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30.ケーキ

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「ねーちゃん、すげー美味かったよ。 ありがとな」

「どういたしまして。 お口に合って、良かったです」

洗い物をしてるねーちゃんの横に立って、オレは食器を拭く係り。


「また作りに来てあげようか?」

「ああ。 助かる」

「ま、次の彼氏が出来るまでね」

「じゃあ、しばらく来てくれるってことだよな」

オレの言葉にねーちゃんがオレを睨む。

「ちょっと、どういうことよ」

「じょーだんだよ」


ねーちゃんは、小さくため息をついた。

「・・・・・ホント。 どこかにいい人、いないかなあ・・・・」


オレはちらってねーちゃんを見た。

・・・・・やっぱ、まだ立ち直ってなさそう。

そりゃあ、そーだよ、な。


「・・・・久しぶりに晃くんと話したけど、なんか大人っぽくなったね」

「そう?」

「玲紀はあんまり変わんないわよね。 まあ、いつも話してるから分からないだけかもだけど・・・・ でも、あんたより、ずっと大人っぽい感じがする」

そう話すねーちゃんの表情は、柔らかい。


「・・・・ねーちゃん。 あきらのこと、いいな、とか、思うのか?」

オレの言葉に、ねーちゃんは少し照れたように笑った。

「えー? ・・・・まあ、確かにカッコいいよね。 あんたと仲良いのが不思議なくらい」

「そうじゃなくて。 ・・・・あきらのこと、どう思うの・・・・・・?」


だって、今日はねーちゃん照れてること多かったし。

なんか、女子、って感じだった。


「どうって・・・・別に?」

「・・・・ホントに?」

「うん。 カッコいいなーとは思うけど・・・・・ 私、基本的に年下ダメだし」

「そう、なのか?」

「そうなの。 なんかー、年下って、あんたとイメージかぶっちゃって」

困ったように笑うねーちゃん。


そ、か・・・・・・・

今日のねーちゃんの反応見てて、もしかしてあきらのこと・・・・って、思ってたけど・・・・・

そういうわけじゃ、ないんだな・・・・・・


ホッとしてる自分がいる。

・・・・・ねーちゃんにまでヤキモチって・・・・・・ オレ、ホント重症だな・・・・・・


「なに? もしかして、私が晃くんのこと好きになったらって、心配してくれてるの?」

「え? あ、ああ・・・・・」

「晃くんみたいな人好きになったら、大変そうだもんね。 モテるだろうから」

「・・・・・うん」


・・・・・・オレはまさに、それで苦しんでるわけだけど。


「大丈夫よ」

ねーちゃんはオレを安心させるように、にっこりと笑った。



「お茶、入れましょうか?」

急にあきらに話しかけられてびっくりする。

洗濯ものを片付けに行っていたあきらは、いつの間にかリビングに戻ってきていた。


やば・・・・・

聞かれて、ないよな・・・・・・?

ねーちゃんにまでヤキモチ焼いてたなんて、知られたくない・・・・・



「ありがとう、晃くん」

「紅茶で良いですか? 普通のティーパックですけど」

「うん。 うれしい」

あきらの言葉に、ねーちゃんはにこって笑う。



オレたちが食器を片づけ終わる頃、あきらはテーブルに紅茶と、買ってきておいたケーキを並べてくれていた。


「ケーキ買ってきてくれてたの? うれしいー!」

オレと同じで甘いもの好きなねーちゃんは、瞳を輝かせる。

「ご飯作ってもらうお礼に、買ってきておいたんです」


ケーキは、チョコ系とクリーム系とタルト。

あきらは普段はあまり甘いものは食べないけど・・・・・・


「ねーちゃん、選んでいいよ」

「ホント? じゃあ・・・・、コレ」

ねーちゃんが選んだのは、フルーツがたくさん乗ったタルト。

うん、多分それを選ぶと思ってた。


「あきらは、どっちがいい?」

どっちにしても、あまり好きではないのかもしれないけど。

「レイキ、選んでいいよ?」

微笑んでくれるあきらに、甘えることにする。

「じゃあ、オレこっち」

オレはチョコ系のケーキを選んだ。

必然的に、あきらがクリーム系のケーキになる。



「おいしいー♡ 玲紀、晃くん、ありがとう」

「こちらこそ。 おいしいご飯をありがとうございました」



チョコケーキ、うまい。

チョコが濃厚で、オレが好きな感じのケーキだ。


ねーちゃんはタルトを堪能してたんだけど、ふとオレのケーキを見て、

「ね、ちょっとちょうだい?」

オレのチョコケーキにフォークを刺した。


返事する前に取んなっての。


「じゃ、オレもちょーだい?」

オレもねーちゃんのタルトを少しもらった。


「んー。 チョコもおいしいね」

「タルトも、うまい」


オレたちを見て、あきらが笑う。

「美紀さんも、甘いの好きなんだね。 レイキと美紀さん、食べてるカオがそっくり」

あきらの言葉に、オレたちはお互いを指さした。

「うそ。 私、こんなカオして食べてる?」

「オレだって、こんなカオしてねーし」

オレたちの反応に、あきらがさらに笑う。

「反応まで一緒だ」


あきらは自分のケーキを指さした。

「美紀さん、これも食べてみる?」

「え、いいの?」


あきらの食べかけのケーキ。

それをねーちゃんに勧めただけでも、少し、気になったのに。


あきらは自分の皿をねーちゃんに差し出すのではなく、自分のフォークにケーキを乗せて、


「はい」


フォークを、ねーちゃんに差し出した。


自分のフォークから食べるように。



さすがにねーちゃんも少しびっくりしてたけど。

気にすることでもないと思ったのか。

口を開けて、あきらのフォークからケーキを食べた。


・・・・そう。 

恋人同士が、『あーん』って、してあげてるみたいな。




ぎゅって、オレの胸が苦しくなる。


・・・・・あきら、なんで? 


オレのねーちゃんだから、あきらも気にしてないってこと、だよ、な・・・・?


胸が苦しくなる、オレが、おかしいんだよ、な・・・・?



「うん! これも、おいしいね!」

オレの気持ちなんてよそに、ねーちゃんは満足そう。

「晃くんも、タルト、食べてみない?」

「いただきます」


さすがに、ねーちゃんは『あーん』はしなかったから、あきらは直接ねーちゃんの皿からタルトを少し取った。


「・・・・うん。 フルーツたっぷりで、おいしいですね」

「でしょ?」




あきらが、オレに視線を向ける。

完全にケーキを食べる手が止まってしまってたオレは、少し慌てた。


「レイキも、コレ、食べてみない?」

「え、あ、ああ」


オレがあきらの皿に手を伸ばそうとすると、あきらはねーちゃんにしたのと同じように、自分のフォークにケーキを乗せて、オレに差し出してきた。


「はい、レイキ」


あきらは、微笑んでオレを見てる。


オレは恥ずかしくて、カオが赤くなりそうだった。


「・・・・・いらない?」


「い、いるよ! いる!」



・・・・・ねーちゃんが、見てる。

恥ずかしいけど、実はすごく嬉しくて。



オレは口を開けて、あきら持ってるフォークからケーキを食べた。



・・・・・やばい。

恥ずかしくて、なんか緊張して、味がよくわからない・・・・



「レイキ、おいしい?」

「う、ん。 美味いよ」


あきらのカオが見れない。


「ね、レイキのも、ちょーだい?」


あきらの、甘い声がする。

・・・・これって、オレにも同じようにやれってことだよな・・・・・・



「ん」


オレも自分のフォークにケーキを乗せて、あきらに差し出した。


あきらがカオを近づけてきて、ぱくって、オレの持ってるフォークから、ケーキを食べた。


あきらは満足そうに微笑んで。


「うん。 チョコが濃厚で、おいしいな」



・・・・・あきら。

オレと、食べさせ合い、したかったのかな・・・・・?

だから、わざと、ねーちゃんに、あんなことしたのかな・・・・・?



あきらがどう考えてるかは分からないけど、そう望んでたんだと、思うことにしよう。




「玲紀と晃くんって、ホントに仲良いのね。 食べさせ合いする男子なんて、初めて見た」


ねーちゃんが、少し呆れたように言った。



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