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閑話(第六部)

閑話3 とある冒険者

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「くっそ、審議官ってなんなんだよ!」

 オレはソロで活動するBランクの冒険者をやっている男だ。フェアデヘルデ王国の王都をぶらぶらと歩いていると、いきなり犯罪者認定を受けたのだ。
 ……いや、いきなりというのも語弊があるかもしれない。一週間ほど前に貴族と揉めた記憶はある。泊まっていた宿の看板娘に絡んでいた男を追い返したら、それっぽい捨て台詞をもらったばっかりだ。

「ぬおりゃああぁぁぁ!」

 そんなわけで俺は今、スタンピード真っ最中なサタニスガーデンに来ている。罰金で借金を抱えた今、手っ取り早く稼げる場所がここなのだ。まぁ借金がなくてもここに来ていたとは思うけど。自分の腕を試すにはちょうどいい場所だ。

 襲い掛かってくる魔物を蹴散らしていると、少しずつ借金が減っていく実感が湧いてくるので気分がいい。だがそれがいけなかったんだろう。
 鐘が鳴らされる音が遠くから聞こえてくる。ふと気が付けば突出しすぎていたようだ。周りに他の冒険者はおらず、遠くから魔物の集団が向かってきているのが見える。

「やべぇ……、やっちまったか」

 急いで撤退するが間に合うかどうかはわからない。だからといって足を止める理由にはならないので、ひたすらに後退する。

「くそっ!」

 さすがに魔物の群れの侵攻速度は早い。地面が平坦ではないせいか、思ったより後退する速度が出ない。抵抗むなしく追いつかれたので、振り返って盾を構える。絶望を感じながらも攻撃を受け止めようとグッと力を入れたとき、こちらに一撃を加えようとした魔物が何かに跳ね飛ばされて吹き飛んでいった。

「……は?」

 跳ね飛ばしていった方向を見れば、巨大な狼が魔物を蹴散らして走り回っている。よく見ればその背には頭の上に狐耳を生やした子どもが乗っているみたいだ。
 しかも周囲に炎の魔法を無造作にまき散らしていて、魔物を蹂躙しているのだ。

「いやいや、呆けてる場合じゃねぇ」

 思わず見とれてしまったけど、そういえば撤退中だったことを思い出した。自分に迫る魔物がいなくなったならば立ち止まる理由などない。

「助かった……。危ねぇところだったな」

 無事に第二外壁のところまで戻ってくると額の汗を拭う。

「それにしても……よくわからんな」

 聞いた話だとあの狼はSランク冒険者の従魔らしい。見た瞬間やべぇと思ったし、それはいいんだ。だけどその背に乗ってた狐人族のガキはなんなんだ? あれもSランク冒険者のツレなんだろうか。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、生き残れた今を噛みしめるのだった。



 それからまた数日たったある日。またも鐘が鳴らされる音が聞こえてきた。
 幸いにして今は現場に出ておらず、第二外壁の上で休憩中なので安心して見ていられる。それにしてもいつもよりも鐘の音が激しい。森を見ればわらわらと魔物が染み出すように大量に出てきている。目の前の森だけでなく、遠くの森からも魔物が出てきていて隙間がない。

「うわぁ……」

 思わす声が漏れてしまった。
 これってこのままここでボケっとしてたらダメなやつじゃないだろうか。あんなに大量の魔物がここまで来れば、あっという間に飲み込まれてしまいそうだ。

 ああ、そういえばこの鐘の鳴らし方は、全員撤退の合図だったっけか。Sランク冒険者が出るから邪魔な奴らは引っ込んでろだったか?
 この前の従魔の活躍を思えばその主であるSランク冒険者は強いんだろうけど、この数の魔物に対抗できるんだろうか。

 若干不安に思いながらもじわじわと迫ってくる魔物を眺めていると、そろそろ本気で逃げようかと思うくらいに魔物が近づいてきたときにそれは起こった。

 ある一方向から超広範囲にばら撒かれる魔法だ。
 迫りくる魔物を次々に吹き飛ばして再起不能にしていく。たまに生き残った魔物もいるようだが、死にぞこないには興味がないとばかりに魔法が降り注いでいない場所へと魔法が飛んで、その範囲がどんどん広がっていく。
 射程範囲が馬鹿みたいに長い。数キロ先にある魔の森にも到達しているみたいだ。

「ハハハ……」

 地形を変えながら魔物を蹂躙していく魔法に乾いた笑いしか出ない。これがSランク冒険者の実力か。
 災害のような超広範囲魔法が過ぎた後の大地には死屍累々と魔物が横たわっており、あとは残党狩りをすれば終わりそうな勢いだ。
 頭数を減らしてくれたSランク冒険者のあとに続いて、スタンピード本番に耐えるのかと気合を入れていたがもう終わってしまった。



 借金を返すためにも金を稼ぐんだと勢い込んでいたが、思ったより稼げずにスタンピードが終わった。Sランク冒険者マジでヤバい。
 大量に出た魔物素材をギルドが整理し、報酬を冒険者に配れるようになるまで待つこと数週間。予想外……というかとんでもない額の報酬を受け取ってしまった。

「ナニコレ」

「ああ、シュウさんからの特別報酬らしいですよ」

「え?」

 わけがわからずギルド職員に聞き返してみるも、職員本人もあまり詳しいことはわかっていないらしい。シュウって、もしかして最近噂のSランク冒険者だよな? 国落としのシュウだっけ? あんな超広範囲魔法なんて食らえば一瞬で街が更地になりそうだし、国落としの二つ名も納得できる。

「なんでも、証拠を掴めたのはあなたのおかげだとか」

「うん?」

 やっぱり言っていることがよくわからない。

「はは、まぁよかったじゃないですか」

「あー、うん……、そうだな」

 よくわからないがもらえるものはもらっておこう。借金どころか余裕で一生が暮らせそうだ。

 後日ロナールに晩飯を奢られつつも慰められたが、今の俺には余裕があるんだぜ?
 むしろ奢ってやろうかとも思ったけど、黙って慰められておくことにした。
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