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第六章

敵の敵は味方ではありません

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 突然襲ってきた人間の首をはねて恩着せがましい言葉を口にした男であるが、無視して肉を食っている俺を見て眉がピクピクと動いている。
 見た目は三十代くらいだろうか。無精ひげなどはなく、髪も丁寧に撫でつけられており清潔感があふれている。冒険者というよりは騎士といった風貌ではあるが、少々着崩しており気障っぽく見える。

「それで……もぐもぐ、俺たちに何の用ですか?」

 完全に無視してこのまま食べるという選択肢もあったけど、邪魔されてしまったこの状況で機嫌よく食事をする気分にはなれない。かといって料理を放置しておくと冷めてしまうので、肉を食いながら尋ねてみた。

「いやせめて飲み込んでから喋ってあげて!?」

 せっかく相手をしてやろうと思っていたところに、イヴァンからツッコミが入ってしまう。

「えー、せっかく作ってくれたんだから冷める前に食わないと」

 テーブルを見回せばみんな、割り込んできた男を気にしつつも食事は続けている。エルはまだ忙しいようで野営用ハウスから出てこないが、ちょうどいいとばかりにこの男を知っているか、鑑定で見た名前と共に念話で聞いてみたところだ。調査済みの人間ならパソコンにデータが入っているだろう。

「そりゃまぁ……、食って欲しいけど!」

 割り込んできた男と自分の作った料理を交互に見やると、「ああもう!」と言いつつ座って肉を食い始めた。

「いやいや……。危ないところを助けたというのに、ずいぶんな態度だな?」

 余計なお世話で割り込んできた挙句に、襲い掛かってきた奴らから証言を取れなくしてくれた人が何か言ってるようである。

「そうか? 妥当な態度だと思うけどな」

「は?」

 襲撃者の制圧が完了したにもかかわらず、納刀せずに威圧を続けているのだ。助けた恩を無理やり着せて断りにくい状況にして、何かやらせようとしているんだろうか。
 もう一人、遠くからこちらを観察している人間がいるが、出てこないのも不審な点の一つだ。二人一緒にいる気配は感じていたので、知らない仲ではないはずだ。

 さすがに襲撃者とグルだったということはないだろうけど、なんなんだろうなぁ。俺たちが国に喧嘩を売った話を知った上で接触に来たとすれば、敵の敵というところだろうか。

「ずっと俺たちの様子を窺ってたくせにぎりぎりで割り込んできたんだから、恩を売れるタイミングでも狙ってたんだろう?」

「……何を言ってるんだ?」

 若干の焦りを含んだ言葉が返ってくるが、まだシラを切るつもりらしい。俺の言葉が嘘じゃないと認めるのであれば、もう一人後ろで待機している人間がいることが俺たちにバレているということだ。その対策として動くのであれば早いほうがいいんだろうが、本当にバレているのか疑っているのかもしれない。

『ありました。そこにいるソンリェンという男は傭兵のようですね。王都に潜伏する犯罪組織に雇われているようです』

『ええぇ……? 犯罪組織なのか……』

『王家の反抗勢力でもないのね』

 莉緒も興味があったのか言葉を挟んでくる。あれだけ貴族の横暴が通ってしまう国だ。レジスタンス組織があってもいいと思ってたけど、まさかの犯罪組織の登場だ。
 詳しく聞けば、伯爵と繋がっている可能性があるとか。それにしてもこの国にはまともな貴族は存在しないのだろうか。いるにはいるんだろうが、数が少なすぎる気がする。

『確証がないため、そちらはまだ調査中となります』

「ふーん。モーツァル・ラハニーチ伯爵ねぇ……」

 思わず声に出してしまった言葉だったが、即座にソンリェンが反応した。出したままの剣を鞘に納めると、大仰に腕を振りかぶって饒舌になったのだ。

「伯爵……? 何の話だ? ……だがタイミングを計っていたのは認めよう。Sランク冒険者だと聞いたからどれだけすごいのかと思っていたんだが……。攻撃される直前になったというのに一切動こうとしないじゃないか。慌てて割って入ったらそうなってしまっただけのことだ」

 腕を振りかぶる仕草が合図になっていたのか、後ろで様子を窺っていた一人が退却を始めた。それにしてもコイツ、結界を張って攻撃を止めたことに気づいてなかったのか?

「柊、動き出したわよ?」

「みたいだなぁ。……ちょっと追いかけるか?」

『とか言って、ばれないように尾行させるけど』

 追いかけるなんて言ったけど自分自身でやるつもりなんてない。今は飯を食う時間なんだから。

「ふふっ」

 何でもないように反応しつつも念話で返すと、莉緒もちょっとツボにはまったようで笑いが漏れる。そして宣言通り、相手から見えない上空に鳥TYPEを空間魔法で呼び出すと、尾行を任せることにした。

「ちっ!」

 ここでようやくバレていることに確信を得たソンリェンが動き出した。逃げるかと思っていたがどうやらこちらに向かってくるようだ。鞘から剣を抜きつつ踏み込んできたところで、切り分けた肉を口に入れながら空間遮断結界を張る。

「っ!?」

 見えない壁にぶつかったところで、逃げられないように結界で周囲を覆えば捕縛の完了だ。拘束しているわけではないので動き回れるが、見えない壁を殴ろうが剣で切りつけようが壊せるはずもない。ついでにいろいろ喚いてうるさいので向こうからの音声も遮断することにした。

「やっと静かになったわね」

「いやほんとに。これでゆっくり飯が食える」

「いい奴かもと思ったら全然違った!」

 落ち着いてからようやく、イヴァンがツッコミを入れるのであった。
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