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第六章

数には数で

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「国家転覆罪ってなんだろうな?」

 思わず振り返って聞いてみるが、莉緒は首を傾げるだけだ。なんとなくはわかるんだけど、あくまでもなんとなくなのだ。

「いやほら、あれじゃねぇかな。国家を転覆させるような罪ってことだろ?」

 イヴァンからはそのままの説明がなされるけど、たぶん本人もわかってないだろう。

「国家転覆とは、国の政治基盤や国民が生活する上での基本秩序を崩壊させることを指します」

「へぇ……、そうなんだ……」

 エルから真面目な説明が返ってくる。正直言えば俺自身はネタで振っただけなのでぶっちゃけるとそこまで興味はない。が、莉緒は何かひらめいたようで、かしげていた首をまっすぐ戻している。

「要するに、自分たちが敷いたルールが壊されるってことよね。貴族がやりたい放題できるルールが変わったら、みんな過ごしやすくなるんじゃないかしら」

「はは、確かにそうだな」

 支配層のいいようにできなくなると適用される罪ということか。どっちにしろ気にするほどでもなさそうだ。

「何をゴチャゴチャと訳の分からんことを……。とにかく、これで貴様も終わりだ! 覚悟するんだな!」

 言いたいことだけ告げると、馬首をめぐらして部隊がいる後方へと悠然と帰っていく。とはいえ大人しく帰すつもりもない。のんびりと戻っていく男の後姿を眺めつつも、危機感のない男を不思議に思いながら空間遮断結界を発動させる。と同時にあらかじめ手綱を切断しておく。

「な、なんだっ!?」

 馬が可哀そうなので、結界は男の上半身前方にだけ発動させている。馬は何事もなく歩いて進むが、見えない結界にぶつかった男は前に進めずに仰け反るしかできない。
 落馬しそうになって手綱を引っ張るが、切断されている手綱では男の体を支える役目は果たせない。男はそのまま後方へと落下するしかなかった。

「ぷぎゃっ!」

 地面にぶつかると変な鳴き声を上げて周囲を見回している。逃げられないようにさくっと檻で囲えば捕獲完了だ。
 何かを叫びながら激しく壁を叩くがもちろんそんなことで壊れるはずもない。

「さてと、こいつはいいとして、あれはどうしようか」

 街道周辺に展開された部隊をぐるっと見回して考えてみる。

「全員捕まえて連行するのは現実的じゃないわよね」

「適当に攻撃魔法ばら撒いたら、当たり所の悪い奴が出そうだしなぁ」

 一応一般人から見ても非がどちらにあるかわかるように、こちらから手を出すようなことはしていない。あとはできるだけ殺さないように抑えてはいるのだ。死んだらそこで終わりだし、俺たちに手を出すなと喧伝する奴らは多いほうがいい。

「うーん、こっちも数で対抗するか?」

 ふとダンジョンのTYPEシリーズが脳裏をよぎる。
 俺たちの個としての強さはスタンピードで先制攻撃をぶちかましたときに伝わったと思っている。その結果がこれなのだから、新しいアプローチをすべきなのかもしれない。

「マジか」

「いいんじゃない?」

「いくつかの部隊の制御ならお任せを」

「ボクもがんばるよ?」

「わふわふっ!」

 何やらみんなやる気である。

「んじゃやっちゃうか」

 イヴァンだけ引きつった顔をしているが些細な問題だ。

「あーっと、シュウ、あっちも動き出したみたいだぞ。早くしないと」

 と思ったら慌てて急かしてきた。確かに待機していた部隊が動き始めている。ついさっき指揮官を捕らえたところだし、ばっちり見られていたんだろう。

 ……あの男が一応の指揮官だから、救出するために動いたで合ってるよな?

 ちょっと頭が悪いから実際に指揮を取ってる奴は別にいるんだろうが、動き出したなら迎撃は必要だ。

「へいへい」

 適当な返事をすると、異空間ボックスから大きめの小屋を取り出して地面に設置する。ダンジョンと繋がっている次元の穴が設置されている小屋だ。命令を下すと即座にTYPEシリーズが隊列をなして出てきた。

 こちらを見ながら檻の中で暴れていた男が、出てくるTYPEシリーズを指さして口をパクパクさせている。何か文句を言ってるんだろうが、音は遮断しているので何も聞こえない。しかし続々と出てくるTYPEシリーズに、指している指が力なく垂れさがって言葉も失くしているようだ。

「おー、あんだけ威勢良かったのに、顔色悪くなってんな」

 今回はこちらも数に物を言わせるのでそこまでの強さは必要ない。スタンピードの間引きで使った時よりランクを落としている。200体ほど呼び出したところでストップすると、小屋を異空間ボックスに仕舞った。一体で五人倒せば目的は達成だ。

「よし、これで揃ったな。じゃあエルにも半分の制御は任せる」

「お任せください。できる限り敵兵の情報も集めます」

「お、おう、頼んだ」

 まさか情報集めもするとは思ってなかったが、集まるのは悪いことでもない。

「目的は敵部隊を殺さずに無力化することだ。指揮官あたりは捕らえて連れてきてもいいかもな」

 セリフと共に制御用タブレットをエルに手渡す。

「はっ」

「うん」

「わふっ」

 エルに続いて、なぜかフォニアとニルからも元気な声が返ってくる。
 もう一度目標を見回せば、一部動きを止めた部隊もあるようだが、こちらへと進軍してくる部隊が見える。

「よーし、んじゃ作戦開始だ」

 合図とともにTYPEシリーズたちが各部隊へと満遍なく襲い掛かっていく。実力差があるので真っ向勝負だ。

「あれ?」

 と思っていたが、フォニアとニルも一緒になって飛び出していった。
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