59 / 146
症状
しおりを挟む
食事をしながら更に私の症状についてルイと話をしたが改善方法が全く思いつかなかった。出口の見えないトンネルに入ってしまったようで落ち込む。気持ちが落ちているが食欲は落ちない。テーブルに並べられた料理のいい香りに誘われ次々と手をのばしていった。
本来は侍女がいて、1皿ずつ出してくれる。しかし今は不在である。そのためそれをやると何度も席を立たなくてはならないので今回は全ての料理をテーブルに並べた。
大きな皿に少しの料理がきれいな盛り付けてある。それを全て並べたからテーブルにはナイフを置く隙間もなくなってしまった。
本当はこういう食事の方が好きだ。しかし、いつもの夕食は周囲の目があるためマナーに従って食べている。
汚くはないが優雅ではない約私の食べ方にルイは特に何も言わない。
気を遣わずに人と食べるっていいなと思う。
「あのさ、まずは発症してもすぐに抑えられるようにすればいいじゃないかな」
私と違い、ゆっくりと食事を勧めていたルイが手をとめた。
ニコリと笑い妙案を思いついたような顔をしている。
持っていたナイフとフォークを音がしないように丁寧に置くと私の方を見た。私はルイのその言葉に期待して食事の手をとめ、口に合った物を飲み込んだ。
「発症から落ち着くまでどれくらいかかるの?」
「多分数分かな。体感時間は何時間もだけどね」
頷きながら食器を見るとルイは食べ終わった皿を重ね、その上にナイフとフォークを置いた。ルイの前だけ何もなくなるとそこに肘をついて手を口に当てる。そして私の瞳を覗きこんだ。
「発症が落ち着いた時の共通点とか思い当たることがある」
記憶をたどると自然と眉間にシワが寄った。視線を落とすとそこにはさっきまで食べていた食事があった。さっきまではおいしそうであったのに今は何も感じない。膝の上に置かれた手に力が入る。
症状を話す時は問題がなかった。しかし、その時の事を鮮明に思い出すと彼女に行き着く。
「大丈夫」
ガタッ
突然、椅子が倒れる音がしたかと思ったら、暖かいものに包まれた。
ルイに抱きしめられたのである。その途端に体の力が抜けていくのを感じた。
そのままルイの肩に顔をつける。
「ごめん。急ぎすぎたね」
ルイの声、ルイの匂い、ルイの体温…。ルイのすべてが私を心を穏やかにしてくれる。ずっとこうしていたいくらいルイの腕の中は心地よかった。
しばらくそうしていた。それから…。
ルイ?
「ルイだ」
私の大声にルイがビクリと体を震わせた。抱きしめられているから彼の驚きが私にダイレクトに伝わってきた。それでも私を離さないルイの優しさに心が安らぐ。
大声を出してしまった事を謝罪しながらルイの体を押した。するとルイは私から心配そうに離れる。
「大丈夫。座って。あのさ私気づいたんだよ」
私が笑顔を見せるとルイは安心したように自分の椅子へ向かった。倒れた椅子をゆっくり起こすとそれに座るなり私の方を見た。私は椅子に座りなおすとルイの方をしっかりと見た。さっき違い体が軽い。
「私ルイのおかげで落ち着けるのだと思う」
私の発言の意図が理解できないようで眉をよせて、不可解な面もちをしている。私は先が見えない暗いトンネルから抜けられる気がした。
食事前の暗い気持ちがウソのようである。
本来は侍女がいて、1皿ずつ出してくれる。しかし今は不在である。そのためそれをやると何度も席を立たなくてはならないので今回は全ての料理をテーブルに並べた。
大きな皿に少しの料理がきれいな盛り付けてある。それを全て並べたからテーブルにはナイフを置く隙間もなくなってしまった。
本当はこういう食事の方が好きだ。しかし、いつもの夕食は周囲の目があるためマナーに従って食べている。
汚くはないが優雅ではない約私の食べ方にルイは特に何も言わない。
気を遣わずに人と食べるっていいなと思う。
「あのさ、まずは発症してもすぐに抑えられるようにすればいいじゃないかな」
私と違い、ゆっくりと食事を勧めていたルイが手をとめた。
ニコリと笑い妙案を思いついたような顔をしている。
持っていたナイフとフォークを音がしないように丁寧に置くと私の方を見た。私はルイのその言葉に期待して食事の手をとめ、口に合った物を飲み込んだ。
「発症から落ち着くまでどれくらいかかるの?」
「多分数分かな。体感時間は何時間もだけどね」
頷きながら食器を見るとルイは食べ終わった皿を重ね、その上にナイフとフォークを置いた。ルイの前だけ何もなくなるとそこに肘をついて手を口に当てる。そして私の瞳を覗きこんだ。
「発症が落ち着いた時の共通点とか思い当たることがある」
記憶をたどると自然と眉間にシワが寄った。視線を落とすとそこにはさっきまで食べていた食事があった。さっきまではおいしそうであったのに今は何も感じない。膝の上に置かれた手に力が入る。
症状を話す時は問題がなかった。しかし、その時の事を鮮明に思い出すと彼女に行き着く。
「大丈夫」
ガタッ
突然、椅子が倒れる音がしたかと思ったら、暖かいものに包まれた。
ルイに抱きしめられたのである。その途端に体の力が抜けていくのを感じた。
そのままルイの肩に顔をつける。
「ごめん。急ぎすぎたね」
ルイの声、ルイの匂い、ルイの体温…。ルイのすべてが私を心を穏やかにしてくれる。ずっとこうしていたいくらいルイの腕の中は心地よかった。
しばらくそうしていた。それから…。
ルイ?
「ルイだ」
私の大声にルイがビクリと体を震わせた。抱きしめられているから彼の驚きが私にダイレクトに伝わってきた。それでも私を離さないルイの優しさに心が安らぐ。
大声を出してしまった事を謝罪しながらルイの体を押した。するとルイは私から心配そうに離れる。
「大丈夫。座って。あのさ私気づいたんだよ」
私が笑顔を見せるとルイは安心したように自分の椅子へ向かった。倒れた椅子をゆっくり起こすとそれに座るなり私の方を見た。私は椅子に座りなおすとルイの方をしっかりと見た。さっき違い体が軽い。
「私ルイのおかげで落ち着けるのだと思う」
私の発言の意図が理解できないようで眉をよせて、不可解な面もちをしている。私は先が見えない暗いトンネルから抜けられる気がした。
食事前の暗い気持ちがウソのようである。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる