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自室に入りと違和感をあった。床に敷かれたカーペットの毛並みの方向が変わっている。椅子が若干移動しているように見える。
リチャードは隣接している衣裳部屋を開けた。一番奥の方に不自然な隙間があった。そこには着られなくなったスーツが置いてあった。
「あの子か」
彼女は黙って、服を持っていく。言えばいくらでも上げると言っても黙って持って行くので最近は諦めている。
リチャードはジャケットを脱ぐと、ソファに座った。
そのまま眠っていた様で、窓から差し込む光で目を覚ました。
窓の外から金属音が聞こえた。
気になり覗いて見ると、カトリーナが王太子エドワードの側近マルスと打ち合いをしている。
「こんな、朝早くから……」
そう思ったが、すぐに考えを改めた。王太子の婚約者、つまり未来の王妃には王妃教育がある。他にも勉学やマナーなど日中は忙しい。カトリーナが好む剣術や馬術をやるには睡眠時間を削るしかない。
最近は、使用人も彼女のその行動に慣れたが幼い頃は『いなくなった』と大騒ぎしていた。いなくなったカトリーナを見つけるのは必ずアルベルトだった事を思い出し懐かしくなった。
「――ッ」
彼女は、アルスの剣を落させた。彼が本気でないとしても十二歳の子どもが成人した男性の持っている剣を落すなんてありえない事だ。しかも、相手は訓練をしいている騎士だ。
リチャードはカトリーナに勝てないかもしれないと焦りを感じた。
騎士ではないリチャードはある程度の剣術ができればいいのだが、妹も見ているとそれではいけないような気になった。
リチャードは着替えをすると、中庭に出て行った。
「ケイト」
リチャードが、カトリーナを幼い時と同様、愛称で呼ぶと彼女は「お兄……」と目を大きくした。
「以前、会ったのがいつだったか……」カトリーナは眉を寄せた。「身長が伸びました?」
「ケイト……」
 後、数年で三十になる自分の身長が伸びる訳がない。完全に嫌味だ。
しばらく留守にした事に罪悪感を持ち、眉を下げるとカトリーナに剣を投げつけられた。それを慌てて受けとると、彼女はニヤリと笑った。
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