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第六章
遭遇
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「お、ここか?」
街道を進んでいると、渓流にかかる橋へと出てきた。街道の左側は登りの急斜面になっていて、一部が滝のようになって水が流れている。右側は緩やかな下り斜面となっており、渓流となっている場所はまばらに木が生えているようだ。
橋の手前に渓流へと降りる獣道のようなものができていて、ここからワサビの自生地へ行けるようだ。
ここからは整地された道ではなく、ごつごつした岩場に続く細い山道といったところだ。全体的に緩やかな下りではあるが、細かい起伏のある岩場で歩くだけでも体力を使いそうだ。
「なんか食えそうなものあるか?」
周囲を鑑定しながら歩いていると、後ろからイヴァンの声がした。走ってここまで来たけど、それなりに体力は回復したらしい。
「ちらほらとはあるけど固まって生えてるわけじゃないからなぁ」
「へぇ。あるにはあるんだ」
「川だー!」
フォニアは水辺をばしゃばしゃとしぶきをあげながら楽しそうに歩いている。
しばらく進むとちらほらと鑑定結果に『山唐辛子』が出てくるようになったので、ひとつ引っこ抜いてみる。
「これみたいだな」
「へぇ。見た目はワサビそっくりね」
「だなぁ。といっても写真で見たことあるだけだけどな」
異世界へと召喚される前でもワサビの実物は見たことはない。だいたいがチューブに入ってるやつだったり、刺身や寿司についているものを食べるだけだった。
「そういえばワサビ専用のおろし金があるんだっけ?」
「あ、私も聞いたことある。鮫皮でおろすんだっけ」
なんとなく記憶にあることを言葉にしていると莉緒も知ってたみたいだ。鮫の皮でおろすのは初耳だけど、普通の大根おろし用のやつとかだとダメなのかな。今度日本に帰ったら仕入れてみるか。
「サメガワ?」
いまいちよくわかっていないイヴァンにも説明するけど、俺もちゃんと知ってるわけじゃない。試してみればわかるだろうということと、こっちの世界での食べ方も試してみることで落ち着いた。
奥にあるであろうワサビの群生地へと向かっていると、こちらへと向かってくる人の気配があった。どうにも一人だけっぽい。
「誰かこっちに来るな」
「何かに追われてるみたいね」
莉緒の言葉通りにさらにその向こう側には魔物の気配がある。もしかするとギルド職員が言っていたブラックエイプだろうか。
「おっと」
こんなところに一人で来るとも思えないので、さらに奥へと気配察知を伸ばしてみる。案の定何やら魔物に襲われている人の気配を察知してしまった。
『ちょっと襲われてる人が奥にいるから行ってくる』
『行ってらっしゃい』
駆け出しつつ念話で知らせると、こちらに向かってくる人物が視界に入ってきた。
さて、お前だけでも逃げろのパターンなのか、仲間を囮にして逃げてきたパターンなのか。
「た、助け――」
向こうもこちらに気づいて声を上げるが、すべてを言い切る前に無視して通り過ぎる。見た目はぽっちゃりしたオッサンだけど、冒険者には見えないな。思わず立ち止まってこちらを振り返る気配がするけどそれよりもまだ向こうにいる人間だ。
ちなみに追いかけてきていた魔物は予想通りブラックエイプだった。赤い顔をしたサルだったけど、どこがブラックなんだろうか。獲物の横取りはトラブルの元だし、すぐに追いつかれることもなさそうなのでこっちは莉緒たちに任せておこう。
「見えた」
こっちはしっかりとした冒険者に見える。男女二人ずつのパーティのようだが思ったより劣勢のようだ。ブラックエイプ二体に翻弄されているように見える。
「助けはいるか?」
「頼む!」
遠くから呼びかけると即答だった。
「あいよ」
ブラックエイプが長い腕を鞭のようにしならせて、助力を求めた男へと振り下ろす。その盾に腕が激突する寸前に合わせたわけではないが、発動した魔法により生み出された風の刃でサルの首が音もなく落ちる。その後ろから時間差で打撃を与えようと迫っていたブラックエイプも同じ運命をだどった。
「……えっ?」
思っていた衝撃が来なかったことにより、男から気の抜けた声が聞こえてきた。
真正面を向いてもそこにいたはずのブラックエイプが視界からいなくなっているためか、若干視線をさまよわせているようにも見える。
ようやく視線を足元に向けると、倒れているブラックエイプを視界にとらえ、ゆっくりとこちらにも顔を向けた。
「――あっ、フェイさん!」
我に返った男が叫び声をあげると俺の後ろへと視線を向ける。どうやら逃げていった男を気にしているようだ。フェイという名前らしいが、冒険者っぽくない見た目からすると護衛対象かなんかだろうか。
「あっちも大丈夫」
安心させるように声をかけてゆっくりと歩いていると、後ろからさっきすれ違った男が走って戻ってくる気配を感じた。どうやらあっちのブラックエイプはイヴァンが倒したみたいだ。1ランク上の魔物はそろそろ相手にもならなくなってきたみたいだ。
「みなさん!」
「よかった、無事だったんですね」
「はい。この人たちに助けてもらって……」
フェイと呼ばれた男が振り返ったあたりで莉緒たちも合流する。
「もー、急に逃げ出したりしないでくださいね。フェイさん」
冒険者の男が咎めるようにフェイを責めるが、そりゃ護衛対象にいきなり予想外の動きをされたらたまったもんじゃないな。予想は外れたけど悪い人たちじゃなさそうだ。
街道を進んでいると、渓流にかかる橋へと出てきた。街道の左側は登りの急斜面になっていて、一部が滝のようになって水が流れている。右側は緩やかな下り斜面となっており、渓流となっている場所はまばらに木が生えているようだ。
橋の手前に渓流へと降りる獣道のようなものができていて、ここからワサビの自生地へ行けるようだ。
ここからは整地された道ではなく、ごつごつした岩場に続く細い山道といったところだ。全体的に緩やかな下りではあるが、細かい起伏のある岩場で歩くだけでも体力を使いそうだ。
「なんか食えそうなものあるか?」
周囲を鑑定しながら歩いていると、後ろからイヴァンの声がした。走ってここまで来たけど、それなりに体力は回復したらしい。
「ちらほらとはあるけど固まって生えてるわけじゃないからなぁ」
「へぇ。あるにはあるんだ」
「川だー!」
フォニアは水辺をばしゃばしゃとしぶきをあげながら楽しそうに歩いている。
しばらく進むとちらほらと鑑定結果に『山唐辛子』が出てくるようになったので、ひとつ引っこ抜いてみる。
「これみたいだな」
「へぇ。見た目はワサビそっくりね」
「だなぁ。といっても写真で見たことあるだけだけどな」
異世界へと召喚される前でもワサビの実物は見たことはない。だいたいがチューブに入ってるやつだったり、刺身や寿司についているものを食べるだけだった。
「そういえばワサビ専用のおろし金があるんだっけ?」
「あ、私も聞いたことある。鮫皮でおろすんだっけ」
なんとなく記憶にあることを言葉にしていると莉緒も知ってたみたいだ。鮫の皮でおろすのは初耳だけど、普通の大根おろし用のやつとかだとダメなのかな。今度日本に帰ったら仕入れてみるか。
「サメガワ?」
いまいちよくわかっていないイヴァンにも説明するけど、俺もちゃんと知ってるわけじゃない。試してみればわかるだろうということと、こっちの世界での食べ方も試してみることで落ち着いた。
奥にあるであろうワサビの群生地へと向かっていると、こちらへと向かってくる人の気配があった。どうにも一人だけっぽい。
「誰かこっちに来るな」
「何かに追われてるみたいね」
莉緒の言葉通りにさらにその向こう側には魔物の気配がある。もしかするとギルド職員が言っていたブラックエイプだろうか。
「おっと」
こんなところに一人で来るとも思えないので、さらに奥へと気配察知を伸ばしてみる。案の定何やら魔物に襲われている人の気配を察知してしまった。
『ちょっと襲われてる人が奥にいるから行ってくる』
『行ってらっしゃい』
駆け出しつつ念話で知らせると、こちらに向かってくる人物が視界に入ってきた。
さて、お前だけでも逃げろのパターンなのか、仲間を囮にして逃げてきたパターンなのか。
「た、助け――」
向こうもこちらに気づいて声を上げるが、すべてを言い切る前に無視して通り過ぎる。見た目はぽっちゃりしたオッサンだけど、冒険者には見えないな。思わず立ち止まってこちらを振り返る気配がするけどそれよりもまだ向こうにいる人間だ。
ちなみに追いかけてきていた魔物は予想通りブラックエイプだった。赤い顔をしたサルだったけど、どこがブラックなんだろうか。獲物の横取りはトラブルの元だし、すぐに追いつかれることもなさそうなのでこっちは莉緒たちに任せておこう。
「見えた」
こっちはしっかりとした冒険者に見える。男女二人ずつのパーティのようだが思ったより劣勢のようだ。ブラックエイプ二体に翻弄されているように見える。
「助けはいるか?」
「頼む!」
遠くから呼びかけると即答だった。
「あいよ」
ブラックエイプが長い腕を鞭のようにしならせて、助力を求めた男へと振り下ろす。その盾に腕が激突する寸前に合わせたわけではないが、発動した魔法により生み出された風の刃でサルの首が音もなく落ちる。その後ろから時間差で打撃を与えようと迫っていたブラックエイプも同じ運命をだどった。
「……えっ?」
思っていた衝撃が来なかったことにより、男から気の抜けた声が聞こえてきた。
真正面を向いてもそこにいたはずのブラックエイプが視界からいなくなっているためか、若干視線をさまよわせているようにも見える。
ようやく視線を足元に向けると、倒れているブラックエイプを視界にとらえ、ゆっくりとこちらにも顔を向けた。
「――あっ、フェイさん!」
我に返った男が叫び声をあげると俺の後ろへと視線を向ける。どうやら逃げていった男を気にしているようだ。フェイという名前らしいが、冒険者っぽくない見た目からすると護衛対象かなんかだろうか。
「あっちも大丈夫」
安心させるように声をかけてゆっくりと歩いていると、後ろからさっきすれ違った男が走って戻ってくる気配を感じた。どうやらあっちのブラックエイプはイヴァンが倒したみたいだ。1ランク上の魔物はそろそろ相手にもならなくなってきたみたいだ。
「みなさん!」
「よかった、無事だったんですね」
「はい。この人たちに助けてもらって……」
フェイと呼ばれた男が振り返ったあたりで莉緒たちも合流する。
「もー、急に逃げ出したりしないでくださいね。フェイさん」
冒険者の男が咎めるようにフェイを責めるが、そりゃ護衛対象にいきなり予想外の動きをされたらたまったもんじゃないな。予想は外れたけど悪い人たちじゃなさそうだ。
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