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文化祭

3.衣装合わせ

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「はいセンセ。 コレ」

今日日直のオレは、クラス全員分の提出物を集めて担任の先生のところに持ってきた。

休み時間の職員室は、ちらほら生徒の姿もある。


「お、ありがとう、坂本」

先生はオレから提出物を受け取ると、またプリントを渡してきた。

「じゃコレ。 後で配っといて」

「ほーい」

プリントを受け取って先生に背を向けようとすると、

「あ、坂本」

「うん?」

呼び止められて、もう一度振り返る。


「もうすぐ中間だけど、調子はどうだ?」

「あー・・・」


一学期の期末テスト、追試にはならなかったものの、成績は高校入ってから最悪だったもんなー・・・・

期末終わってからは、先生にも呼ばれたし。


「まあまあ・・・かなぁ」

オレはへらって笑ってみせる。

「別に追試とかにはなってないけどな・・・・ せっかく今まで悪くない成績だったのに、もったいないぞ?」

「わかってるってー」

「もしかして・・・彼女でもできたのか? 恋愛に一生懸命になって、勉強がおろそかになってるとか・・・」

先生は少しにやにやしながらオレを見る。


う・・・・ ある意味、そーかも・・・・


否定できずに黙るオレに、先生は破顔した。

「そうかそうか。 まー高校生の頃は楽しいからな!」

そう言って、オレの背中をバンバン叩く。

「いてて・・・・・」

「でも、部活のほうも3年が引退していろいろ忙しくなってきただろ。 ちゃんと気合い入れて勉強しないと、ダメだぞ」

「はーい」


そーだよな。

期末で成績落ちて、少し親も気にしてたみたいだし・・・・・

なにより、次はがんばるって、あきらと話したし。


「ああそうだ、坂本」

職員室から出ようとしたオレを、先生が呼び止める。

「城井から進路のこと、何か聞いてるか?」


進路・・・・・?


「いや、別に・・・・・」

「そうか」

先生は小さくため息をつく。


「どしたんだよ?」

進路なんて・・・・あきらは何も言ってなかったけど、どうかしたのか・・・・・・?


「いや・・・・・ 城井がまだ進路調査票、出してなくてな。 もう少し待ってくれって言われてて。
坂本は何か知ってるかと思って聞いてみたんだが」

2学期始まってすぐ配られたハズだけど・・・・ まだ、出して無い・・・・?


あきら・・・・何か、悩んだりしてる・・・・?


「まあいいか。 もう少し待ってみよう。
まだ本決めの調査じゃないしな」

先生は明るく言ったけど、オレは気になってしまった。

「もし何か悩んでるようなら聞いてやれ。 先生も気にしていたって、言っておいてくれるか?」

「はい・・・・・」


先生の話が気になって、オレは上の空のまま職員室を後にした。


「あ、坂本」

廊下を歩いていると、委員長に声をかけられた。

「おいって」

「あ・・・なに?」

上の空だったオレは、反応が遅れてしまった。


「教室で女子たちが衣装のサイズ確認してたぞ」

「衣装・・・・?」

「し・つ・じ!」


ああ、文化祭のか・・・・・


「ああ、わかった」

へらって笑って、教室に向かう。


教室では女のコたちがきゃーきゃー騒いでいた。


「・・・・何の騒ぎ?」

「あ、坂本くん! サイズ合わせるから、こっち来て!」

そう言われて連れてこられた教室の一角。

レンタルらしい執事の衣装を着た人が、オレに背を向けて立っていた。

みんな、パシャパシャ写メを撮ってる。


あれって・・・


「もー、写メ、撮んなって!」

「えー、だって、あきらくん、すごい似合ってる♡」

「カッコいいよ~♡」


・・・・やっぱり、あきらだ。


「もう脱いでいいだろ?」

ネクタイに手をかけながら、こっちを振り返る。


あきらと、目が、合った。


「あ、レイキ」

あきらはオレを見て、口角を持ち上げる。


オレは何も言えなかった。

・・・・あきらに、見惚れて。


・・・・・やばい。

口は開いたままだし、なんかカオは熱くなるし。

オレ、すげー変なカオ、してるよな・・・・


「レイキ?」

あきらが少し首をかしげてオレに近づく。


・・・・すっげー、カッコいい・・・・・


「坂本くん、口開いてるよ?」

女のコに突っ込まれて、慌てて口元を引き締める。


「レイキ、どう?」

あきらが笑顔でオレに感想を求めてきた。


・・・・・カッコいい。

すげー、カッコいい、けど。

みんなの前でそんなこと、言えないし。


「・・・・うん。 いーんじゃね?」


オレの言葉にあきらは少し不満そう。


「えー、もっと褒めろよ」

「なんで」


あきらはオレの耳元に口を寄せた。


「・・・・レイキに、褒めてもらいたいなあ」

甘えたように囁く。


あきらの低くてイイ声に、ぞくってした。


「坂本くん、来て! サイズ合わせるから」

「あ、ああ」

女のコに呼ばれて、オレは慌ててそっちに行った。



「じゃあ坂本くん、これ着てみてー」

「ん」

渡された執事の衣装に着替える。


・・・執事って、こーゆーの、着てんのかな。

白シャツに、黒いネクタイ・ベスト・パンツ。

・・・・なんか、ウェイターっぽい・・・・?


「着替えたぜー」

「うん。 坂本くん、このサイズでいいみたいね」

衣装担当の女のコがノートに記録していく。


「でも、坂本くんってやっぱり、執事って感じじゃないよねー」

「うん」

オレを見ながら、渋いカオをする女のコたち。

「悪かったな。 ぽくなくて」

別に希望したわけでも推薦されたわけでもねーし。

「やっぱり、イケメンに言われたいよねー」

そう言って、きゃいきゃいはしゃぐ。


・・・・それって、暗にオレがイケメンじゃないって言ってるよなあ・・・・


わかりきってることだけど、なんだか悔しくて、オレは2人に一歩近づいて、距離を詰めた。

ニコって、なるべく爽やかな笑顔を浮かべて言ってみる。


「・・・・お帰りなさいませ、お嬢様」


2人とも表情が固まってしまった。


・・・・あ、ダメだったかな・・・・


ちょっと不安がよぎったけど、


「坂本くん、いい!」

「うん! なんか、きゅんってしたよー!」


2人は頬を紅潮させて、興奮気味に言いあう。

「かわいい執事ってのも、アリだねー!」


『かわいい執事』か・・・・

あきらも言ってたなー・・・・

結局、『かわいい』からは逃れられないんだなあ、オレ・・・・・・


「まあ、アリなら良かった」

「うん! 全然、アリだよー!」

とりあえずホッとしてると、


「あきらー! めぐみちゃん! そこに並んでー」

あきらと高野が、並んで写真を撮られていた。


高野 愛(タカノ メグミ)。 彼女は同じクラスの女のコ。

うちのクラスではもちろん、学年・・・・学校でも上位に入るくらい、人気の女のコだ。

肩までのふわっとした茶髪に、まつ毛の長い大きな瞳。

河原みたいな美人系ではなくて、どっちかっていうとかわいい系。

フリルのミニスカートに、レースのついたエプロンのメイド姿が、とてもよく似合ってる。


間違いなく、うちのクラスで一番の美男美女が、執事姿とメイド姿で、並んで写真を撮られている。


「やっぱり、めぐみ似合ってる。 かわいいよねー」

「あきらくんも、カッコいい~」


二人の写真は、クラスの模擬店のポスターに載せるらしい。


・・・・客寄せ効果は抜群だろうな・・・・・


「2人とも、もっと寄って!」

カメラマン役の男子に言われて、2人は寄り添うように立つ。


と、高野があきらの腕に自分の腕を絡めた。

ぎゅって抱き付いて、あきらを見上げる。

あきらも高野に視線を落とすけど、もちろんみんなの前だし、その腕を解くようなことはなかった。


「めぐみ、いいなあ」

「なんかあの2人、お似合いだよねー」

みんなの声がする。


ちりって、胸が痛むのを感じた。


・・・・あの腕は、オレの、なのに。



「おっけー。 いいよ」

何枚か写真を撮った後、カメラマン役の男子が満足そうに笑う。


写真が終わると、あきらは小さくため息をついて、高野の腕を解いた。


と、あきらの視線がこっちを向いて、オレを捉えた。

思わずじっと見てしまっていたオレは、視線が合って慌ててしまう。


あきらはフッて笑うと、オレの方に近寄ってきた。


「レイキも着たんだな。 似合ってる」

「そ、そーでもねーよ。 いまいちみたいに言われたし」

あきらの笑顔を直視できなくて、視線を外しながら言う。

「そう? かわいいぜ」


どきんっ・・・・・


あきらの言葉に、心臓が跳ねる。


『かわいい』って、ほかの人に言われてもうれしくないけど・・・・・

あきらに言われたら・・・・ なんか、うれしい、かも・・・・・


「城井くん、坂本くんも、衣装脱いでねー。 ほかの人も着るから」

衣装担当のコに言われて、オレもあきらも着替えることにした。


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