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第6話 貴也の母

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学校から終わると、貴也はいつも通り、自宅に一度帰り鞄をかえてから塾に向かった。
今日は授業がないため自習室に行った。そこでふと気づいた。

(今日授業ないよね。なんで、叶の母親は“サボらせない”って言ったんだろう? 家庭教師?)

和也のことはすぐにどうでもよくなった。
自習室に入る最前列の隅の窓際に座っている憲貞を発見した。

迷ったが、憲貞の同じ最前列に座った。数席間にあるため彼は貴也に気づかず鉛筆をひたすら動かしていた。

そっと彼の顔を見て貴也はギョッとした。真っ青で目がうつろであったため思わず、憲貞に近づくと「大丈夫?」と声を掛けた。

憲貞に構えば、自分の勉強時間が減ることはわかっていたがほっとおけなかった。

「具合悪いだよね。誰か呼んでくるね」

そう言って、彼から離れようとすると腕を掴まれ首を振った。

「いや、だって具合悪いよね?」

何度、声を掛けでも憲貞は首をふるばかりだ。
貴也は仕方ない席に戻った。

(本人が平気だというなら仕方ない)

貴也は学習道具を机に出して、勉強をはじめたが憲貞の事が気になって仕方なかった。

チラシと彼の方を見ると、鉛筆の動きが止まっていた。身体が左右に揺れたかと思うとそのまま机突っ伏した。

(体調ではなく眠いだけ?)

見回りに来た講師に何度も起こされて、最後は自習室を出された。

貴也はため息をついて、勉強を続けると数分後に憲貞は戻ってきて勉強を始めた。今度は目が冴えたようで鉛筆の動きはとても早かった。

21時を過ぎたあたりで、貴也は帰宅の準備を始めた。
憲貞も帰る準備をしていたが、顔色が青い。

(やっぱり、家でなにかあるんだね)

憲貞はふらふらとしながら、自習室を出て行った。彼が出て行くのを見てから、貴也は自習室をでた。

塾ビルを出ると、子ども待つ親が多くいた。貴也の学年の授業はないが他学年の授業はある。

車に乗る憲貞が見えた。

(車で送迎か)

貴也は送迎の親たちの間を通り抜けて自宅に向かった。
帰宅すると部屋の電気がついて驚いた。貴也は靴を脱ぐと塾の鞄を背負ったまま、玄関にあったランドセルを持ってリビングに行った。

「おかえり」

母がソファーに座り、酒を飲み雑誌を見ながら貴也に声を掛けた。そんな彼女を見て貴也は顔を青くした。

「ねぇー、なんで第一志望の合格可能性が50パーセントなの?」
「すいません」

部屋の入り口に立ったまま、下を向いて小さな声で謝った。母は雑誌をペラペラとめくりながら話をし貴也に方を一切見ない。

「私も貴也の兄さんもこの時期からずっと80だったよ」
「はい」
「“はい”ってさ。まぁいいけど」
「すいません」
「頑張って。あ、ご飯テーブルの上にあるから」

貴也がテーブルを見るとそこには出来立ての夕食が置いてあった。貴也は返事をするとその皿を手に取り冷蔵庫に向かった。

「御三家の合格率の高いはネトワートじゃない? 今から転塾する?」
「……」

持っていた皿を冷蔵庫にそのまま入れるとゼリー状栄養ドリンクを取り出し飲み、その空を捨てる500mのペットボトルを出し一気飲みした。

「って、学校終わってからだとネトワートの授業間に合わないんだっけ」

酒を煽りながら、ぶつぶつとつぶやいている母を横目に貴也は自室に入った。ランドセルと鞄を置くと着替え持ちシャワーを浴びに部屋を出た。短時間でシャワーを終わらすと、机に着き勉強道具を出した。

鉛筆を持ったが、うまく持てずに手から転げ落ちた。
自分の右手が震えてることに気づくと左手で鉛筆を持ち振り上げると右手の甲を刺した。

「うぅ……」

芯が刺さり、そこから出血したが震えは止まった。近くにあったティッシュで血を拭き取るとバンソーコーを貼った。

(何も考えるな、感じな。時間の無駄。時間の無駄)

右手で鉛筆を持つと、テキストを開いた。そして大きく深呼吸をして鉛筆を動かしたその瞬間、手の痛みを感じたが集中することで忘れることができた。

キリのいいところまで終わると、鉛筆を投げるようにテキスト上に置いて時計を見た。

22時34分

大体予定通りであったため、貴也は片付けをしてベットに入った。リビングの方でテレビの音がして気になったが布団を頭からかぶるとすぐに意識が遠のいた。
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