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65限目 功績

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 翌日。

 集中していたはずであったが、日舞の稽古では師匠に“心配ごとがあるのか”と聞かれた。うまく誤魔化したつもりであったが、師匠の目を見るとバレているような気がした。
 彼女は昔からレイラの心の動きを敏感に感じとが、深くは追求することはなかった。

 手に汗を握る思いで稽古場を後にして自宅へ戻り、昼食を食べると、すぐにリョウの部屋の向かった。
 リョウは部屋の前におり、レイラの姿を見ると挨拶をしてから足を進めた。

「港さんの運転で行きます」

 リョウは自分の運転手を指名した。レイラは特に否定する理由がなかったため承諾した。

 はじめはリョウの後をついて歩いたレイラであったが早く知りたいという思いが強くなり、車への足が早くなりリョウを抜かしそうになった。
 すると、彼は苦笑しながら、レイラの足の速さに合わせた。

 レイラの頭の中は、今回の事件のことでいっぱいであり、車の中でリョウは話しかける事がなかった。リョウも特に何も言わず、運転手の港も最低限の言葉しか発することはなかった。
 目的地に着くと、レイラとリョウはチョーカーを港から受け取った。
 迎えの時間を確認すると、港とはわかれてホテルに入った。

「ここは母のホテル。あの部屋を使うのですか?」
「ええ」

 リョウは返事だけすると、フロントを素通りしてエレベーターに乗った。レイラは色々言いたいことがあったが、目的地についてからと我慢した。

 リョウがエレベーターにカードキーをかざすと、動き出し最上階で止まった。エレベーターを出ると一番端の部屋まで来るとまたキーをかざした。

 音を立てて鍵が空いた。

 そこは、宿泊するための部屋ではなく二台のソファとローテーブルがあり応接室のような作りであった。

「あっ」

 部屋に入ってすぐに目に飛び込んできた人物を見て、レイラは思わず声を上げた。

「お久しぶりです」

 扉の横に立っていたまゆらは、丁寧に頭を下げて挨拶をした。そんな彼女を見て本当は彼女を抱きしめたかったが我慢して、丁寧に挨拶をした。

 リョウもレイラに続いて挨拶をすると3人はソファに座った。

「お久しぶりですわ。まゆらさん。お会いできてとても嬉しいですわ」

 レイラは隣に座るまゆらに微笑み声をかけた。

「私もです」

 その声を聞いた瞬間、レイラは天に登る気持ちであった。
 また、彼女を抱きしめたかったが、必死にその気持ちを抑えた。

「兄とお知り合いでしたのね」
「……え~、まぁ。そうですね」

 リョウの事を話題に出すと、まゆらは困ったような顔をして、チラリのリョウの方を見た。彼はすました顔をしてるが、レイラはモヤモヤした。

(やっぱり、ゲームの強制力はあるよな。まゆらはヤツを意識しているみてぇだし)

 苛つく気持ちをレイラは必死に抑えて、笑顔を作った。

「それで、昨日の件を教えてくださいます?」
「わかりました」

 そこで、ずっと黙っていたリョウが口を開いた。まゆらは彼に任せようで頷いた。
 レイラから見らたらそれはまゆらがリョウを頼っているように見え内心穏やかではなかったが、今は何も言わない事にした。

「中村幸弘と会ったホテルでの出来事は覚えていますよね」
「ええ」

(忘れねえよ。だけど、別に未遂だしなぁ。だだ、その後の親の対応は問題だ。強姦されそうになった娘を運転手がいるとはいえ、1人で帰宅させるとか)

 レイラはあの日の事を思い出して目を潜めた。まゆらは事情を知ってるようで眉をさげ悲しそうな顔をしていた。

「あの事をきっかけに、父は中村製薬会社との取引を一切やめました。それがどう彼に影響したの詳しくはわかりませんが彼はレイラさんを逆恨みしていたようですね」
「そうですか」

(バカだなぁ)

 レイラはため息をついた。
 リョウは一切表情を変えずに淡々と説明をした。その抑揚のない言葉は感情が見えず不気味に感じた。

「彼の元恋人であるカナエさんがたまたま大道寺の家政婦になったので彼女からレイラさんの情報を聞き出していたようです」

(は? 幸弘とカナエは恋人だったか?)

 レイラはめちゃくちゃ驚いたが、リョウがその事をレイラが知っている前提で話を進めるのでそういう事にしておいた。

(そこまで、条件がそろってるならカナエが大道寺にきたはの“たまたま”じゃないだろう)

「“たまたま”とは偶然ですか?」
「そうです」

 彼の“たまたま”には違和感しかなかった。

 カナエはレイラと同じクラスの特待Sである彩花にそっくりである。そして、幸弘の元恋人という事は……。
 レイラが口を開こうとした瞬間、それを止める様にリョウが説明を続けた。

「大道寺の家政婦は派遣会社に頼んです。ですので偶然です」
「そうですか」
「そうです。彼はレイラさんを呼び出して集団暴行を加えようと計画しました。ですので彼らをおびきよせました。そして現行犯で逮捕です」

 レイラはリョウの話が終わると、勢いよくまゆらの方を見た。

「現行犯って。まさか、まゆらさんが囮ですの?」
「はい」

 まゆらは小さな声でいった。その瞬間、全身の血が一気にひいていくのを感じた。

「ーッ」

 レイラが勢いよく立ち上がろうとした時、体に重みを感じた。

「まゆらさん……」

 拳を握り、リョウを殴りつけようとしたレイラをまゆらが全身でとめたのだ。
 彼女に伸(の)し掛(か)かられて、レイラはバランスを崩してソファに倒れた。その上からまゆらが覆い被さる形となった。

「違うです。わ、私から囮になると言いました」
「……」
「えっと、あの、私、その日、たまたまホテルにいてその現場を見ていたのです。だから、レイラさんを傷つけた方に復讐しようと思って……」

(“たまたま”がおおいな)

 疑問に思ったが、涙目になって話すまゆらの言葉をさえぎることはできなかった。レイラは、黙って彼女の顔を見上げた。

「そしたら、あの方が逆恨みしていたようでしたので葬らないといけないと思いました」
「そしたら、リョウさんが協力してくれました。更にこの事が解決したらその功績としてレイラさんのお側にいてもいいと言ったです」
「そばって?」

 レイラその言葉に心が踊り、リョウの方を向いた。すると、リョウはニコリと微笑みうなずた。

「河野さんは素晴らしい能力を持っています。今回の件を父に話したらぜひ礼がしたと言っていました」
「そうなんですか」

 レイラはまゆらの肩を押してゆっくりと起き上がった。それに従い、まゆらも置きてソファに座ったが頬がつくくらいレイラに近かった。

「今回、レイラさんの命も危険もありました。ですので、まゆらさんの学費はすべて父が負担します。編入は難しいんですが、それは父に任せました。ただ、テストは受けなければなりません」
「リョウさんにテスト範囲教えてもらったけど、大丈夫そうです」

(だろうな。いや、でも兄貴の奴ちゃんと約束守ってくれたんだな)

 レイラは嬉しそうに笑った。

「よかったです。これで24時間レイラさんといられます」
「24時間?」

 レイラが首を傾げると、リョウは頷いた。

「ええ、河野さんの自宅からでは毎日学園に通うには大変ですからね。寮は高校生から使用できませんしね」

 レイラはこれからの生活がとても楽しみになった。
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