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第22話 和也の父

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外から光が入らなくなり電気が必要た頃、和也が自室で転がり漫画を読んでいた。すると、部屋の外でドスドスと言う足音が聞こえ、その音は扉の前で止まった。和也は慌てて漫画を座布団の下に隠して起き上るとローテーブルに広げている課題に向かった。

「カズ」

母の声が聞こえると自室の扉が開かれ和也はドキリとした。

「やってるの?」
「やってる、やってるって」
「大丈夫なの?」
「平気、平気」

口うるさく言う母がウザくなり、和也は適当にあしらおうとした。すると、「ちょっと見せて」と言って和也がやっていたテキストを奪われた。
真っ白なテキストを見て母は鬼のような形相になった。

「やってないじゃない。いい加減にしなさい」
「うるせーな。やってるって」
「やるやるって口ばかり」

母の大きな声にイラついて、和也は「やめた」っと言い鉛筆を母に投げつけると部屋をでた。部屋の中から自分の名前を呼ぶ母の声が聞こえたが無視した。

その時「にぃたん?」足元で可愛らしい声がした。丁度部屋の前をテトテト歩いていた佐和子だ。和也は彼女を見るなりだらしない顔で名前を呼んだ。

「佐和子」

猫なで声で呼ぶと、愛らしい妹は嬉しそうに和也の足にくっつくと両手を上げて抱っこを求めた。和也はまた佐和子の名前を呼びながら抱きしめた。

「にぃたん、おこ?」
「おこじゃないよう。佐和子」

佐和子をぎゅっと抱きしめると、頬に何度もキスをした。すると「あはは、ちゅーねぇ」と佐和子は大喜びした。

「さわちゃんね。おとーと“おぶ”なの。いっしょする?」
「オヤジとかぁ」

佐和子とのお風呂は魅力的だったが、そこに父が入るとなると躊躇した。

「兄ちゃんと二人で入ろうよ」
「いーよ。いってくる」

ポンと佐和子は床に降りると、トテトテと歩き出した。和也は彼女を追ってリビングに行くと父がソファで新聞を読んでいた。彼は佐和子を見つけるとすぐに新聞をたたみ横に置いた。

「おとー」
「なんだい?」

目の前にきた佐和子に父はデレデレとしながら甘い声を出して抱き上げて、頬にキスをした。

「さわちゃん、にぃたんと“おぶ”するよ。おとーばいばい」
「―ッ」

父は目を見開き、佐和子の事を無言で10秒以上見た後世の終わりような顔した。彼の周囲が一気に真っ暗になった。

「さ、さわちゃんなんで」

目に涙を浮かべる父に佐和子は「にぃちゃんのがもちゃもちゃしてなくていいから」と言って父の股間を指さした。その瞬間、和也の顔は真っ赤になった。

「さわちゃん、カズのココは何もないのかい?」
「もちゃもちゃのこと? ないよー。ツルツル」

和也は恥ずかしくて二人の会話が来ていられなくなった時、バシンと大きな音がした。

「何、バカな事言ってるの」

母が父の頭を思いっきり叩いた。この瞬間だけは母に感謝した。

「全く。佐和子、お母さんと入るよ」
「あーい」
「え、さわちゃん。お母さんもちゃもちゃでしょ」
「おかーはいい。好きだから」

そう言うとすぐに父から離れて、彼の後ろにいた母に抱きついた。

「そんな」
「それより、カズの勉強見てよ。この全くやらないのよ」

佐和子を抱き上げながら、強い口調でいうと父は「やだよー」とへらへらと笑った。

「なんでよ。あなた、元塾講師でしょ。今だってオンラインで生徒に教えてるじゃない。息子見てくれたっていいでしょ」

母の強い口調に、父は変わらずやる気のない顔して笑っている。和也はその顔がムカついて色々言いたかったが今何か言葉を言うと母から攻撃をくらいそうで黙っていた。

「息子だから。私情がはいるもん。塾と君にまかせるよ」
「でも、あなた快晴中卒じゃない。首都圏トップクラスの学校でしょ」
「え―……、カズはさ。勉強したいの? 難関校行くと勉強ばかりだよ?」

父がいきなり和也に話を振ったので驚いたが、素直に「したくない」と答えた。すると父にニンマリして母を見た。

「でも、ほら、いい学校の方が将来が開けて親に感謝する日が来るわよ」
「いい学校、いい学校、どうでもいい学校なーんてね。難関校いって国立でても僕はそんなに親に感謝してない。男子校だから、パイが恋しかった」

自分を胸を揉みながらゲラゲラと笑う父を母は嫌な顔で睨みつけた。父は頭がイイ、なんでも塾講師を辞めたか分からないがそこでも優秀な講師だったと母が言っていた。

「カズもチンよりパイがいいよな」
「そりゃ」

父の意見に同意した。
男より女の子がいいのは当たり前だと思った。その時、女子に囲まれてすました顔をした貴也を思い出した。

(アイツあんなにモテるのに平気な顔して。いつも、いつも、ニコニコ笑いやがって……。いや違うか。あの時……)

和也憲貞の手の傷から出血した時の事を思い出した。あの時、憲貞は倒れ貴也の指示で大人を呼びに行った。戻ってくると貴也は泣きながら誰かに電話していた。

憲貞はすぐに意識を取り戻した。大人は心配したが憲貞は「自分でひっかいただけ」と言って穏やかに笑っていた。だから、本当の理由を言おうとすると「ダメだ」と貴也に口を抑えられた。真っ赤に腫れた目の彼の顔を見ると何も言えなくなった。

その後、授業を受けた。
塾から帰ろうとすると、貴也と憲貞、それに二人の母らしき人がいて何やら話していたが内容はよく分からなかった。

「もう、お風呂に行きます」

母の怒った声がして頭をあげると、佐和子が“バイバイ”と手を振っていた。それに返事をしながらしょぼくれている父がいた。

話を全く聞いていなったが何があったか予想がついた。

「学校なんて行きたいとこに行けばいいよね?」
「……まぁ」
「カズは行きたい所があるから中学受験するの?」
「……ないけど」

(なんで中学受験しようと思っただっけ。あぁ、なんかのパンフレットに可愛い子がいたからなんとなくだ。後は母さんが進めたら……)

「これからヤバイきつくなるよ。母さんさ、自習室に行かないだけで学校に迎えに行くじゃん? アレ以上になるかもよ」
「それは……」

塾の自習室に勉強しに行くという約束をさぼり、学校でサッカーをしていると鬼になった母が現れたのを思い出した。

「僕はさ。カズの好きにしていいと思っている。カズが本気でやりたくて分からない問題があるなら教えるよ。僕もこと塾講師してでもいいし、人生経験者としてでもいい。カズが生きやすいように利用してもらっていいよ。あ、お金はダメだよ。それ全部母さんの管理下にあるから」

父は手でお金を示す丸を作り笑った。和也は困った顔のまま愛想笑いを浮かべ「あぁ」とだけ返事をした。いつもふざけて下ネタを連発するのに時々真面目になると戸惑う。

「あのさ……」
「うん?」
「いや……」

憲貞の事を話そうとかと思ったがそれは勝手に言って良い物か迷ったため口を閉じて考えなおした。

「オヤジが、塾講師時代に手を傷つけてる奴いた?」
「……自分でかな?」穏やかに笑っていたが、目が真剣そのものであった。
「……わかんない、けど」
「ふーん、中学受験は諸刃の剣だからね。使い方間違えると痛い思いをするのは事実だよね。なに? その子はカズに助けを求めてるの?」
「いや……そうじゃねぇけど……って、ちげーよ。オヤジの勤めてた塾にいたかって話だよ」

父が嬉しそうにするのが気に入らなかったが話を聞きたかったためもっと文句を言いたい気持ちをグッと抑えた。

「あぁ、そうだったね。傷がある子はいたよ。それが自分でか他者なのかはわからないけどね」
「その子どうなった?」
「来なくなったり、普通に受験してどこかに受かったりしたよ。他の子どもと変わらないよ」
「……そうか」

ヒントになるかと期待した分、思った答えが返ってこなくてガッカリした。

「塾講師なんてそんなもんだよ。辞められたら困るから相談されない限り家庭には口を出さないし辞めた子に対しては無関係になる」
「……」
「だからさ。友だちは大切だよね」
「……」

何も返せずにじっと父を見ていると、ニンマリと笑った。嫌な予感がして和也は一歩下がったが父に手を掴まれると引き寄せらた。

抵抗したが、成人男性の力には勝てるはずもなく、抱きしめられた。

「やめ……」
「勇気の出るおまじないをしてあげよう」

そう言うと父は頬に唇をくっつけた。チューっという音がした。それが嫌で全身で抵抗するが離れることができない。

「元気出たか?」
「むしろ、なくなった」
「そうか、ならもっとしよう」

嬉しそうに父は言うと何度も音を立てて口を頬につけてきた。いくら抵抗しても無駄なことがわかり全身の力を抜いた。

「なぁにちてるの?」

お風呂を上がった佐和子が首を傾げなら、父と和也を見ていた。

「さわちゃん」

父はデレデレ顔をくずしながら名前を呼んだ。すると、彼の力が抜けたのでするりと抜け出して四つん這いで佐和子に元にいった。

「にぃたん、チュウ? さわちゃんもすゆ」

佐和子は自分に近づいた兄の顔を持つと、頬に口づけをした。音もなく触れるだけのそれに和也は幸せを感じた。

「さわちゃん、なんで? おとーにチュウは?」
「なぁい。にぃたんのイヤしてるのに、した。ばつ」

大きく手でバッテンを作り、父に見せると彼は目に涙を浮かべた。父は佐和子の名前を何度も呼んだが彼女は無視して和也の頭をなぜた。

「にぃたん、かわいそーね」
「佐和子」

佐和子を思いっきり抱きしめてしめた。すると佐和子「きゃー」っと声を上げて喜んだが、すぐに考えこむような顔をして和也の瞳を覗き込んだ。

「にぃたん、いいこだけど、ちょっとバツ」
「え? なんで?」

バツと言われて和也は動揺した。可愛い妹にダメ出しをされるのは何よりも辛かった。

「おかー、おぶで、かなしいしてた。おかーにやさちく、ちて」
「……うん、ごめん」

素直に謝ると佐和子はニンマリと笑い「いいこ」と頭をなぜた。それはとても嬉しかったのだが、佐和子のニンマリ笑う表情が父にそっくりであったため素直に喜びずらかった。

「お風呂入って勉強するよ」

佐和子を離し立ち上がると手を振って風呂に向かった。
風呂から出るとすぐに机に向かった。宿題は終わらせようとテキストを机の上に開いて数分後、睡魔が襲っていた。

戦うことなく敗北。

机に突っ伏しした。
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