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49.彼女の思い

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たくさん食べて腹いっぱいになって、そろそろ店を変えようかって話になった。


桜庭さんは家まで遠いし、もう帰るって言って。


「お父さんとは一緒に帰らないのか?」

「たぶん、城井先生とまだ飲んでるんじゃないかな」

「・・・・じゃあ、オレ、駅まで送るよ」


いつもだったら、桜庭さんを送るのはあきらだけど。

今は彼女ってことになってる河原と一緒だし。 だったら、オレが送るしかないもんな・・・・


「・・・うん。 ありがとう、坂本くん」

桜庭さんは、オレを見てにっこり笑った。



「オレ、桜庭さんを駅まで送ってくる。 店決まったら、教えて? 後で行くからさ」

「ああ。 わかった」


「レイキ・・・・ゴメンな」

あきらが、すまなさそうなカオをしてる。

「・・・・いいよ」

オレはへらって、あきらに笑って見せた。



「みんなありがとう。 お邪魔しました」

「ああ、気をつけてな」

「桜庭さん、バイバイ」



手を振ってみんなと別れて、桜庭さんとオレは、並んで駅に向かって歩き出した。



「・・・・あきらくんの彼女に会えてよかった」

「・・・ああ」

「河原さん・・・・ キレイな人ね。 あきらくんと、お似合い」

「・・・・・そう・・・・・だな・・・・・」


河原や、桜庭さんだったら、あきらの隣にいるの、よく似合うもんな・・・・・・


「・・・・・2人って、つき合って、長いの?」

「え・・・・と」


あきらは、何て言ってんだろ・・・・・・



桜庭さんは、足を止めた。 

少し遅れて気付いたオレも、足を止めて、桜庭さんを振り返った。



「・・・・桜庭さん?」

桜庭さんは立ち止まったまま、少しうつむいていて。



「・・・・・・不思議だったんだけど。 あきらくん、河原さんのこと、名字で呼んでるんだね」



え・・・・っ


た、しかに、もともと『河原』って呼んでるんだし・・・・

あきらはなるべく名前を呼ばないようにはしてたんだろうけど、思わず『河原』って呼んじゃってたのかな・・・・・

気付かなかった・・・・・



「ね、河原さんって、本当にあきらくんの彼女なの・・・・・?」


桜庭さんは、真剣な瞳でオレを見てきた。


オレはその眼差しを直視できなくて、思わず目を逸らしてしまう。


「そう、だよ? なんでそんな風に思うんだよ・・・・」



桜庭さんは小さくため息をついた。


「そう・・・・・よね・・・・・・

あきらくん、あんまり彼女のこと話したりしないけど、この間の旅行の時、少し話を聞いたの」


旅行の・・・・時・・・・・・


それって、夜、2人きりで、いた時のことかな・・・・・・


「その時ね、あきらくん、彼女のこと本当に大切そうに話してて。 すごく優しい瞳をしてて。
ああ、彼女のこと、すごく好きなんだなあって、感じたの・・・・・」



桜庭さんの言葉に、胸が、熱くなる。 


桜庭さんに、オレのこと、そんな風に話してたんだ・・・・・・・



「でも、今日のあきらくん、その時みたいな雰囲気が無くて。 しかも、『河原』って、呼んでたし。
・・・・・清水くんが、『あんまり人に言いたがらない』って言ってたけど、なんだか不思議な感じがして・・・・」



・・・・・・桜庭さん、あきらのこと、本当に好きなんだなって、思った。


あきらの表情とか、雰囲気とか、よく見てるし、感じてる・・・・・・




でも・・・・・・


オレだって・・・・・ あきらのこと・・・・ 好き、だ・・・・・


本当は、 桜庭さんに、 諦めてもらいたい・・・・・・・・!




「・・・・あきらは、彼女のこと、大事にしてるよ。 ちゃんと、好き、だし」


「・・・・・うん・・・・」


オレは桜庭さんの瞳を、しっかりと見た。


「・・・・・旅行の時さ、あきらが彼女のことすごく大事にしてるって、感じたんだろ? だったらさ、もう・・・・・無理だな、とかは、思わなかったのか?」


桜庭さんは、少し、微笑んだ。


「うん・・・・・ その時は、少し、そう思ったよ?
でも、あきらくん、私と話してて、すごく楽しいって、言ってくれたの。 お互い開業医の子供だし、環境が似てることもあったりして。 学生の間の勉強のこともだし、卒業してからどうするとかいう話をしたりするのも、楽しかったし」



卒業・・・・・して、から・・・・・・?


あきらが医者になってから・・・・・ どうするつもりかなんて・・・・・・・ オレ、聞いたこと、ない・・・・・・・



「やっぱり、研修は大学病院で受けた方がいいのか、とか。 志望科とか、医局はどうするのかとか、学位とか留学のこととか、そういう話もしたの」



研修、を、大学で・・・・・?


志望科・・・・? 医、局・・・・・?


そんな、基本的なシステムだって、オレ、知らない・・・・よ・・・・・・




オレは、愕然としてしまった。



あきらのいる環境のこと、オレは、何も知らないんだな・・・・・・・



「そういう話が、私とは合うって、あきらくん喜んでくれて。
・・・・彼女は、医療系じゃないみたいだし、そういう話、あんまり出来ないんじゃないかなって、思って」



オレ・・・・・そんな話、 あきらから聞いたこと・・・・ない・・・・・・


もちろん、オレに話してもわからないから、なんだろうけど・・・・・ 桜庭さんはわかるから、普通に、そういう話が、出来るんだな・・・・・





「なあ・・・・・」



オレは、あきらには聞けなかった、でも、ずっと気になっていたことを口にしていた。



「旅行の時、さ・・・・・・ あきらと・・・・ なんか、あったのか・・・・・・?」



桜庭さんはすこし驚いたカオをした。


「あきらくんからは、なにも聞いてないの?」


「あ、あ・・・・・」



「男のコって、そういう話、すぐすると思ってた」

桜庭さんは、少し苦笑した。

「・・・・河原さんに、告げ口しちゃ、だめだよ?」

「ああ・・・・」



「あきらくんと・・・・ キス、 したの」




・・・・・やっぱ、そ・・・・っか・・・・・・


・・・・・ある程度予想していたオレは、結構冷静に受け止めていた。


なにもなかったわけじゃ、なかったんだな・・・・・・




「・・・・・それ、だけ?」


桜庭さんは、少し寂しそうにうつむいた。


「・・・・・うん」




・・・・・最悪、 シた、のかな・・・って、考えてたから・・・・・・・・

まだ、まし、なのかな・・・・・・・




「その時ね、『柚葉とはこれからも仲良くしていきたいから、こういうのナシな』って、言われた」


桜庭さんは、その時のことを思い出してるのか、少しうっとりしてる。


「私がね、『たくさんこういうことしたら、流されてくれる?』って聞いたら、あきらくん、ちょっと笑って、『だからするなよ』って言ったの。 これって、脈が全然ないわけじゃないかなって思って。
だから、がんばろうかなって、思っちゃった」



あきら・・・・・・・!


思わせぶりな、態度、じゃん・・・・・・・!


それじゃあ、桜庭さん、あきらめねーよ・・・・・・



興味のない女のコには、とことん冷たいあきらだけど・・・・・

桜庭さんのことは、冷たい態度をとって、仲良くなくなるのが惜しいって、思ってんだな・・・・・・



「ねえ、脈、あると思わない?
それに、今日のあきらくんと河原さんを見て・・・・ 私が想像してたみたいな、すごく好き合ってる!って雰囲気じゃなかったし・・・・・
あと、この間、みんなで旅行行った話。 普通、彼氏が女のコと一緒に旅行とか、イヤなものでしょ? 私が一緒に行ったメンバーだって分かった割には、河原さん、私のことをあんまり敵視する感じでもなかったのよね・・・・」


そっか・・・・・

旅行の話も・・・・・・

あきらの彼女じゃない河原にとっては、大したことじゃないしな・・・・・



「桜庭さん・・・・・ 本当に、あきらのこと、好きなんだな・・・・・・」



桜庭さんは、にっこり笑った。


「うん。 あきらくんみたいなレベル高い人だったら、私がなにもしなかったら、絶対つき合うなんてできないもん。 後悔したくないから、がんばろうと思って!」



オレ・・・・・ 桜庭さんには、 勝てねー、かも・・・・・


大学のことや、将来のこと、桜庭さんみたいに分かってあげられてねーし、


料理も、



・・・・・性別、も。




桜庭さんだって、女のコの中では、かなりレベル高いと思う。


その人が、本気であきらのこと好きで。



オレ・・・・・ オレ、なんかが、あきらの隣にいて、いいのかな・・・・・




「坂本くん、行こう?」

立ち止まったまま話をしていたオレたち。

桜庭さんに促されて、また駅に向かって歩き出した。



「坂本くんは、河原さんとも友達だし・・・・ 2人がこのままつき合ってるのがいいって思ってるよね・・・・
でも、私の方が、あきらくんのこと、分かってあげられると思う」


桜庭さんは、前を見たまま話していた。


その表情は、とても真剣で。


「高校の頃と、大学になってからって、環境も変わるじゃない? だから、すごく好き合ってて気が合ってたとしても、環境の変化で、少しずつずれてくることって、ある気がするの。
今は私の方が、河原さんより、あきらくんの環境を理解できると思うし、働き出してからだって、私の方があきらくんのこと、分かってあげられると思う・・・・・ 
わかって、あげたい」


「桜庭さん・・・・」


桜庭さんはオレを見て、少し照れたように笑った。


「って、思ってるの。
だから、よかったらまた・・・・ 私に協力して、ほしいなあ」




・・・・・見た目が、釣り合ってるとか、そんなレベルじゃ、ない。


桜庭さんは、あきらのことを本気で好きだし、その将来も考えて、自分の方が相応しいって、考えてるんだ。





あきらの・・・・・・将来・・・・・・・




あきらにはオレとつき合い続けることで、失ってしまう、未来が、ある。


ずっとわかってた。 けど、考えないようにしていたことを、桜庭さんの思いを聞くことで、見せつけられるような気がした。




オレは桜庭さんに、へらって笑って見せた。


「・・・・・そうだな・・・・・ 考えとくよ」




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