿下との契約です」

 契約?
 私は勢いよくルイの顔を見た。ルイはニコリとほほ笑んでいる。
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