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21.なにを怒ってるんだ?

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月曜日。

朝、教室の前の廊下で、桐谷に会った。

クラスメートなんだし、無視するのも変だろって思って、

「おはよー、桐谷」

オレはにって笑ってあいさつをする。

そのまま、足を止めずに教室へ向かおうとすると、桐谷に左腕を掴まれた。

「おはよう、星野。 少し時間、いいか?」

オレは右手で桐谷の手を掴んで、オレの腕から離させる。

「委員長サマは、なにかとやること、あるだろ? オレに構ってるヒマ、ねーんじゃねーの」

桐谷はまた、少し傷ついたような表情をした。


・・・・ああ、オレ、ダメだな。

桐谷にこんなカオ、させたいわけじゃないのに。


「・・・・学校では話すのやめようっていったじゃん」

少し小声で、桐谷に話す。

「・・・・少しくらいいいだろ。 クラス一緒なんだし。 やっぱり、星野が気にし過ぎだ」

「・・・そんなことねーよ」

「でも」


「瑞樹、桐谷くん♡ おはよー♡」

桐谷の言葉を遮るように、美香が元気に声をかけてきた。

「美香、おはよー」

「橋口さん、おはよう」

美香はにこって笑って、

「ねえねえ、桐谷くん」

桐谷に話しかける。

桐谷との話を切り上げたかったオレは、丁度いいと思って、教室へ足を向けた。

「あ、ちょっと、瑞樹も聞いてよ!」

美香が呼び止めるけど、オレは無視して教室に入った。 席に向かうオレの後ろを、美香がついてくる。


「瑞樹ってば、ねえ、聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。なんだよ?」

カバンを机に置いて席に座りながら、ため息混じりで美香を見る。

美香は嬉しそうに笑って、

「あのね、美味しそうなスイーツのお店見つけたの!  今度、瑞樹と桐谷くんと、一緒に行きたいなぁって思って」

「ふーん」

「ふーんって・・・興味無いの? スイーツ男子なのにー」


・・・その、美味しそうなスイーツってのには、正直言ってかなり興味はある。

でも・・・・


「もう、この間みたいなのはねーよ。 オレに桐谷を誘わせようとしても無理だから」

美香も含めて、学校の人間に、桐谷と親しくしてるところを見られたくない。


「え・・・なんで?  この間、すごく仲良かったじゃない。
ケンカとかしたの・・・・?」

美香は心配そうにオレを見た。

「いや別に、そういう訳じゃないけど・・・
まあ行きたいなら、桐谷誘って行けよ。 でも、桐谷誘うなら、オレは行かねーから」

「えーっ」

美香は不満そうな声を上げる。


「別にいいだろ。 お前、桐谷のこと気に入ってんだし、行けば」

言いながら、なんだか胸が少し痛いのを感じていた。

なんでだろ・・・・・


なんかわかんないけどイライラしてしまって、オレは席を立って教室を出た。





「瑞樹、和真、お昼一緒に食べよう?」

昼休み、オレと和真に、美香と由奈が話しかけてきた。

「和真は、彼女のところいかなくていいのかよ?」

ニヤってして和真に言うと、軽くオレをニラんで、

「別に毎日一緒に食べるわけじゃ・・・・ 向こうだって、友達いるしさ」

「そっか」

オレたちは手近な机を借りてくっつけて、弁当を食べる準備をする。


「あれ・・・・ そういえば、陽人は?」

きょろきょろと見回すけど、陽人の姿はない。

「あー、3限くらいからいねーよな。 どっかでサボってんだろ。 寝てんのかな」

「ふーん・・・ まいっか。 先に食べてよーぜ」


4人で話しながら弁当をつつく。


「瑞樹、機嫌なおったみたいね」

美香がオレを上目使いで見ながら言う。

「別に、機嫌悪くねーし」

「うそ。 朝、なんか機嫌悪かったでしょ」

「瑞樹、なにか怒ってたの?」


美香は、朝スイーツの店の話をしたときの、オレの態度のことを言っているらしい。

由奈と和真に、なにがあったのか説明してる。


「瑞樹、桐谷くんとケンカでもしたの?」

「だから、別にしてねーって」

「なんか失礼なこととか言って、桐谷くんのこと怒らせたんじゃないの?」

由奈が仕方ないなあって感じで見る。

「なんも言ってねーし」


「って言うかさ、瑞樹と桐谷って、スイーツつながりだったんだ」

和真がへえーって、感心したように呟く。

「瑞樹がそんなに甘いもん好きってのも知らなかったけど、桐谷がなあ・・・ なんか、意外だな」

「でしょー。 なんか意外で、そこがかわいいなあって♡」

美香がうれしそうに言う。


弁当を食べ終わった頃、教室に陽人が入ってきた。

「あ、陽人ー。 先に弁当食ってたぜ」

和真が陽人に手を振る。

陽人は和真にちょっと手を挙げて応え、無言でオレたちに近づいてきた。

「陽人もご飯食べれば?」

美香が陽人用にイスを引き寄せる。


「いい。 いらねー。
・・・・瑞樹」


低い声で名前を呼ばれて、ちょっとびっくりした。

「ん? なんだよ?」

見上げると、陽人は眉間にシワを寄せてオレを見下ろしていて、お世辞にも機嫌がいいようには見えなかった。


「・・・・ちょっと、来い」

そう言うと、オレの左腕を掴んだ。

「っいてっ・・・・」

その力は思いのほか強く、オレは思わずカオをしかめてしまう。

「ちょっ、陽人、いてーし」

「いーから、来い」

ぐって引っ張られて、オレはガタンってイスを鳴らして立ち上がらせられる。

そのまま、ぐいぐい引っ張られて、教室を出た。


「陽人っ。 いてーよ。 そんな引っ張んなって」

訴えるけど陽人は全然オレの方は振り返らず、オレを引っ張ってどんどん歩いてく。


・・・陽人、機嫌悪すぎだろ。 なにを怒ってるんだ?


オレはもう諦めて、黙って陽人についていくことにした。




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