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11.合コンの、話

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「わあ、おいしー♡」

「ふわふわだねー♡」

待ちに待ったパンケーキ。

オレたちはそれぞれ頼んだパンケーキを堪能する。

オレと桐谷が隣に座って、桐谷の前に美香、オレの前に由奈が座ってる。


これ、ふわっふわで、クリームたっぷりで、すっげーおいしーーー!

美香たちがいるから、あんまり顔に出せないけど、すっげー幸せ。

「ほんと、ふわふわだな」

桐谷も感心したように言う。

たぶん・・・桐谷は、特に甘いものが好きってわけじゃないと思う。

オレに合わせて、つき合ってくれてるだけだと思うけど。 でも、おいしそうに食べてるから、良かった。


「星野、食べるか?」

桐谷が自分のプレートを指して言う。

「ああ、食べる」

桐谷の和風のも、すげーおいしそう。

もらおうと、桐谷のプレートに手を伸ばすと、


「はい、星野」

桐谷が、小さく切ったパンケーキとアイスや小豆をスプーンに乗せて、オレに差し出してきた。

「あ、ありがと」

そのスプーンを受け取ろうとするけど、

「ちがう。 口、開けて?」

口角を持ち上げて、オレを見る。


・・・それはやり過ぎだろ。


「自分で取るよ」

「だめ。 コレ」

自分で食べるのを、桐谷が許してくれない。


美香や由奈が気になるけど・・・・・

仕方ねーか・・・・・


オレはあきらめて、口を開ける。

桐谷はうれしそうに、オレに食べさせた。

・・・・美香と由奈の視線が痛い。 けど、うれしそうな桐谷の表情に、なんだかオレもうれしくなって。


「・・・・どう?」

「うん。 和風も、いい。 おいしい」


オレに微笑む桐谷を見て、衝動的に、

ほんとに衝動的に、


キスしたいなって、 思ってしまった。


「桐谷」

無意識に、桐谷の腕を掴む。


「星野?」

桐谷は不思議そうにオレを見た。

そしてオレの表情を見て、なにか感じたのか。

フッて笑って、

「・・・星野、これおいしかったのか? まだ食べていいから」

オレを諭すように、もう一回スプーンを差し出してくる。


オレ、なにしようとしてた・・・・?

美香も由奈もいる前で。


「・・・いや、いい。 ありがと」

桐谷の腕を放して、自分のパンケーキをまた食べ始める。


いくらなんでも、こんなところでキスしたいって思うなんて・・・オレ、どうかしてる。


「瑞樹、そんなに桐谷くんのがおいしかったの?」

美香に聞かれて、

「あ、うん・・・ うまかった」

確かに、おいしかったけど。


「そう言えばアイスの時も、桐谷くん、瑞樹に食べさせてたよね」

美香がアイスクリームショップでのことを思い出して言った。

「そうなの? なんか、意外だね」

由奈の反応はもっともだ。

「桐谷くん、彼女を甘やかすタイプなの? 桐谷くんの彼女になったら、幸せなんだろうなー♡」

桐谷を見つめる美香の瞳が、輝いてる。

「なんか、瑞樹を餌付けしてるみたいだね」

由奈はオレを見て笑った。

「餌付けって。 オレ、ペットじゃねーし」

ぶすってして言うと、オレの前にスプーンが差し出された。


「餌付けして、懐いてくれたらうれしいなって思ってるけどね」

桐谷はクールな表情で、オレのことを見てた。

「オレはそんな簡単に餌付けなんてされねーから」

そう言いながら、差し出されてたスプーンは、口を開けてまた食べさせてもらう。


「なんか2人って、おもしろいね」

オレたちの様子を見て、美香も由奈も笑った。

「陽人たちといる時と、瑞樹雰囲気違う」

「そうかな」

「うん。 あ、陽人といえば」

美香がなにかを思い出したように、オレを見た。

少し、鋭い視線。


「瑞樹。 明日、また陽人と合コン行くんでしょ」


急に言われて、オレの手が止まる。


・・・・やばい。 桐谷の前で、そんなこと。


「え、陽人と? また行くの?」

由奈も呆れたように呟く。

「ほんと、好きだよねー。 あんたたち」


オレは手が止まったまま。 カオを上げることも出来ないでいた。


「和真にも言われてたよね。 お前ら好きだなーって」

「和真は行かないんだ?」

「明日ね、デートなんだって!」

「ああ、例のコ? うまくいったんだ」

「和真に言われて、でも瑞樹も陽人も言い返してたよね」


やばいって。

もう、美香、黙ってくれ。


「『オレら今フリーなんだからいいじゃん』って」

美香の言葉を聞いて、由奈が笑う。

「あはは。 フリーだろうとなかろうと、合コン行くくせに」


どうしよう。

桐谷、どんなカオで、美香たちの話を聞いてるんだろう・・・・

怖くて、桐谷の方を向けない。


「明日の相手はどこのコたちなの?」

由奈が聞いてくるけど、オレはカオを上げられない。

「知らねー・・・ だいたい、陽人に無理矢理誘われたんだし」

「無理矢理って。 いっつもノリノリで行ってるくせに」


「ねえ桐谷くん、どう思う? 瑞樹、彼女がいてもお構いなしで合コン行くんだよ」

・・・・美香、桐谷に振るな。

オレはちらって桐谷を見た。

クールな表情のまま美香を見ていて、どう思ってるかは、分からない・・・・・


「星野は、合コン好きなんだな。 でもまあ、高井に言ってたみたいに、今回はフリーだから行くんだろ?」


そう言いながら、桐谷はオレを、見た。

クールな、表情。 ・・・冷たい、視線。

でもその中に・・・・少し、悲しそうな、光、が。


『フリーだから』

和真には、そう、言った。


でも、オレは桐谷とつき合ってて。

本人を前に、そんなこと。


オレがなにも言えないでいると、桐谷はオレから目を逸らした。

「まあ、フリーなんだし、行って全然いいんじゃないか? 彼女がいるのに行くのは、さすがに相手がかわいそうだと思うけど」

「でしょ? そうだよね!」

美香が激しく同意する。

「桐谷くんは、合コンとか行かなそうだよね」

「そうだな・・・・ 行ったことない」

「行かなくていいよ! 桐谷くんだったら、そんなの行かなくても、彼女出来ると思うし」

「そんなことないけど」


美香たちの話し声が、なんだか遠くに感じる。



それから、オレはみんなとどんな話をしたのかとか、全然覚えてなかった。

楽しみにしてたパンケーキも、味もよくわからないまま食べ終わってしまって。


「あー、美味しかったね!」

「瑞樹、桐谷くん、一緒させてくれてありがとう♡」

「こちらこそ。 一緒に食べれて、楽しかった」

桐谷はまた、営業スマイルみたいな笑顔。

「ねえ、瑞樹たちはこれからどうするの?」

店から出たところで美香に聞かれて、言葉に詰まる。 この後の予定は特に立てていない。

なんて答えたらいいか悩んでると、桐谷がオレの肩に手を置いた。

「ごめん、この後はちょっと行く所があって」

「そっかー。 じゃあまたね」

「桐谷くん、また遊ぼうね♡」

美香と由奈は、手を振って去って行く。

オレはなにも言えずにそれを見送った。


2人の姿が見えなくなって。

桐谷がオレの肩から、手を放した。


・・・謝ら、ないと。


「あの、桐谷」

「帰ろうか」

そう言って、オレに背を向けたまま歩き出す。

「桐谷、待って」

オレは後ろから、桐谷の腕を掴んだ。


「・・・・ゴメン」

桐谷はオレに背を向けたまま。

「あ、あのさ。 ほんとに」

「星野」

オレの言葉を遮って、桐谷はオレを振り返った。

その表情は、いつも通り、クールなままで。


「オレの家・・・来る?」

「え・・・」

桐谷の、家?

突然のことに驚いたけど。 今、別れて帰る訳にはいかないから。

「・・・うん」

オレは小さく、頷いた。


「・・・じゃあ、行こう」

先に歩き出した桐谷について、オレも歩き出す。

桐谷の背中を見つめながら。







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