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第15話 憲貞の母

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日中は暖かくなくったが、夜風は肌寒かった。憲貞は自分の車の場所へゆっくりと向かった。運転手は憲貞を見つけると頭を下げて、車の後部座席の扉あけた。

「お帰りなさいませ」と言う運転手の挨拶に憲貞は返事をして車に乗り込んだ。

自宅に到着すると玄関に母が立っていた。それだけで、恐怖を感じた。

「お疲れ様。どうでしたか?」
「授業は理解できたと思います」

穏やかな笑顔で話かけてきた母に、憲貞は広角を上げて答えた。

「そうですか。よかったですわ。それは夕食と風呂を済ませたらすぐに部屋に行ってくださいね。そうですわね……。19時45分には自室行ってくださいね。1分でも遅れてはダメですよ」

母はそう言って去って行った。

時計の針は19時15分を指していた。

食堂には家政婦がいて、テーブルに食事が用意されていた。スープにサラダ、鳥の照り焼きにライスが綺麗にお皿に盛り付けられていた。

しかし、憲貞は食べる気になれなかった。

「また、食欲がありませんか?」

顔色の優れない憲貞が心配して声をかけた。彼は「いや、大丈夫です」と言って席に着いたが一切、手が動かない。

それを見て家政婦は2つおにぎりの乗った皿を憲貞の前に置いた。

「どうぞ」
「いつもすいません」

1つおにぎりを手に取ると口に運んだ。塩の味が口の中に広がった。それを食べ終わるとすぐに風呂に行きシャワーを浴びると出てきた。

19時47分。

慌てて着替えると頭も乾かさずに自室へ行った。

「2分遅刻。なんなんですその頭は? 乾かして来なかったですか?」
「すいません」

憲貞はクルリと進行方向反対を向き、外へでようとすると頭になにが当たった。それはヒラヒラと彼の足元に落ちた。

(紙……?)

「そんな時間、あるわけないですよね。さっさと勉強しなさい」

母の大きな声が響いた。その声が頭に響き耳を抑えたかったが、ソレをすると更に叱られるので我慢した。

机に向かい、勉強を始めると母は憲貞が塾に持って行っている鞄の中身をチェックし始めた。

「なんなのこの点数は? ひどすぎます。ココ、なんで解答しないのですか?」
「……」
「ちょっと、聞いているのですか?」

勉強の手を止めると、顔だけ母の方を向いて「すいません」と言った。すると、鬼のような形相になり憲貞を睨みつけた。

「なによそ見してるです? 終わったのですか?」
「いえ」
「だったらやって下さい。時間は? 計ってます?」

憲貞は「あっ」言って鞄からタイマーを出そうとするとピシと手を叩かれた。「言われないでも出してくれます?」と母は怒鳴りながら鞄からタイマーを出すと机の上に置いた。

返事をすると憲貞は座り直して、タイマーをかけた。その時、母に「2分で1問ですよ」と言わらたので返事をした。

「あーなにこれ、漢字テストですか? 漢字は覚えるだけなんだら満点取ってください」

問題文を読もうとする瞬間。
計算をしようとする瞬間。
解法を考えようとする瞬間。

母の声が頭に響いた。

「なんで、こんな問題2分でできないのですか?」
「やってますよ」
「やってます、やってますって真っ白じゃないですか」

激怒しながら母は、テキストをバンバンと叩き「さっさとやってください」と大きな声を出した。

「だから、話かけてくるから進まないですよ」
「だったらもう、辞めたらいいんじゃないですか?」

そう言って母は机にあったテキストを全て、ゴミ箱に入れた。

「なんなのですか? 口ごたえばかり、貴方にいくらかかってると思っているのですか? 名門の小学校に入れれば男子校御三家に入れると思ったのに……。男子はほとんどが御三家中学に行っているですよ。それなのに、内部進学しても中学で苦労するなんて言われて……。本当頑張って下さい」
「え……? 御三家って? 私は桜花中等部に進学するのではないのですか?」

目を大きくすると、母は鉛筆を持っていない方の手に爪を立てた。

「いっ」
「貴方は桜花に行くつもりだったのですか? 信じらません。そんなんで進学塾に通わせる訳ないじゃないですか。勿論御三家狙いですよ。さっさとクラス上げてください」

驚きのあまり憲貞は声が出なかった。

「何をしてるのですか? さっさとテキストを拾いやりなさい。本当に捨てますよ」
「……」
「返事」
「はい」

わざとらしく大きな声を出して、憲貞はテキストを拾った。すると母に「うるさいですわよ」と頭を叩かれた。

それから、母の監視下で勉強をした。途中、桜花や御三家の過去問をやらされたが1問も解くことができずに怒られた。

22時。

疲れがピークになり、ウトウトと船を漕ぎ始めた。すると、母の怒鳴り声が聞こえた。すぐ近くで言っているにに遠くの方で叫んでる気がした。
全く言葉がはいて来ない。

その時、左手に激痛が走った。

「ーッ」

目を開けると、母の爪が左手に食い込んで血が滲んでいた。

「寝ている場合じゃないですよね。貴方の偏差値いくつだと思っているのです? いい加減にしてください」

あまりに怒鳴られすぎて、外国語を話されているような感覚に陥った。そして、また眠くなった。

「いい加減にしてください」

強い衝撃を頭に感じて、思わず涙が出た。泣くと更にその衝撃が強くなったり、恐怖でその場から逃げてベットの中に入った。

「まだ、やることたくさんあるですよ」

頭から被ってる布団を取られそうになり必死で抑えた。布団の上からも何度も衝撃があったがそのうちなくなり部屋の電気が消えた。

涙でベットが冷たくなった。

勉強は嫌いじゃない。しかし、この状況に耐えられなかった。
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