381 / 398
第六章
イヴァンの料理
しおりを挟む
日も傾き始めた頃、そろそろ準備をということになり野営用ハウスを取り出して野営の準備に取り掛かった。場所は林の中を突っ切る道の途中にある広場で、周囲に野営をする他の人影はない。敢えてそういう場所を選んだとも言えるが。
「よし、今日は俺が作る」
「え?」
「何を?」
竈の準備をしているとイヴァンが唐突に宣言したので、莉緒と一緒に首を傾げてしまった。
「だから、夕飯だよ。俺だって依頼を一人で受けてる間の飯は自分で作ったりもしてたんだ」
「お、おう」
「イヴァンがいいなら、いいけど」
「イヴァン兄のごはん!?」
「わふっ?」
エルは野営用ハウスに籠ってまた情報収集をしている。日本から引いている電源やネット回線ごと収納できたので、出してすぐに使えているのだ。
せっかくの野営なので、野営用ハウスのキッチンではなくて外で料理しようと思って竈を作ったのだ。そういえばイヴァンの作る飯は食ったことがないなと思ったが、フォニアが何やら嬉しそうにしている。
「食材はあるのか?」
「そこはもちろん。各種調味料も揃ってるから大丈夫だ」
収納カバンから次々と食材や調味料と調理器具を取り出すと、慣れた様子で作業を進めていくイヴァン。思ったよりカバンも活用してくれているようで何よりだ。
「じゃあお願いしようかしら」
「任せとけ」
任されたイヴァンが張り切って料理を進めていく。そうなると俺たちは俺たちでやることがない。周囲の警戒くらいだけど、相変わらず俺たちを監視する三人と、それを遠巻きに見ている二人がいるだけだ。
しばらくやることもなく、料理をするイヴァンとそれを一生懸命手伝うフォニアをスマホで撮影していると動きがあった。
「ん?」
「あら?」
どうやら莉緒も気づいたようだ。俺たちを監視していた近いほうの三人が、ばらけて包囲する動きに変わったのだ。じりじりと近づいてきているようではあるが、まだ行動は起こさないようだ。一応隠密系スキルを使っているようだが、俺たちに筒抜けになっていることには気が付いていないらしい。
「ようやく仕掛けてきたのかな」
「かもしれないわね」
「俺は回り込んでくる二人を警戒しておくから、莉緒は正面を頼む」
「わかった」
監視者に気づかれないように何気ない感じを装い、莉緒と二人で配置に付く。じりじりと迫ってくるだけでまだ動きはないようだ。
土魔法で椅子を作って座ると、異空間ボックスから愛用のガントレットを取り出して手入れをしていく。そのまま様子を窺っていると、遠くで監視している二人組にも動きがあった。こちらを包囲する奴のさらに後ろに回り込む動きを見せると、こちらににじり寄る奴らへと近づいていっている。
「おや?」
何をやってんだろうと思っていると、気配が一つ消えた。二人はそのままもう一人へと近づいていくと、やはり攻撃を加えたのか気配が消える。遠くから監視していた奴らも仲間かと思っていたけど違うのかもしれない。
二人組はそのまま二手に分かれて俺たちの野営場所を迂回すると、莉緒が受け持っている正面の監視者へと矛先を変えたようだ。
「よーし、できた」
「ごはん!」
「わふん!」
というところでちょうど夕飯が出来上がったようである。フォニアとニルのテンションがマックスになり、イヴァンのもとへ駆け寄っている。
「飯だぞー」
「へいへい」
イヴァンに背を向けていたからか呼びかけられたので、ガントレットを収納して振り返る。こっち側の監視者は片付けられたのでもう警戒する必要もない。
料理の仕上げをしているイヴァンを見れば、焼いた肉にどこかで見たことあるパッケージのたれをかけていた。
「あー、うん。まぁ、たれは美味いよね」
日本で売っている焼肉のたれなのではずれはないだろう。
自分で料理すると言った割にはちょっと適当過ぎやしないかと思わないでもないが、冒険者の男料理といえばこういうものかもしれない。
隣には火にかけた鍋があったが、どうやらスープも作っていたようだ。こちらからはいい匂いが漂ってきていて、料理を作ったぞという主張が感じられた。
「美味しそうな匂いね」
莉緒も正面の警戒はしつつも、こちらに来て竈の近くに土魔法でテーブルを作っていた。
「あれ?」
収納カバンからお皿を取り出していたイヴァンが、カバンに手を突っ込んだまま首を傾げている。
「ああ、そうか」
が、何やら納得したようでこちらに顔を向けると。
「シュウ、ちょっとお皿出してもらっていいか? そういや自分の分しか入れてなかった」
「はは、なんだそりゃ。まあいいけど」
そんな一幕もありつつ、夕飯の準備が整った。
「いただきまーす」
全員がテーブルに着いたところで、フォニアの掛け声で食事が始まる。
せっかくだし食べるかと思い、左のフォークを肉に突き刺して右のナイフを入れたところで、タイミング悪く正面に陣取っていた人物が動き出した。
勢いよく俺たちの野営地へと飛び込んでくると、腰に差してあった投げナイフを掴んで投げるモーションに入る。
その時にはすでに莉緒が透明な空間遮断結界を正面に張っていて、襲撃者がナイフを投擲する前にぶつかっていた。
「な、なんだ!?」
イヴァンが気づいてそちらへ向くと、ナイフを投げられなかった襲撃者が斜め後方へと下がりながらもう一度ナイフを振りかぶる。しかしさらに後方から現れた人間により首を斬り飛ばされて、何もできずに倒れることとなった。
「なんなんだよおい!」
イヴァンは食事どころではなくなったようで立ち上がると、手に持っていたフォークを後から現れた男に突き付けている。こっちにきたら空間遮断結界で止めようと思ったけどとりあえずは必要なさそうだ。
「ふぅ、どうやら危ないところだったようだけど、間に合ったようだね」
爽やかに告げた男に対して俺は、肉に入れたままだったナイフを前後に動かして切り分けると、左のフォークで肉を口に入れる。
「おぉ、美味いな。イヴァンも普通に料理するようになったんだなぁ」
「何普通に肉食ってんだよ!?」
せっかく褒めたのになぜか突っ込まれた。
「よし、今日は俺が作る」
「え?」
「何を?」
竈の準備をしているとイヴァンが唐突に宣言したので、莉緒と一緒に首を傾げてしまった。
「だから、夕飯だよ。俺だって依頼を一人で受けてる間の飯は自分で作ったりもしてたんだ」
「お、おう」
「イヴァンがいいなら、いいけど」
「イヴァン兄のごはん!?」
「わふっ?」
エルは野営用ハウスに籠ってまた情報収集をしている。日本から引いている電源やネット回線ごと収納できたので、出してすぐに使えているのだ。
せっかくの野営なので、野営用ハウスのキッチンではなくて外で料理しようと思って竈を作ったのだ。そういえばイヴァンの作る飯は食ったことがないなと思ったが、フォニアが何やら嬉しそうにしている。
「食材はあるのか?」
「そこはもちろん。各種調味料も揃ってるから大丈夫だ」
収納カバンから次々と食材や調味料と調理器具を取り出すと、慣れた様子で作業を進めていくイヴァン。思ったよりカバンも活用してくれているようで何よりだ。
「じゃあお願いしようかしら」
「任せとけ」
任されたイヴァンが張り切って料理を進めていく。そうなると俺たちは俺たちでやることがない。周囲の警戒くらいだけど、相変わらず俺たちを監視する三人と、それを遠巻きに見ている二人がいるだけだ。
しばらくやることもなく、料理をするイヴァンとそれを一生懸命手伝うフォニアをスマホで撮影していると動きがあった。
「ん?」
「あら?」
どうやら莉緒も気づいたようだ。俺たちを監視していた近いほうの三人が、ばらけて包囲する動きに変わったのだ。じりじりと近づいてきているようではあるが、まだ行動は起こさないようだ。一応隠密系スキルを使っているようだが、俺たちに筒抜けになっていることには気が付いていないらしい。
「ようやく仕掛けてきたのかな」
「かもしれないわね」
「俺は回り込んでくる二人を警戒しておくから、莉緒は正面を頼む」
「わかった」
監視者に気づかれないように何気ない感じを装い、莉緒と二人で配置に付く。じりじりと迫ってくるだけでまだ動きはないようだ。
土魔法で椅子を作って座ると、異空間ボックスから愛用のガントレットを取り出して手入れをしていく。そのまま様子を窺っていると、遠くで監視している二人組にも動きがあった。こちらを包囲する奴のさらに後ろに回り込む動きを見せると、こちらににじり寄る奴らへと近づいていっている。
「おや?」
何をやってんだろうと思っていると、気配が一つ消えた。二人はそのままもう一人へと近づいていくと、やはり攻撃を加えたのか気配が消える。遠くから監視していた奴らも仲間かと思っていたけど違うのかもしれない。
二人組はそのまま二手に分かれて俺たちの野営場所を迂回すると、莉緒が受け持っている正面の監視者へと矛先を変えたようだ。
「よーし、できた」
「ごはん!」
「わふん!」
というところでちょうど夕飯が出来上がったようである。フォニアとニルのテンションがマックスになり、イヴァンのもとへ駆け寄っている。
「飯だぞー」
「へいへい」
イヴァンに背を向けていたからか呼びかけられたので、ガントレットを収納して振り返る。こっち側の監視者は片付けられたのでもう警戒する必要もない。
料理の仕上げをしているイヴァンを見れば、焼いた肉にどこかで見たことあるパッケージのたれをかけていた。
「あー、うん。まぁ、たれは美味いよね」
日本で売っている焼肉のたれなのではずれはないだろう。
自分で料理すると言った割にはちょっと適当過ぎやしないかと思わないでもないが、冒険者の男料理といえばこういうものかもしれない。
隣には火にかけた鍋があったが、どうやらスープも作っていたようだ。こちらからはいい匂いが漂ってきていて、料理を作ったぞという主張が感じられた。
「美味しそうな匂いね」
莉緒も正面の警戒はしつつも、こちらに来て竈の近くに土魔法でテーブルを作っていた。
「あれ?」
収納カバンからお皿を取り出していたイヴァンが、カバンに手を突っ込んだまま首を傾げている。
「ああ、そうか」
が、何やら納得したようでこちらに顔を向けると。
「シュウ、ちょっとお皿出してもらっていいか? そういや自分の分しか入れてなかった」
「はは、なんだそりゃ。まあいいけど」
そんな一幕もありつつ、夕飯の準備が整った。
「いただきまーす」
全員がテーブルに着いたところで、フォニアの掛け声で食事が始まる。
せっかくだし食べるかと思い、左のフォークを肉に突き刺して右のナイフを入れたところで、タイミング悪く正面に陣取っていた人物が動き出した。
勢いよく俺たちの野営地へと飛び込んでくると、腰に差してあった投げナイフを掴んで投げるモーションに入る。
その時にはすでに莉緒が透明な空間遮断結界を正面に張っていて、襲撃者がナイフを投擲する前にぶつかっていた。
「な、なんだ!?」
イヴァンが気づいてそちらへ向くと、ナイフを投げられなかった襲撃者が斜め後方へと下がりながらもう一度ナイフを振りかぶる。しかしさらに後方から現れた人間により首を斬り飛ばされて、何もできずに倒れることとなった。
「なんなんだよおい!」
イヴァンは食事どころではなくなったようで立ち上がると、手に持っていたフォークを後から現れた男に突き付けている。こっちにきたら空間遮断結界で止めようと思ったけどとりあえずは必要なさそうだ。
「ふぅ、どうやら危ないところだったようだけど、間に合ったようだね」
爽やかに告げた男に対して俺は、肉に入れたままだったナイフを前後に動かして切り分けると、左のフォークで肉を口に入れる。
「おぉ、美味いな。イヴァンも普通に料理するようになったんだなぁ」
「何普通に肉食ってんだよ!?」
せっかく褒めたのになぜか突っ込まれた。
10
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
二人とも好きじゃあダメなのか?
あさきりゆうた
BL
元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。
正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!?
※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。
21.03.11
つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。
21.05.18
第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。
23.09.09
表紙をヒロインのおっさんにしました。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
転生美女は元おばあちゃん!同じ世界に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!
ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。
私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。
そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。
早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯
私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。
『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』
そのために私は⋯
『地上に降りて冒険者になる!』
これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』のスピンオフとなります。おばあちゃんこと凛さんが主人公!
が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。
また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。
こちらも、よろしくお願いします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―
文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。
性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。
誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。
かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる