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九刑

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「なぜ受刑者をすぐに殺さないんですか」
「……」


 何も答えない案内人に変わり、逆に私が皇子に聞きたい。

 ……貴方はなぜ、その質問をしようと思えたの?


「質問に答える前に、そう思う理由をお聞かせ頂いても?」
「彼らは死刑になって然るべき罪を犯したゴミ共だ。そんな奴らに好物?  司祭の祈り?  何故罪を犯した人間共にそんなもてなしをしなければならない。何故国を脅かしたゴミ共の為に無駄金をかけるのだ」


 我が物顔で語る皇子……非人道的な事を言っているように見えるが、言っていることは間違ってはいなかった。理論で言えば、彼ら受刑者が先に悪いことをしたから……多くの人々を苦しめ、悲しませてきたから、その罪に然るべき制裁を加えるだけのこと。
 基、彼らが犯罪さえ犯さなければ、本来処刑場は必要ない。受刑者に使う金が無駄金と主張する、皇子の意見は間違っていない。
 だから異議を唱える生徒はもちろんのこと、案内人も皇子の意見を否定しなかった。


「確かに、ロイ様が仰る通り、罪人達への対応はご納得頂けない点はあるかもしれません。しかしこれらは来世では罪を犯さぬようにという祈りと、今生に悔いを残さぬようにという供養の想いが……」
「死に行く者にかける時間と金をかけるくらいならば、他に有効な使い道があるとは思わないか?  全ては犯罪者共の自業自得。情けも供養も必要ないはずだ」


 皇子の言う通り、数分後には命を落とす者の為にわざわざ大金はたいて司祭を呼び、豪華な食事を用意する事に何の意味がある?   そのもの達を養う為に、今も尚市民が働いて稼いだ金が溶かされて行っているのだ。
 情けがなんだ、供養がなんだ。それはただ、まだ今生で生き残る私達生者の、ただのエゴじゃないか……。

 死刑囚は、即刻殺して然るべき——…………














……——しかし私は、真っ向よりその正論に反対する!!



バコッ!!!!


 ふと遠くから聞こえた何かの鈍い音と指の痛みで、私はふと我に返った。
 目の前には右頬を手で押さえ、尻餅をついて私のことを下からキョトンとした表情で見つめるロイ皇子の姿があった。
 無意識のうちに私は、彼を思い切り殴ってしまっていた……あまりの怒りに耐え切れずに。


「『自業自得』?   『無駄金』?  『情けも供養も必要ない』?   ふざけんな!!!  彼らがどうして罪を犯したのかも知らないクセに!!」


 驚いた表情で呆然としていた皇子だったが、その形相はすぐに変わった。
 普段の『ゴミ』と罵る彼の顔なんて比じゃない。顔を真っ赤にさせ、立ち上がるなり私の胸倉を本気の力で掴み、鬼のような怒声をあげた。


「力もないどチビのクセに、何知った風な口を利いてんだ!!!  クソがッッ!!!  じゃあお前に分かるのかよ!!  犯罪者でもないクセになんで罪を犯したのか、あのゴミ共の考えてることが分かんのかよ!!  言ってみろよ!!」
「国税を払う為だよ」


 私がそう答えると、ふと一瞬、私の胸倉を掴む皇子の力が少しだけ緩んだ。


「知ってる?
朝から晩まで1ヶ月間働いて漸くもらったお給料の使い道を、市民は最初何に使うと思う?  
好きな物を買う?  1ヶ月頑張ったご褒美に美味しいものでも食べる?  
どれも違う。
彼らは、その日貰った給料を片手に、そのまま役所へ向かい、月の税を納め、その余ったお金で生活をするのさ」


——税を払わなければ犯罪者脱税と見なされ、晴れて刑務所入り。
 だから例え、所得は減り、年々税が増加して行っても市民は必ず課せられた税を納め続けるのだ。
 でも、そんな矛盾した金の動きにいつまでもついていける人間なんていない。税を払えず、金がなくなり貧困に陥った人間が次にすることは……生きる為に、奪うこと。

 受刑者の大半は、国の為に自らの貴重なお金を払い続けてくれた心優しい人間の末路そのもの。


「受刑者は、受刑者である前に一人の市民だった。市民には納税の義務があり、ここで使われている金は、まだ受刑者が市民だった時に納めていた金だ。それを最後に自分達の為に使って何が悪い。
彼等がゴミなら、彼等が働き稼いだお金で学校に通っている貴方は、ただのクズだ!
働いてもいない、税を納める訳でもない。親に与えられた身分が高いだけで、国の為に働いてくれていた受刑者を罵るお前の方が裁きを受けるべきだ!!」


 言い返す間も与えないまま、私は皇子の手を払い捨て台詞だけを吐いて、その場から消え去った。

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