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36.夏の海

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「泳ごうぜーっ!」

木島くんとユージが真っ先に海へ走っていく。


「おい、タカト、荷物ー!」

「その辺置いといて!」

木島くんは足を止めず、荷物だけ周防くんに向かって放り投げた。


「オレのも頼む!」

ユージが同じように、オレに荷物を投げてよこした。

「うわっ」

突然投げられたから、オレは落としそうになりながら、なんとかキャッチする。


「・・・・ったく、あいつら・・・」

周防くんが少し呆れ顔でタメ息をつく。

「ガキだな。 完全に」

周防くんの言い方に、オレは笑ってしまった。

オレから見ても子供っぽいもんな。 周防くんからしたら、ほんとガキって感じなんだろう。



「この辺で良いかな」

そこそこ混んでいるビーチに空間を見つけて、周防くんがレジャーシートを取り出す。

「そうだな」

オレも手伝って、レジャーシートを広げた。


「荷物、置いていい?」

女のコたちが聞いてくる。

「どうぞー」

オレはへらって笑って返事をした。


木島くんとユージはとっくに海の中。

「早く来いよー!」

なんて、オレたちに向かって手を振る。



「ねえ、あきらくん」

桜庭さんの声。

「日焼け止め、背中に塗ってくれない?」

にっこり笑って、あきらに日焼け止めを差し出す。


・・・・女のコたちは、みんなビキニで、すごくかわいい。

ビキニってことは、露出度も高いわけで。

背中も、もちろん・・・・・ 

日焼け止め塗るってことは、桜庭さんの素肌に、あきらが、触れるってことだ・・・・・・



あきらはちらって二宮さんに視線を走らせる。

「ね、巧くん。 お願いしていい?」

二宮さんも、周防くんに頼んでる。

「いいけど・・・・ タカト、怒るんじゃないか?」

「いいの。 ほったらかして、先に行っちゃうんだもん」

少しふくれる二宮さんに、周防くんは苦笑しながら日焼け止めを受け取った。


「はい。 あっち向いて」

そう言って、二宮さんの背中に、日焼け止めを塗ってあげる周防くん。


・・・いやらしい感じとかしないし、なんか周防くんを見て、オトナだなあって思った。


「あきらくん?」

あきらは小さくタメ息をついて、差し出されたままの日焼け止めを受け取った。

「・・・・わかった。 あっち向けよ」

少し機嫌悪そうに、日焼け止めを桜庭さんに塗り始める。



オレの胸が、ちりちりと痛み出す。


彼女の背中に触れるあきらの手から、目が離せない・・・・



「マコトくん・・・ お願いして、いい?」

控えめな、美沙ちゃんの声。

「・・・・いいよ」

マコトは表情を変えず、美沙ちゃんの背中に、日焼け止めを塗ってあげた。

マコトは無愛想にしてるけど、それでも美沙ちゃんは嬉しそうだった。



「ユージくん、さっさと行っちゃうんだもんなあー」

咲良ちゃんがぷうってふくれた。

「レイキくんでいいや! 塗ってくれるー?」

「『でいいや』って、ひどくねー?」

あんまりな咲良ちゃんの言い方に、オレは苦笑しながら日焼け止めを受け取った。

「だってえ。 美沙はマコトくんに塗ってもらってるのに」

「はいはい。 オレなんかでゴメンね」

日焼け止めを、咲良ちゃんの背中に塗る。


よくよく考えたら、女のコの肌なんて、ほとんど触れたことないや・・・・・・


すべすべの肌に、なんか急に緊張してきた。


「レイキくん。 ココ、水着の境目のとこも、ちゃんと塗ってあげて?」

エリナちゃんに教えてもらいながら、少しドキドキしながら日焼け止めを塗り終わった。


「・・・・はい。 終わったよ」

緊張してたのを悟られないように、小さく息を吐く。


「レイキくん、ありがとー」

緊張してたオレと正反対で、咲良ちゃんは何とも思ってないみたいだ。


・・・ま、そうだよな・・・・

咲良ちゃんは、ユージのこと気に入ってんだし・・・


「・・・レイキくん。 私も・・・いい、かな・・・?」

エリナちゃんが、小さな声で聞いてくる。


「あ、ああ。 いいよ」

好みのタイプのエリナちゃんに遠慮がちに言われて、さすがに少し、ドキドキする。


日焼け止めを手に取って、エリナちゃんの背中に手を触れた。


「・・・エリナちゃんも、ゴメンな、オレなんかで。 ユージの奴、さっさと行っちゃったもんな」


「う、ううん。 私こそ、お願いしちゃって、ゴメンね」


すべすべのエリナちゃんの肌。

・・・・・女のコって、細くても、なんだか柔らかい。

それに、・・・・・小さな、背中。


「・・・ん。 終わったよ」

エリナちゃんは笑顔でオレを振り返った。

「ありがとう、 レイキくん」


・・・・かわいい。


「ね、レイキくんも塗ってあげようか?」

「え、オレ?」


ちらってあきらを見ると、・・・・ 桜庭さんが、あきらの背中に日焼け止めを塗ってあげてるとこだった。


オレは2人から視線を外して、エリナちゃんを見る。


「・・・うん。 お願いしていいかな?」


エリナちゃんはにこって笑って、オレの背中に回る。


エリナちゃんの手が、オレの背中を滑ってく。


・・・・・女のコに、背中を直接触られるなんて、初めてで、ドキドキする・・・・・


そんなことを思ってたら、突然、エリナちゃんに脇腹をくすぐられた。


「ひゃっ!?」

変な声を上げてしまった。


慌てるオレを見て、エリナちゃんがくすくすと笑う。

「終わったよー」


「ったく・・・ びっくりしたじゃん」

オレはエリナちゃんの頭を軽くぺしって叩いた。

「ふふ・・・ ゴメンね」

上目づかいでオレに謝ると、エリナちゃんはオレの腕を掴んで引っ張った。

「ね、行こ?」

「うん」


エリナちゃんに腕を引かれて、オレたちはユージたちのところに行った。







「はーっ、しょっぱい」

みんなに水をかけられまくって、口にも入ってしまった。

海水のしょっぱさが口の中に広がる。


濡れた髪をかき上げて、オレは砂浜に足を向けた。


「ちょっと、休憩してくるー」

「おっけー」

ビーチボールで遊んでるみんなに声をかけてから、荷物のところに戻った。


レジャーシートに、周防くんが座ってるのが見える。

一人で、タバコを吸っていた。


・・・やっぱ、オトナな感じだよなあ。


近づくにつれて、周防くんの視線が、ビーチボールで遊んでるみんなの方を向いてないのに気付いた。



彼の視線を追うと・・・・・


2人で連れ立って、かき氷を買いに行っている、あきらと桜庭さんの姿が見えた。


2人の立ち位置は近くて。


また、オレの胸が苦しくなる。



だって、ビキニ姿の桜庭さんは、ホントにキレイでかわいい。

スタイルもいいし、あきらの隣にいるの、ホントに似合う。

誰が見ても、あの2人は恋人同士に見えるだろう。

それに、今は2人とも水着姿。

立ち位置が近いってことは、肌が、触れあっているだろう。



周防くんは、そんな2人を見ていた。

・・・・いや。 ただ見てるんじゃ、ない。


その視線が、結構キツイものだと、気付く。


・・・・・睨んで、る?



オレの周防くんに近づく足が、止まる。

声をかけることもできなくて、周防くんを見たまま、立ち尽くしてしまった。


「・・・ああ、坂本くん」

オレの視線に気づいたのか、周防くんがオレの方を見た。

「休憩?」

そう言って、にっこり笑ってくれる。


その視線は、もうキツくなくて、いつもの周防くんだった。



「あ、ああ。 すげー水かけられて」

オレは自分の荷物からタオルを出してカオを拭いた。


「周防くんは、遊ばないの?」

「ああ。 今、柚葉とあきらがかき氷買いに行ってくれててさ。 それ待ってんの」

そう言って、ふうって息を吐く。 周防くんの口から漂う煙が、空中に消えていった。


さっきの視線のことが気になって、でも何も言えなくて、所在無げにオレが立ってると、

「座れば? もうすぐ2人も戻ってくるからさ。 一緒に食おうぜ?」

そう言って、自分の隣に誘ってくれた。

「うん。 ありがと」

オレは周防くんの隣に腰を下ろす。


「買ってきたぜー」

その時、あきらと桜庭さんが戻ってきた。

「あ、レイキも戻ってきたんだな」

あきらがオレを見て口角を持ち上げる。


「はい、巧くん、これでいい?」

「ああ。 ありがと」

桜庭さんが、メロン味のかき氷を周防くんに渡した。


「坂本くんの分も買って来ればよかったね」

桜庭さんがすまなさそうに言ってくれる。

「ああ、オレはイイよ」


「レイキ、オレと半分コしよ?」

あきらが嬉しそうにオレに言う。


いや、オレもうれしいけど・・・・・ ちょっと、恥ずかしい。


「ありがと。 じゃ、少し、ちょーだい?」

「ん」


あきらが持ってるのは、コーラ味のかき氷。

あきらは自分で一口食べた後、スプーンですくって、オレに差し出した。

・・・・ねーちゃんと、ケーキ食べた時みたいに。


「はい、レイキ」


う・・・・

2人の視線がイタイ・・・・・


オレは恥ずかしいなって思いながら、口を開けて、あきらのくれたかき氷を食べた。



「・・・・なんか・・・・ 2人って、ホント、仲良いんだな・・・・」

周防くんが、ちょっと驚いたような表情で呟く。


「え、へ、変、かな?」

どう思われてるんだろうって、少しドキドキしながら聞くと、周防くんはふって笑った。

「いや、まあ、いーんじゃない?」


や、やっぱ、変だったかな・・・・・

『食べさせ合いする男子なんて』って、この間もねーちゃんに言われたし・・・


「ねえあきらくん。 私にもちょうだい?」

桜庭さんが、かわいくあきらにおねだりする。

あきらは無言で、自分のかき氷をカップごと桜庭さんに差し出した。


「えー。 坂本くんみたいに、してよー」

不満そうな桜庭さん。

・・・まあ、そりゃ、そーだよ、な。


「はい、柚葉。 コッチ食べてみなよ」

そう言って、周防くんが自分のスプーンでかき氷をすくって、桜庭さんに差し出した。


「巧くん、ありがと」

にこって笑って、桜庭さんは周防くんのかき氷を食べた。

「じゃあ、私のも、はい」

桜庭さんが、自分のイチゴのかき氷をスプーンですくって、周防くんに差し出す。

周防くんも、そのかき氷を食べた。


「おいしい?」

「ん。 イチゴうまいな」

周防くんは嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、あきらくんも。 はい」

桜庭さんに、スプーンを差し出されて。

あきらは少し迷った表情をしたけど、結局、それを食べた。


「私も、ちょうだい?」

おねだりされて、あきらは自分のスプーンでかき氷をすくって、桜庭さんに食べさせた。



・・・・美人の桜庭さんの両隣に、イケメンのあきらと周防くん。


すっごく、絵になるんだけど。


オレはやっぱり、見てたくなくて。



「オレ、遊んでこよーっと」

タオルを置いて、立ち上がった。



「レイキ、もう食わねーの?」

あきらに声をかけられるけど。

「ん。 もういーや」

オレは振り返らずに、みんなのところに戻った。




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