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性に対する固定概念
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おじさんは随分と潔癖で羞恥心が強い人間だと感じた。男なんて室内なら裸で歩き回るものだと思っていた。前世の父は真夏になると必ず、服を着ないと外に出られない事を嫌そうに話していた。男は排泄だって路上でしているではないか。
きっとおじさんは育ちが良いのだろう。
私としては男になり女の煩わしさから解放されて良かったと思っている。しかし、おじさんにとって女になった事はマイナスなのかもしれない。
「庭の池って……外で裸になるのですか」
私の言葉におじさんの心が離れた気がした。なんとも言えない顔で私を見ている。悪いことはしていないはずであるが居心地の悪さを感じる。ルイも同じように浴びていると伝えたが彼は心身共に男性だと言われてしまった。更に男であるルイと一緒に裸になることを指摘してきた。私が女であるならばその通りなのが……。
「排泄の件は我慢してください。衛生設備は外に比べて城はいい方ですよ。風呂は明日手配します」
おじさんの男女に対する固定概念に煩わしさを感じた。だから早口で要件を言い椅子から立ち上がった。そして、挨拶をすると退室をした。おじさんは唖然としていたようであり、ルイは慌てておじさんに挨拶をすると私の後を追ってきた。
部屋を出ても、苛立ちがおさまらず早足でそのまま王族専用の演習場に向かう。体を動かせはスッキリすると思った。いつも通りルイもついて来ているようであるが表情までは分からない。困惑しているのだろうか。呆れているのだろう。
演習場に着くとすぐに剣を抜き、素振りを開始した。
「そんなに苛立つなら僕が相手しようか」
ルイが呆れたような声で誘ってきたので断ろうとした。今は一人にしてほしいと思ったのだが、ルイは私の答えを聞かずに切りかかってきた。すぐさま自分の剣を横に曲げ、真上から降ろされるルイの剣を受ける。
「——っ!!」
ルイから殺気を感じた。ゾクリと悪寒が走る。剣越しの彼は笑っているが本気らしい。
私はルイの剣を弾き飛ばすとそのまま後方に飛び体勢を立て直す。ルイも同じ様に後方に飛んだが着地すると同時に地面を蹴り、すぐに私に向かってきた。
息つく暇もない。
ルイの剣を受けるばかりになってしまっていることに焦りを感じた。剣を持つ手が汗ばむ。ルイの剣は重い。そのためこのままでは押されると思い、しゃがみ込むとルイの太ももあたりを目がけて切り込んだ。
「わぉっ‼」
声を上げながら私の剣を避けるために飛び上がった。そのまま後方に回転したので私は素早くルイの着地する位置に移動する。ルイが着地すると背後から思いっきり蹴る。すると声を上げてそのままルイは地面に倒れて両手をついた。そして上半身ねじり振り向くと私を見た。
私は彼の首あたりに自分の剣の先端を向けた。
息切れがする。本当に一瞬のできごとだった。気を抜いたら殺させるかと思った。まだやるのかとルイを睨むと「まいった」と剣から手を離した。
ルイの殺気がなくなっていたので安堵して自分の剣をしまった。そして私が息を整えている間にルイは立ち上がり剣をしまった。
「負けちゃったね」
ちっとも悔しそうにしていない。ルイに勝つのは今回が初めてであるが嬉しいという気持ちは全くない。いまのは、完全に不意打ちだ。いや、違う。思いもよらないところから攻撃をしかけたのはルイである。つまり実力でルイに勝てたことになる。しかし……。
「それは私の力じゃないよ」
男の体を鍛えたから勝てたのだ。私の力ではない。おじさんと話していて、女なのだと言われて気持ちが沈む。ルイの事が見られずに地面を見る。さっき、戦った後が地面にくっきりとついていた。ルカの素晴らしい身のこなしだと思う。
突然両肩をつかまれ、驚き顔を上げる。そこには眉を下げたルイの顔があった。夕陽を浴びた彼の顔は相変わらず美しいと思った。
「僕に勝てたのはルカと君の力だよ。確かに体はルカだけど今は君あってのルカだ」
初めてルカの中の私が呼ばれた事に驚愕した。ルカと私は同じだと思うことにしたのだけど、おじさんに性別を指摘されてやっぱり違うのではないかと不安に思ってしまったのだ。ルイにその思いを素直に話した。するとルイは笑いながら“今の私が好き”だと言ってくれた。
「この数ヶ月、常に一緒にいたのは僕でオリビア嬢でないよ。オリビア嬢なんかの言うことを気にする必要はない。僕に勝てたのも君の努力の証だよ」
そう言いながら優しく肩をたたかれた。確かにそうだと思う。他者のアドバイスは参考にすべきであるがそれで気に病んでは前に進めないのでは本末転倒だ。進むために支援してくれる人を信じていこうと思った。
きっとおじさんは育ちが良いのだろう。
私としては男になり女の煩わしさから解放されて良かったと思っている。しかし、おじさんにとって女になった事はマイナスなのかもしれない。
「庭の池って……外で裸になるのですか」
私の言葉におじさんの心が離れた気がした。なんとも言えない顔で私を見ている。悪いことはしていないはずであるが居心地の悪さを感じる。ルイも同じように浴びていると伝えたが彼は心身共に男性だと言われてしまった。更に男であるルイと一緒に裸になることを指摘してきた。私が女であるならばその通りなのが……。
「排泄の件は我慢してください。衛生設備は外に比べて城はいい方ですよ。風呂は明日手配します」
おじさんの男女に対する固定概念に煩わしさを感じた。だから早口で要件を言い椅子から立ち上がった。そして、挨拶をすると退室をした。おじさんは唖然としていたようであり、ルイは慌てておじさんに挨拶をすると私の後を追ってきた。
部屋を出ても、苛立ちがおさまらず早足でそのまま王族専用の演習場に向かう。体を動かせはスッキリすると思った。いつも通りルイもついて来ているようであるが表情までは分からない。困惑しているのだろうか。呆れているのだろう。
演習場に着くとすぐに剣を抜き、素振りを開始した。
「そんなに苛立つなら僕が相手しようか」
ルイが呆れたような声で誘ってきたので断ろうとした。今は一人にしてほしいと思ったのだが、ルイは私の答えを聞かずに切りかかってきた。すぐさま自分の剣を横に曲げ、真上から降ろされるルイの剣を受ける。
「——っ!!」
ルイから殺気を感じた。ゾクリと悪寒が走る。剣越しの彼は笑っているが本気らしい。
私はルイの剣を弾き飛ばすとそのまま後方に飛び体勢を立て直す。ルイも同じ様に後方に飛んだが着地すると同時に地面を蹴り、すぐに私に向かってきた。
息つく暇もない。
ルイの剣を受けるばかりになってしまっていることに焦りを感じた。剣を持つ手が汗ばむ。ルイの剣は重い。そのためこのままでは押されると思い、しゃがみ込むとルイの太ももあたりを目がけて切り込んだ。
「わぉっ‼」
声を上げながら私の剣を避けるために飛び上がった。そのまま後方に回転したので私は素早くルイの着地する位置に移動する。ルイが着地すると背後から思いっきり蹴る。すると声を上げてそのままルイは地面に倒れて両手をついた。そして上半身ねじり振り向くと私を見た。
私は彼の首あたりに自分の剣の先端を向けた。
息切れがする。本当に一瞬のできごとだった。気を抜いたら殺させるかと思った。まだやるのかとルイを睨むと「まいった」と剣から手を離した。
ルイの殺気がなくなっていたので安堵して自分の剣をしまった。そして私が息を整えている間にルイは立ち上がり剣をしまった。
「負けちゃったね」
ちっとも悔しそうにしていない。ルイに勝つのは今回が初めてであるが嬉しいという気持ちは全くない。いまのは、完全に不意打ちだ。いや、違う。思いもよらないところから攻撃をしかけたのはルイである。つまり実力でルイに勝てたことになる。しかし……。
「それは私の力じゃないよ」
男の体を鍛えたから勝てたのだ。私の力ではない。おじさんと話していて、女なのだと言われて気持ちが沈む。ルイの事が見られずに地面を見る。さっき、戦った後が地面にくっきりとついていた。ルカの素晴らしい身のこなしだと思う。
突然両肩をつかまれ、驚き顔を上げる。そこには眉を下げたルイの顔があった。夕陽を浴びた彼の顔は相変わらず美しいと思った。
「僕に勝てたのはルカと君の力だよ。確かに体はルカだけど今は君あってのルカだ」
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「この数ヶ月、常に一緒にいたのは僕でオリビア嬢でないよ。オリビア嬢なんかの言うことを気にする必要はない。僕に勝てたのも君の努力の証だよ」
そう言いながら優しく肩をたたかれた。確かにそうだと思う。他者のアドバイスは参考にすべきであるがそれで気に病んでは前に進めないのでは本末転倒だ。進むために支援してくれる人を信じていこうと思った。
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