上 下
60 / 73

第59話 受験生にクリスマスはない

しおりを挟む
ローテーブルで勉強することに慣れ、今まで勉強していた机は棚と化していた。憲貞がいなくなっても、いなかった以前と同じ気持ちではない。しかし、感傷に浸っている暇などなくひたすら勉強した。
憲貞を気にしなくなった分、勉強がはかどっている。それに自分の弱さを感じた

自室の扉を叩く音がして返事をすると、珍しく母が入ってきた。

「入試なんだけど、幕中と快晴中? あと、桜華だよね?」
「はい」

そろそろ聞かれる頃だと思っていた。
ローテーブルに広げていたテキストをどかして、白い紙を置いた。母は座布団に座りその紙を覗き込んだ。

「まず、1月は千葉の幕中と帝東大学帝東を受けます。それから2月1日に快晴中、2日と4日に桜華です。よろしくお願いいたします」と言いながら紙にサラサラと学校名と日付を書いた。

「それだけ?」
「はい。桜華は特待を取りたいので2回チャンスをください」

即答すると、母は不安そうな顔をして唸ったが「そうか」と言って部屋を出て行った。

偏差値の高い学校のみを受ける事に不安がないわけではない。テストで合格確率80%が出ている学校でも確実ではない。20%は落ちるわけなのだから当然だ。

合格率80%を超える桜花も特待Sを狙うなら、安心はできない。

「勉強するしかない」

貴也は鉛筆を強く握った。その時カレンダーが目に入った。12月の2週目の日曜日に赤く丸を付けた。

最後の志望校判定のテストだ。

そこで、偏差値が上がらなくても志望校を変更するつもりはなかった。だからこのテストは志望校の最終確認というより自分の理解できていない分野を炙り出すために受ける。

気合を入れ、再カレンダーを見てため息がでた。もとから派手に印がついている日がある。

小学校低学年までは祖母が自宅に来てお祝いをしてくれたが亡くなってからは平日と変わらなくなった。最初は寂しさを感じたが通塾するようになると気にならなくなった。

学校では話題になっていた。小学校6年になると恋人という関係を築く者もいる。彼らは日中だが一緒に過ごすようだ。

「ねぇ、江本君」
「なに?」
「あのね、クリスマスパーティーやるんだけど来ない?」

よく話しかけ来るツインテールの女子が、甘い声で誘ってきた。

「ちょっと、貴也君は受験あるし無理言っちゃだめよ」おかっぱの女子が割り込んできた。
「なんで、名前で呼んでいるのよ」
「あ、私、男子みんな名前で呼んでいるから、癖で」ペロリと舌を出すと貴也のほうに甘い視線を送った「ねぇ、もう名前で呼んでいいよね」
「なんでもいいよ」にこりと笑顔を向けるとおかっぱの女子は嬉しそうに笑った。

すると、他の女子も呼びたがったので全員に許可を出した。

「それで? クリスマスなんだけど」再度誘うおうとするツインテールをおかっぱが「ダメよ」と言って止めた。彼女はツインテールと話しているはずだが、よく目があう。

アピールであることは痛いほどわかったが面倒くさくて机につっぷした。すると、すぐに入眠することはできた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...