上 下
330 / 398
第六章

仕事を探そう

しおりを挟む
「まぁこんなもんかな?」

「こんなもんじゃない?」

 莉緒と二人そろって満足げに頷くと、録画中だったスマホの停止ボタンをタップする。

 あれから夕方くらいまで、張り切って拠点の整備を行っていた。騒音対策に遮音結界を敷地の壁沿いに張ってからボロ屋敷を解体し、野営用ハウスを設置したのだ。そして荒れ放題だった庭も整地して、敷地の門から玄関まで石畳をつなげると、石畳に沿って地面を耕した。あとで花でも植えれば見栄えがしそうだな。

 動画に収められたのは、数時間で家が設置されて庭が整備される様子だった。撮った動画を何に使うかは言わずもがなである。

 ちなみに敷地の入り口については鍵は開けっ放しだ。南京錠がかけてあった鉄の扉を開くと、その先に鍵付きの扉をもう一つ作っておいたのだ。ちなみにスマホを近づけると解錠されるようにしておいた。特定の魔力に反応するようにしたので、俺と莉緒であれば遠隔でその魔力を発生させて鍵を開けられる。

「今度日本に帰ったときに、人感センサーのLEDライトでも買ってくるか」

 石畳の両端に植えた花の向こう側にLEDを突き刺しておくのだ。人が通ると明かりがついてよさげじゃなかろうか。

「それいいわね。庭も整えてライトアップしようかしら。……ちょっと楽しくなってきたかも」

「そうだなぁ。案外どこかに腰を落ち着けるのもいいのかも?」

「そうねぇ」

 そうなると家は案外街中でなくてもいい気がするな。次元魔法があればどこでもすぐ行けるし、いろんな街の座標だけ記憶しておけば行き放題だ。……いやでもそうなると俺と莉緒以外の移動が面倒か? 毎回送り迎えするのは面倒だし、こっちの世界でスマホ作ったみたいに、どこでも○アみたいな道具も作れないもんか……。

「おーい、こっちもできたぞー」

 将来について考えていると、野営用ハウスの裏手からイヴァンの声が聞こえてきた。フォニアとエルには、裏手で夕飯の準備をしてもらっていたのだ。向かってみれば即席のバーベキュー用の竈が出来上がっていて、フォニアが薪をくべて魔法で火をつけているところだった。
 エルは食材の下ごしらえをすでに終えていて、あとは焼くだけになっている。

「お、準備できてそうだな」

「美味しそう」

「もちろん山唐辛子焼きもぬかりなく」

「鉄板乗せてくれ」

「火ついたよ!」

 こうして城塞都市サタニスガーデン一日目の夜は更けていった。



 そして翌朝、今日から本格的に活動するかと冒険者ギルドへと改めてやってきた。
 ちなみにエルはお留守番である。拠点ができたのであればと侍女の役割を果たすそうだが、日本の調味料や料理本、日本語の教材を所望してきたあたり、自分の趣味に没頭する気満々である。

 さすがに朝ともなれば冒険者ギルドの中も混んでいて、よさげな依頼はすぐになくなってしまいそうだ。

「ちょっと行ってくる」

 といってもよさげな依頼が必要なのはイヴァンだけなので、さっそく人波をかき分けて依頼ボードのほうへと向かって行った。俺たちはゆっくりと後を追いかけて、依頼ボード前に集まる冒険者の集団の後ろからボードを眺める。

「おー、討伐系の常時依頼がいっぱいあるなぁ」

 よく見えるボードの高い位置に常時依頼が貼ってあり、魔物を討伐して肉を求める依頼が多数張り付けられている。よく見ればAランクにも肉狩りの常時依頼が貼ってある。とりあえず常時依頼の肉は全部制覇しないとだな。

「さすが魔の森が近いだけあるわね」

「聞いたことない魔物も多そうだし、これはちょっと期待できそうだな」

「ボクもがんばるよ!」

 小さくなったニルを抱えたフォニアもやる気は十分だ。
 何か依頼を見つけたイヴァンがボード前から抜け出してきて戻ってきた。

「これ受けてくる」

 どうやら街の南東にある池に魔物素材を狩りに行くようだ。依頼書を二枚持っているが、もちろんどちらもEランクである。

「一人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

 ここら辺の魔物は多少手ごわいと聞いていたけど余計なお世話だったか。イヴァンなら一つ上のランクの魔物とも余裕でやりあえる。別行動で依頼を受けることも最近は珍しくないし、むしろお守りの人間がいないほうがランクは上がりやすいらしい。

「早く俺もDランクに上がって、魔の森に行けるようになりたい」

「そうだな。何かあったら連絡してくれればいいし」

「ああ、そうするよ」

 ひらひらと依頼書を振りながらカウンターへ並ぶイヴァンを見送ると、俺と莉緒も依頼ボードに群がる冒険者たちの中へと入っていく。
 さすがにSランクの依頼は貼ってなかったが、Aランク以下の依頼はそこそこの数があるみたいだ。

「うーん、最初は適当に森に入っていろいろ見て回るか?」

「……それがいいかもしれないわね。だいたいどんな依頼があるかは把握できたし」

 スマホで依頼ボードの写真を撮っていた莉緒がいい笑顔をしている。
 それじゃあそういうことで、と依頼ボード前から抜け出してくると、カウンターで依頼を受けてきたイヴァンも合流してきた。

「んじゃさっそく行きます――」

「やっと見つけたぞクソガキが!」

 出発進行と緩く気合を入れようとしたところで、それを遮るようにギルド入り口から大きな声が響き渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜

KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。 クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。 山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。 魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。 山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。 しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。 友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行 そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち 死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界 異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。 ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。 更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。 星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。

処理中です...