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第17話 同居するという事
しおりを挟む日が沈みかかった事、空き教室で「そうですか……」と憲貞の母は困った顔をして、塾長と母を見た。貴也は母のすぐ隣にいたが彼女の目に入らなかったようだ。
「これは、かゆく自分でかいただけです」
包帯をまかれた手を抑えて憲貞は大人に訴えていた。誰が見ても母を庇ってるようにしか見えなかったが否定する者はいなかった。
貴也は“母親にやられた”と言いたかったが、本人が否定しているしそれを言ったところで状況が良くならないことは分かっていたため我慢した。
「貴也は憲貞君と仲が良いようですから春休み期間、家で預かりましょう。貴也が勉強を教えるのよね?」
母が自分の方を見たので力強く頷いた。
「ええ、とても親しくしております。勉強会の話が出ていたのでちょうどいいかと思います」
満面の笑みを大人に向けた。
「そうですか? でも……、お邪魔ではありませんか?」
「いいえ。教えることで僕も勉強になりますから。春季講習最後のテストは必ず偏差値上げて見せますよ」
「そうですか。そんなにいうなら……」
母が事前に話を通していたこともあり、貴也への意思確認で話が終わり、塾長は安心してその場から離れた。
その日から憲貞は貴也の家に住むことになった。最初は遠慮するような事を言っていたが内心、母から離れたかったようで嬉しそうにしていた。
自宅に着き、憲貞が風呂に入っているタイミングで母に呼ばれた。
「貴也が望んだことだから、面倒みなさいよ」
そう言うと集めの封筒を渡してきた。それがなんだかわからず首を傾げながら受け取り中身を確認すると硬直した。
「なにこれ?」
「金」
「それは分かるよ。そうじゃなくてくれる意味だよ」
「あぁ、天王寺さんからもらった。憲貞君の世話代だって、世話するのは貴也だから渡すよ。言っとくけど、自分と同じ生活させちゃいけないよ」
母は貴也が手に持っているゼリータイプの栄養ドリンクを指さした。貴也は気まずくそれを持っている手に力が入った。
「そして、睡眠時間。私は貴也がやっていることだが何も言わなかったけど憲貞君がいるなら話は別。貴也みたいに不健康な生活を強いちゃダメだよ。彼の健康を守るのも貴也の義務だよ」
「……」
「人を預かる意味ちゃんと考えなよ」
母の言葉が貴也の胸に突き刺さた。彼女の言ってることは正しいため何も言い返せなかった。
「それと、勘違いしているとアレだから言うね。私は別に御三家に行けって言ってないよ。私は貴也よりも頭も要領も良かったからこの時期から合格率80%あったっていう自慢話をしただけ。貴也の第一志望にする必要はないよ」
「へ?」
彼女の言葉に拍子抜けした。よく考えれば母に“どこの学校にいけ”と言われたことはなかった。
(第一志望をあそこにしたのは……、塾で言われたなんとなくか)
「でも、この前の模試の結果に赤丸がつけてあったよ」
「あぁ、あそこに行きたいなら大変だなと思って丸つけて過去問置いたんだよ。参考になればいいかなって思ってさ」
「……」
母とあまり話してこなかった自分を悔いた。劣等感から避けて彼女の考えを決めつけていた。
「好きしたらいい。私は優秀だから金は沢山ある何も気にする必要はないよ。ただ、自分の言動には責任を持ちなよ」
母は貴也が持っている封筒を指さした。
「それは天王寺さんから頂いた金額全部だよ。頼み込んできたのは貴也だ。まかせるよ。後、今日は予想外に塾に呼び出されたから夕食ないよ。何とかしてね」
そう言って母はもう一つ封筒を渡してきた。そこには憲貞の封筒よりは少ないがお金が入ってた。
母は「それ貴也の」とそれだけ言うと自室に行ってしまった。貴也は大金を握りしめて立ち尽くした。
軽い気持ちで憲貞を自宅に招いたわけではないが、自分の生活スタイルを変えるつもりはなかった。
(考え方が甘かったね)
テーブルを見るとそこにはいつもある食事はなかった。
貴也は覚悟を決めると、コンビニに走った。最初は弁当売り場に来たが母の言葉を思い出し食材の方を見た。
野菜を手にとって見たが調理方法が分からなかった。
(いきなりは無理だよね)
ため息をついて、健康によさそうな惣菜を購入して帰宅した。
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