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6.勝負

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「守崎さん、帰ろう?」

空野くんは言っていた通り、HRが終わったら教室まで迎えに来てくれた。

私の席まで来てくれて。

「空野くん、ありがとう」

私は鞄を肩に掛けた。 恥ずかしくて、空野くんの顔は見れないけど。

一緒に教室を出て、昇降口まで行って、校門を出る。

その間、空野くんは他愛もない話をしてくれていて、私の緊張はだんだん和らいできていた。

「守崎さん、マック行かない?
オレ、オシャレなカフェとか知らないからさ・・・」

少し恥ずかしそうに言う空野くんがかわいくて。

「うん、マック行こう」

私はうなずいた。


マックではカウンターの席に座った。

正面に座ったら、顔が見れないって思ってたから、よかった・・・

空野くんはほんとに優しくて、さりげなく気を使ってくれるし、話もたくさん振ってくれて。

私は緊張もほぐれて、楽しくて笑ってた。


「・・・笑ってくれて、良かった」

空野くんが安心したようにつぶやいた。

えっ、私、そんなに気を使わせてたの?

「ごっ、ごめんね。 私、ちょっと緊張しちゃってて・・・」

空野くんは照れたように笑って、

「・・・オレも、緊張してる。 オレ、話しすぎじゃない? うるさいかな」

私は慌てて首を振った。

「そんなことないよ! むしろ、話してくれて、うれしいし」

・・・・空野くん、緊張してたんだ。

モテるだろうし、こんなの慣れっこだと思ってた。

私だけが緊張してると思ってたのに・・・・ 意外、だな・・・・


「ね、守崎さん。 良かったら、LINE教えてくれない?」

不意にそんなことを言われて。

え、ちょっと待って。 ・・・・うれしすぎる、んだけど。

空野くんと、LINE交換、できるの!?

「うん!」

私は慌ててスマホを取り出した。


ほんと、あまりのことに、頭がついていかない。


空野くんのこと、好きだったけど・・・・

ただ、見てるだけしかできなかったのに。

私のこと認識してもらって、

少し話せるようになって、

そしたら一緒に帰ろうって誘ってくれて、

LINE交換まで・・・・!


もう、舞い上がりすぎて、気持ちがどこか飛んでいきそうだよ。


LINEの登録をしてる空野くんの横顔をちらって見てみる。

やっぱり、カッコいいなあ・・・・



その日は言ってた通り、遅くならないように帰った。

・・・正直、名残惜しかったけど、試験前だし、空野くんをそんなに引き留めるのも申し訳ないし。

でも、早速空野くんはLINEをしてくれて。

勉強の合間に、私も返信する。

・・・・すっごく、うれしいし、楽しい。

こんなに気持ちがふわふわした感じになるのなんて、初めて。

今日話したことを思い出すと、勉強が手につかなくなっちゃう。



それからも、毎日空野くんは私を迎えに来てくれた。

そして少し寄り道して、一緒に帰る。

私はよく知らないけど、空野くんが特定の女子と仲良くしてたことってないみたいで、私たちのことは学校で噂されるようになってきた。


・・・空野くん人気だし、女子に良く思われなそうで、ちょっと怖いな・・・・


「守崎さん!」

空野くんは今日も変わらず、私を迎えに来てくれる。

そんな空野くんを見て、同じクラスの女子がひそひそ話してるのが目に入った。

空野くんはそんなこと気にも留めず、笑顔を私に向けてくれる。

でも今日は、その笑顔がちょっと曇ってた。

どうしたのかと思って少し首を傾げると、

「あの、さ・・・・ しばらく部活休んでるから、ちょっとストレス溜まってきてて・・・・」



私は空野くんに連れられて、弓道場にやってきた。

「守崎さん、ほんとにいいの? つき合ってもらって」

「うん。 弓道って近くで見たことないし・・・・」

空野くんは、弓が引きたくてストレスが溜まってきたんだって。

どうしても弓が引きたいから、今日は一緒に帰れない・・・っていう話だった。

私も一緒に帰れないの残念だなって思ったけど、それ以上に、言った空野くんがしゅんってなってて。

弓を引く姿を見たいなって思って、連れて行って欲しいって言ったら、空野くんはすごく喜んでくれた。

しゅんってなったり、すごく喜んでくれたり、空野くんって言葉に出さなくても感情が結構外に出るタイプなんだなって思うと、すごくかわいく感じてしまった。


「ちょっと準備してくるね」

「うん」

私は弓道場の床に正座をして、空野くんを待った。


弓道場って・・・なんか・・・独特だな・・・・

和室とはまた違う和な雰囲気・・・・

神聖な感じがして、空気が澄んでる気がする。

それに実際にに見てびっくりしたのが・・・・・ 的、遠っ!!

あんなところに当てられるなんて、すごいなあ・・・・・・


私は、前に視た空野くんの前世の風景を思い出していた。

ルーカスは、すごい弓の名手だった。

あの時、少し視ただけだったけど、全部的に当てていたし、

『さすが! ルーカスは外さないな!』

『百発百中じゃないか!』

みんなにそう言われてた。

・・・・だから、空野くんも、弓道上手なんだよね。

1年生なのに、インハイに出られるかもって、言われてるなんて。



「あれ?」

物思いに耽ってたから、急に響いた声にびっくりしてしまった。

声のした方を振り返ると、弓道場に入ってきた人がいたことに気づいた。

空野くんじゃない、男の人。

私はその人のネクタイを見た。

私たちの学校の制服は、男子はネクタイ、女子はリボン。 で、学年で色が違うの。

私たち1年生はブルー、2年生はグリーン、3年生はレッドがベースになってるデザインのネクタイ。

その人はグリーンのネクタイをしていた・・・2年生の、先輩だ。


「入部希望者?」

その先輩は、私を見て怪訝な顔をした。

黒髪に眼鏡で、すごく整った顔立ち。 空野くんよりは・・・印象が、少し冷たい感じだけど。
細身で長身・・・空野くんより、背、高いかな。

私は慌てて首を振った。

「あ、ち、ちがうんです」

部外者が入っちゃ、やっぱりだめだよね・・・・


「おまたせ」

更衣室から、準備を終えた空野くんが入ってきた。

「・・・・っ!」

その姿を見て、思わず、息をのんでしまう。


かっ・・・・・こ、いいっ・・・・・!!!!


袴を身に着けた空野くんは、制服とは全然雰囲気が違ってて。

長身の彼にすごく似合ってるし、もうなんていうか・・・・・・

素敵すぎる・・・・・!!!


「空野か」

「城谷先輩」

空野くんは、先輩がいたことに驚いたみたいだ。

「空野が連れてきたのか?」

私のことを親指で指しながら、先輩は空野くんに尋ねた。

「あ、はい・・・ すみません、勝手に」

空野くんはぺこって頭を下げた。

城谷先輩は、空野くんを見て少し笑った。

「まあ・・・今日は他に誰もいないからいいけど。・・・彼女か?」


えっ

先輩の言葉に固まってしまう。


「いやっ! ち、ちがいますっ!」

空野くんが慌てて否定する。 

顔を少し赤くして、慌ててるのは・・・わかるんだけど・・・・

ちょっと、胸が、痛いなあ・・・・

最近少し親しく話してるだけだし、『彼女』とか言われても、確かに困る・・・よね・・・・

でも、思いっきり否定されると・・・・さすがに傷つく・・・かも・・・・


「オレも弓を引こうと思って来たんだ。空野、せっかくだし、勝負しないか?」

城谷先輩の言葉に、空野くんはパって顔を輝かせた。

「はい! お願いします!」

「じゃあ、準備してくる。 先、引いてていいよ」

先輩はそう言うと更衣室に向かい・・・その前に空野くんに近づいて、肩にポンっと手を乗せた。

耳元に口を寄せて、なにか話しかける。

空野くんは少し目を大きくして、先輩を見た。

先輩は口角を持ち上げると、更衣室に入っていった。


「あの・・・守崎さん」

空野くんは少し眉を下げて、申し訳なさそうな表情。

私は立ち上がった。

「部外者が入っちゃダメなんでしょ? ごめんね、私、帰るから」

「違うんだ。 そうじゃなくて、その・・・ごめん」

空野くんは少しうつむいて、左手で首の後ろを触る。

「さっき先輩に『彼女?』って訊かれて、守崎さん、嫌な気分になったかなって・・・」




そんな、言われたこと自体は、・・・むしろちょっと、うれしかったというか・・・・


「それに、思いっきり否定しちゃって、ごめん。 そんなつもりじゃなくて、その・・・」

顔を赤くして、口ごもる。

「オレがそう言われるのが嫌とかじゃなくて。 守崎さんに迷惑かけたから・・・ごめん」


・・・私が彼女か訊かれて、空野くんが嫌だと思ったわけじゃないっていうのは、伝わってきた。

私はうれしくて、笑ってしまった。

「うん・・・私も全然、嫌とかじゃないから」

空野くんはホッとしたように顔を上げた。

「・・・よかった・・・
あ、気にしないで見て行ってね。 先輩もいいって言ってたから」

「うん」

私は改めて、床に腰を下ろした。




私の視線の先で、空野くんは的の前に立った。

ぴんって、空気が張り詰めるのが分かった。

的を見つめる空野くんの瞳は、真剣そのもの。

凛とした、立ち姿。

ゆっくりと、弓を持ち上げ、ぎりぎりって、弦を引いていく。

ひゅっ

空気を切り裂く音がして、矢が飛んでいく。

トッ

的から少し外れた盛土の所に矢は刺さった。


ふうっ、と、空野くんは一つ息を吐いた。

もう一度弓を構える。

ぎりぎりっと、弦が引かれ・・・・

矢が放たれる瞬間


当たる


そうわかった。


パンっ


矢は的の真ん中に命中した。


「すごいっ!」

私は思わず、立ち上がって拍手した。

思った以上に声と拍手の音が響いて、間違った、と思った。

弓道場って、歓声とか拍手とかするところじゃない気がする。


空野くんが私を振り返る。

「ごっ、ごめんなさい」

私は頭を下げた。 邪魔をしたせいで、きっと、集中力が切れてしまう。

そんな私の耳に、空野くんがフッて笑った声が聞こえた。

顔を上げると、空野くんの優しい笑顔。

「大丈夫。 うれしいよ、ありがとう」


もう、空野くんの笑顔は、破壊力がすごすぎる。

私の心臓は、鷲掴みにされたみたいにぎゅってなった。



「よし。 空野、やろう」

城谷先輩が弓道場に入ってきた。


城谷先輩も、すごいカッコいい・・・

空野くんより背も高いし、袴姿、すごく似合ってて、素敵・・・

弓道部って、こんなカッコいい人ばっかりなのかな。


ぽやっとそんなことを考えてると、城谷先輩も的の前に立った。

また、ぴんっと空気が張り詰める。

2人の集中力が高まっていくのがわかる。


城谷先輩が弓を構える。 ゆっくりと弦を引き・・・


パンっ


的の中心からは少し外れたところに、矢が刺さった。


次は空野くんが弓を構える。

放った矢は・・・


パンっ


さっき中心に刺さった矢の、すぐわきに刺さった。


城谷先輩と空野くんは交互に矢を射って、3本ずつ射ったところで、空野くんは大きく息を吐いた。

弓を下ろし、頭を下げる。

『ありがとうございました』

2人の声が響き、私もいつの間にか力の入っていた肩を下ろした。


城谷先輩は、3本とも的に命中していた。 そのうち、最後の1本は中心に刺さっていた。

空野くんは・・・

最初に外した1本以外は、4本とも、中心に命中していた。


・・・すごい。 ・・・・本当に、すごい・・・・・


「空野は本当にすごいな。インハイ、いけるだろ」

空野くんはうなずいた。

「・・・そんなに簡単じゃないのはわかってます。でも・・・行きたい、です」

城谷先輩は笑って空野くんの肩を叩いた。

そして、私の方を振り返る。

「どうだった? 空野、カッコよかっただろ?」

「は、はいっ!」

空野くんが素敵すぎてぽーってなっちゃってた私は、思わず大きくうなずいた。

空野くんは照れたように笑って、

「守崎さん、ありがとう」


どうしよう・・・・ 空野くんのこと、どんどん好きになっちゃうよ・・・・




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