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第六章

警戒レベル3

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 さらに二週間もたてば、とうとう警戒レベルも3が発令された。小規模の群れが魔の森から出てきて街に襲い掛かってきたのだ。あっけなく討伐されたものの、レベル3を発令するきっかけとなった。
 冒険者ギルドでの魔の森関連の依頼はすべて取り下げられ、魔の森への出入りも禁止されるようになっている。魔物の群れ本体はあと数日もすれば現れるようになるとのことだ。

 ローカライズされたノートパソコンも十四郎さんから届いており、ものすごい勢いでエルがパソコンの使い方をマスターしつつある。キーボードにブリンクス語が印字されていて、そのキーを打つとホントにブリンクス語が入力できたからマジでびっくりした。
 またCMの台本も出来上がっていて、今度時間ができたときにリハーサルしようと言われている。

「こんなに準備ができた状態でスタンピードが迎えられるなんて信じられないね」

 街の北口のさらに北側にできた壁の上で魔の森を見張りながら、黒と赤と橙のまだら模様の髪型をしたリキョウがそう口にする。

 レベル3が発令されたので、イヴァンとエルを除く全員で壁の上に来ていた。エルは相変わらず留守番だが、イヴァンはDランク冒険者として作戦に組み込まれている。といっても魔の森に入れる最低ランクなので、主に後方支援みたいだが。

 警戒レベル3ともなればいつ魔の森の浅瀬に魔物の群れが姿を現してもおかしくない。こうして冒険者や軍人が壁の上に立って、常時魔の森を監視することになっている。ちなみにここは街に近いほうの壁だ。魔の森は緩やかな斜面を登ったところにあるので、俺たちが作った壁の上まで出なくても十分に見渡せる。

「へぇ、前回のスタンピード経験者なんですか?」

「駆け出しだったがね」

 肩をすくめながらリキョウが昔の話をしてくれる。
 警戒レベル2の期間が一週間もなかったらしく、中途半端な壁を前にして街壁の上で魔物の群れを監視していたらしい。あっという間に壁を壊されて街の門に取りつかれ、魔物の侵入を許してしまったそうだ。

「それがどうだ。立派な壁が二つもできている。その上に魔物の情報も種類まで判明していて、これで街まで攻め込まれる可能性はほぼないだろう」

 ベテラン冒険者の大変興奮した様子に、他の冒険者たちの士気も上がっているようである。

「そりゃよかった」

 肩をすくめながら答えていると、リキョウから乾いた笑いが漏れてくる。

「Sランクのすごさがよくわかったよ」

 ベテラン冒険者からの称賛は素直に受け取っておこう。舐められるのはよくないと、審議官のあれこれで実感している。

 と、ちょうどその時、壁の上の物見台から鐘の音が鳴り響く。どうやら魔物が森から出てきたらしい。

「三番からレッドアントの群れだ! 規模は十以上!」

 魔の森を西から十個の区画に区切って一番から十番まで割り付けている。数字を言うだけでだいたいどのあたりがわかるので便利だ。規模は魔物の数を十匹単位で表している。十以上ということなので百匹以上だろう。
 そして区画の割り当てとしては一から四番までが冒険者で、五番以降が軍の担当となっている。ちなみに冒険者と軍隊は命令系統が別らしく、完全に分かれた形になっているらしい。

「誰が行く?」

 まだ本格的な襲撃になっていないからか、緩い雰囲気だ。

「わふっ! わふわふ!」

 募集をかけたところでニルがさっそく声をあげている。ここ最近ストレスが溜まっているので暴れたいのかもしれない。

「じゃあニル行ってくるか?」

「わふわふっ!」

「あれ? ニル行っちゃうの?」

 鐘の音でびっくりしたのか、屋上の端から森を眺めていた莉緒とフォニアが戻ってきた。最近はニルとイヴァンと一緒に行動することが多かったせいか、ニルが一人で行こうとすると寂しいのだろうか。

「フォニアも行くか?」

「え? いいの?」

 瞳をワクワクと輝かせながら振り返るフォニア。

「おいおい、ここにそんなちっちゃい子を連れてくるのもどうかと思ったけど、なんてことさせるんだ」

「あー、大丈夫だから心配するな」

「リキョウさん!?」

 そこに横やりを入れてきた見知らぬ冒険者にリキョウが口をはさむ。冒険者は信じられないものを見たような表情になっていた。

「見てればわかる」

 フォニアの戦闘シーンを見たことはないと思うけど、リキョウはフォニアの首に光るミスリルのタグに気が付いているようだ。

「じゃあ気を付けてな」

「わふっ!」

「うん!」

 ニルが一声上げると自身の大きさを最小サイズから、フォニアが乗りやすい大型犬サイズへと変化させる。その背中にぴょんとフォニアが飛び乗り、ニルは一気に壁の屋上から躍り出ると宙を蹴って駆け出した。

「うおっ、マジか!?」

 周囲からは驚きの声が上がり、ニルの姿はあっという間に小さくなる。遠目に見えていた魔物の群れにフォニアの魔法が炸裂し、盛大な爆発音を上げる。
 フォニアもそれなりに火魔法が上達したようで何よりだ。
 十五分もすれば戦闘は終わったようで静かになるが、なかなか帰ってこない。無事なのは見ていればわかるが、帰ってこない二人に周囲がざわつきだす。

「うふふ、フォニアちゃん、一生懸命素材回収してるわね」

「はは、イヴァンも必死になってランク上げるために素材集めてたからなぁ」

 近くで見ていたフォニアも、素材は集めないといけないものと刷り込みされているのかもしれない。

「ただいま!」

「わふぅ!」

 その後三十分ほどかけて素材を回収したフォニアとニルが、上機嫌で帰ってきた。
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