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十一刑

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 ——拝啓 天国の父様、母様


私は今、この国の皇子様と今、かぼちゃの馬車に乗って何処かへ向かっています。


皇子様にお姫様(とは真逆)のようなエスコートをされて、ドキドキが止まりません。


きっと私は……、今日中にそちらに逝くと思います。


(嫌だーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)


 現状、ロイ皇子に拉致されました。
 『来い』というから、てっきり校舎裏でボコボコにされるのかと思ったのだけれど、まさか馬車に乗せられて学園の外に連れ出されるなんて思いもしなかったわ。

 正面向かい合って皇子は座っているけれど、喋るどころかこちらを一目も見ようとしない。
 どこに向かっているのか問い詰めようとしたのだけれど……不思議ね。

 怖過ぎて全く声が出せないの!!!
 しょうがないじゃない!!  だって私、女の子だもん!!  男になると決意したけれど、女の子辞めるなんて言ってないもの!


***


 馬車に揺られて30分ほど経った頃、ようやく馬車が止まった。


「降りろ」
「ロイ皇子……ここって」


 ロイ皇子が私を連れてきた場所は、港町だった。


「へい!  らっしゃいらっしゃい!  獲れ立ての鮮魚、早くしないと売り切れるよーー~!!!」
「美味しい魚料理はいかが~?」


 昔、家族3人で何度も通った行き慣れた町だ。マテーウス皇国の観光名所の一つで、一歩町に踏み入れれば潮の匂いと新鮮な魚の独特な匂いが海人達の声と共に客を迎い入れる。今はまだ名物の解体ショーも開かれていない時間帯だから、比較的少ないようだが……。


「えっと……なんで下町?」
「こっちだ」


 私の質問を無視して、皇子は町の中を進んだ。町の店には目もくれず、客の間を掻い潜ってどんどん進む。簡単について来いって言うけど、港町を手も繋がずに一緒に行動なんてほぼ不可能に近い。カップルでさえも逸れる保険を掛けて店で待ち合わせをすると言うのに!
 貴族だろうが庶民だろうが、ここは観光地であると同時に料理人達にとって食材の激戦区なのだ。特にこの時間帯はこの日3回目の競りの時間。いい品を手に入れようと気が立った料理人達が足早に移動しているのだ。

 最早、皇子の姿はほぼ消えかかっている。
 もうこのまま追いかけるのを止めて逃げようか……。

…………いや。止めたらすぐに海の魚の餌になる。それだけはダメだ。

 正気を取り戻して、なんとか皇子を見失わないよう、彼を我武者羅に追い続けることさらに10分。
 漸く、ある場所の前で皇子がピタリと足を止めた。息も絶え絶えになりながら皇子に追いついた私がたどり着いた場所は、町役場だった。


「貴様、昨日言ったよな?」
「えっと……い、言ったけど何をというか……ど、どれの事というか……」
「『彼らは、その日貰った給料を片手に、そのまま役所へ向かい、月の税を納め、その余ったお金で生活をするのさ』」
「い、言った、……ような気がするけどもうちょっと柔らか~い言い方だったような……」
「お前が間違っている事を、今日ここで証明してやる」
「・・・は?」


 授業サボって私を町役場に連れてきた目的って、まさか、それだけの為?
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