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第六章

罪科の決定

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「さて、そなたらには、今このような状況になっているきっかけを作った張本人であるという容疑がかかっている」

「「「は?」」」

 国王の声に再び揃ってバカ面を晒す三人。
 城に乗り込んだのは俺たちだけど、確かにきっかけを作ったのはこいつらで間違いない。

「よ、容疑ですと!?」

「今の……、状況?」

「は? え、どういう……」

 長官が国王に驚きの声を上げ、審議官は周囲を見回している。男爵に至ってはいまだによくわかっていないのか、青い顔をしたままうろたえている。

「まったく身に覚えがありませんが、どのような罪なのでしょう。この場に魔物がいることのほうがよほど重大事件のように思いますが……」

「なるほど」

 困惑気味に長官が告げると、国王が感心したかのように声を上げる。

「この状況がすでに重大事件という共通認識はあるようでなにより」

 国王の同意する言葉に少しだけ安心したのか、長官の表情が和らぐ。

「じゃが最初に言った言葉を翻すつもりはない。ワシはきっかけを作ったと言ったはずじゃ」

「きっかけ……?」

 本気でわかっていないようで長官は首を傾げている。男爵は俺に気が付いたようで、最初は訝しんでいたが今では目を見開いて口をパクパクさせていた。審議官に至っては俺のことに気が付いていないようで、キョロキョロと挙動不審な動きを見せている。

「ベイファン・ローイング男爵」

「は、はひっ!」

 国王がおもむろに名前を告げると、男爵が慌てて国王へと顔を向ける。

「そなたはSランク冒険者を不敬罪と強盗の罪で訴え出たそうじゃな」

「は、はい! あ、あやつらは貴族のわたしを敬うどころか、わたしの鏡を横から奪って持ち去っていきました!」

 挙動不審ではあったが、国王の言葉にわが意を得たりとばかりに俺を指さして胸を張っている。第一印象で頭は悪そうだなと思っていたが、どうやら空気も読めないらしい。

「ふむ。自ら罪を認めるとは潔い」

「え?」

 予想外な言葉だったようで、一言発したっきり男爵の動きが停止する。

「不敬罪が適用されるのは国民だけじゃ。そもそも不敬罪という物は濫用してはならん。現場も王都でも有数の商店じゃし、本当かどうかはすぐに目撃証言が取れるじゃろう」

 国王が次に目を向けたのは隣にいる審議官だ。

「ウェズリー・グラブス子爵」

「はっ」

 男爵と比べれば落ち着いているようだが、額にびっしりと汗を浮かべていて内心では焦っているように見える。

「罪を犯しているかどうか慎重に審議する審議官とあろう者が、相手とロクに顔を合わせていないとはどういうことかね」

「詳しく話を聞こうと思いましたが、拒否されたので……」

 そういえば付いて来いと言われてスルーした記憶があるな。しかしそれで黒と判断されちゃたまらんな。接触もせずに拒否されたていで有罪判定とかしてそうだ。

「そんなことで有罪が決まるなら審議官という存在など不要じゃ」

 だが国王は審議官の言い訳をバッサリと切り捨てる。

「スタンピードの警戒レベルが上がったので、あの後に接触する機会がなかったのです」

「そんなものは言い訳にもならん。どちらにしろそなたが王都に引き返してくる前には城に犯罪確定通知書が届いていた。会って話をする前からすでに確定事項だったのじゃろう?」

 珍しくて覚えていたっていう、俺の書類のことかな? 冒険者の動向も割と情報収集してるんだなと思ったが、それはそれでもうちょっと隠蔽工作しろよと言いたい。ガバガバじゃねぇか。

「しかも不敬罪と強盗だけでなく、殺人未遂の罪も付けていたとか」

「!?」

 国王の言葉に驚いたのは男爵だ。
 目を見開いて審議官と長官に目を向けた後、国王に向かってフルフルと首を振って否定している。

「最後に、ダレーディモ・トーガビート伯爵」

「ハッ」

 さっきまで比較的冷静だと思っていたが、国王に名前を呼ばれたあたりでプルプルと震えだしている。

「殺人未遂も追加して審議官であるウェズリーを送り出したのはそなたか」

「……そ、それは」

 言葉を濁す長官だが、それ以上出てこないらしい。認めたようなものではあるが、こんな場所に呼び出されてしまえば悪あがきもできないのかもしれない。

「そして犯罪確定通知書を宰相に通すのもそなたの役目だ。話を聞く前に出したウェズリーもだが、それを知って通すとは審議官の風上にも置けん。ましてや罪を勝手に追加するなど言語道断じゃ!」

「ぐっ」

「その結果、今のような状況になっておることは理解できておるな?」

「はっ。……ひとりの冒険者に、いわれのない罪を着せたことを――」

「そうではない」

「え?」

「うん?」

 おっと、思わず声が出てしまった。
 俺以外にも無実の罪を着せた人間がいるだろうって言いたいのかな?

「宰相の放った暗部や軍隊、騎士団を真正面から力づくで突破され、こうして謁見の間を配下と思われるゴーレムに占拠されておる」

 国王が淡々と話している言葉を聞かされている三人が、さらに顔を青ざめさせていっている。

「今はこうして大人しくしてくれているが、ワシらの命などほんの少し手を動かすだけで刈り取れることじゃろう。そのきっかけを作ったのがそなたらだということじゃ」

 他に被害者がいるだろうって話じゃなかった。
 確かに城に突撃してきたけど、国王からすれば喉元に刃を突き付けられてる状態なのは間違いない。

 恐ろしいものでも見たかのような視線を三人だけでなく、他の大臣らからもらったけど、ここは開き直って手を振り返したほうがいいだろうか。

「わかったのであれば今から沙汰を下す。ここにいない宰相も含めて、そなたらは国家転覆の罪科とする」
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