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第六章

召喚状

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 調査を開始してはや数日。魔の森の中層は順調に埋まっていっていた。初日にギルドマスターに報告した時は、一日で調査した範囲の広さに驚かれはしたが、これがSランクの実力かと納得された。
 その時に俺たち以外にSランク冒険者はいないのか聞いてみたが、今この国にSランク冒険者は他にいないとのことだ。数年前にこの街を拠点にしていたSランク冒険者がいたらしいけど、貴族とのいざこざで出ていったとのこと。

 今日の報告をギルドの執務室で終えると、ギルドマスターが眉間に皺を寄せて考え込んでいた。Bランクの魔物が百匹ほどの群れを成していたが、あれくらいの強さの魔物の群れなら昔魔の森で生活していた頃に何度か出くわしている。

「うーむ……、これはまずいかもしれないネ……」

「そうなんですか?」

 さっぱり危機感が湧いてこずに暢気に構えていると、ギルドマスターからジト目をもらってしまった。

「……数日以内に何かあるというほどじゃないけど、中層の中でも浅瀬の近くにまで出てきた理由にもよりそうネ」

「なるほど。じゃあ明日はそのちょっと奥を調べてみるか」

「そうしましょうか」

「よろしく頼みたいところではあるが……、これを預かってるネ」

 話がひと段落しそうなところで、ギルドマスターが歯切れの悪い言葉と共に一通の手紙を差し出してくる。

「これは?」

「さあ、よく知らないネ。でも貴族の封蝋が押されているから嫌な予感しかしないネ」

 その言葉を聞けば確かに嫌な予感しかしない。つい先日にも貴族とのごたごたで逃げ出したSランク冒険者の話を聞いたばかりだ。中身を見てみないことには何もわからないので、とりあえず手紙を開封する。

「召喚状?」

 一番上に書かれていた文字を読んで首をかしげると。

「……何をやらかしたネ」

 ギルドマスターから呆れた言葉が聞こえてきた。

「何も心当たりはないけど……、この召喚状ってなんなの?」

 一応最後まで読んでみたけどよくわからない。王都の騎士団詰め所に来いというのが迂遠な表現でつらつらと書かれているような気がするけど、この解釈で合ってるんだろうか。差出人はベイファン・ローイング男爵となっているけど、唯一心当たりのある男爵といえば王都の魔道具店で出くわしたヤツしかいない。

「確かに、よくわからないわね」

 莉緒に回した後にギルドマスターにも手紙を渡す。読んでいいのかとためらう素振りを見せたギルドマスターだったが、一つため息をついてから手紙へと目を落とした。

「これは貴族からの呼び出しネ。主に不敬を働いた平民を罰するために出されることが多いネ」

「ふーん」

 不敬ねぇ……。男爵相手に何かやったっけかな?

「敬うような立派な貴族と会った記憶はやっぱりないよな」

「あっははは! 確かにそうね!」

 莉緒に同意を求めると爆笑が返ってきた。

「……なるほど、だいたいわかったネ」

 俺たちのやり取りを見ていたギルドマスターが、また大きくため息をついて話を続ける。

「まったく、こんな大変な時期に余計なことする貴族ネ……。明日からの調査は他の冒険者に頼むしかないネ」

 眉間に皺を寄せて文句を垂れるギルドマスターだが、この召喚状はそこまで優先度が高いものなんだろうか。とはいえ依頼の最中だし放り出す気はないが。

「いやいや、調査は続けますよ? そんなよくわからない召喚状なんか無視するに決まってるじゃないですか」

「街の危機ですし、さすがに優先度の分別くらいつくんじゃないですか?」

 莉緒が言葉を続けるが、それでもギルドマスターの表情は晴れないままだ。まさかこの国の貴族はそこまで頭が悪いのだろうか。

「調査を続けてくれるのであればこちらとしてはありがたいが、君たちが不利になるだけネ。それでもかまわないネ?」

 ギルドマスターの問いかけに莉緒と二人顔を見合わせると頷き合う。

「はい、特に問題ないですね」

「そ、そうか」

 自信満々に答える俺たちに返す言葉もないようだ。

「じゃあ明日からもまたお願いするネ」

「わかりました。では失礼します」

 執務室を出ればもうギルドに用はないのでそのまま家に帰ることにする。このところイヴァンたちとは別行動なので、朝から魔の森に向かうときくらいしか一緒に行動していない。
 いつもより遅くなってしまったが、そこそこ人通りのある大通りを歩いて我が家へと帰ってきた。

「ただいまー」

 きれいに整えられた庭を通り抜けて玄関を開けると、おかえりと返ってくる。なんかこう、我が家があるっていいね。

「今日はちょっと遅かったな」

「ああ、ちょっとこんな手紙をもらってな」

 イヴァンに手渡しながらざっくりと概要を説明する。

「へぇ。面倒な貴族もいたもんだな。……んで、召喚に応えるのか?」

「まさか」

「だよな」

 笑い合いながら、出迎えてくれたフォニアを撫でてニルをもふもふしてからリビングのソファへと腰を下ろす。

「おかえりなさいませ」

 落ち着いたところで侍女モードのエルがお茶を出してくれる。侍女モードになってるってことは何かあったのか。

「今日のお昼過ぎに冒険者と思われる三人組が訪問してきましたが、お知り合いでしょうか?」

 ポケットからスマホを取り出すと、撮った写真を見せてくれる。うむ。やっぱりエルにも日本のスマホを渡しておいてよかったな。渡して数日は寝ずにスマホをいじり倒してたけど、こういう時に役には立つ。
 写真をよく見れば人相の悪い男が三人写っている。が、もちろん見覚えなんてあるはずがない相手であった。
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