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第六章

山の幸を求めて

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「で、どっちから行くんだ?」

「まずはワサビかな。魔の森は北の端っこらしいし最後でいいと思う」

「了解」

 というわけで宿をとったその足で、俺たちは冒険者ギルドへとやってきた。まずはワサビの情報ということで、収集依頼がたまに出るというここに来るのは必然ということだろう。魔の森の情報も聞けるだろうし、一石二鳥である。

 規模としては標準な冒険者ギルドの中へと入る。宿で待っていても暇だろうし、フォニアも含めて全員でやってきた。そういえばエルだけ冒険者じゃなかった気がするな。フォニアとニルは従魔という扱いだから、エル一人だけあんまりギルドと接点はないのか。

「お、ワサビの採集依頼があるな」

 真っ先に依頼ボードへと向かったイヴァンから声が上がる。イヴァンにもワサビで浸透しているが、こっちでの名前は山唐辛子という名前だ。釣られて依頼ボードへ視線を向ければ、確かにEランクの依頼としてボードに貼ってあった。

「ちょうどいいんでない?」

「だなぁ」

 さっと依頼書を引きはがすとこちらに戻ってきた。依頼があればギルド職員からも話を聞きやすい。さっそくカウンターへと向かうと依頼書を差し出しつつも情報を聞いてみる。

「はい、山唐辛子の採集依頼ですね。街の北方面へ出ていただいて、東の方向にある森の中の渓流近くに自生しています。最近は近くでブラックエイプというDランクの魔物の目撃例もあるので気を付けてください」

「わかりました」

 ふむ。Eランクの依頼にDランクの魔物の出現ね。だから昼過ぎにもかかわらずワサビ採集依頼が残ってたのかな。それはそれで好都合だからいいけど。
 他にも一緒に採集ができる依頼がないか聞いてみたが、ないという返事がきてフォニアの耳がへんにょりと垂れた。

「それじゃさっそく行きますか」

「えっ?」

 驚く職員をスルーしてさっそくとばかりにギルドの外へ出る。地図も見せてもらったけど、のんびり歩けば半日くらいの距離だろうか。日帰りでギリギリの場所に昼過ぎから出かけることにびっくりしたんだろうが、どうしても待っていられないのだ。

「刺身が食べたい」

「ワサビは必須だよね」

「美味しいワサビのおろし方を実践したいわね」

「そこまでのもんなのかよ……」

「からいのいらない……」

「わふぅ……」

 獣組はそこまでワサビが得意ではないようだが、日本人にとってワサビは必須の食べ物なのだ。こっちのワサビもどんな味がするのか気になるというもの。エルは日本の文化を変にかじりすぎてるので気にしないでおこう。

「今晩は海鮮丼だな」

 晩御飯のメニューを呟いたところ、へんにょりとしていたフォニアの耳が幾分か持ち上がる。ワサビは苦手だけど、刺身は好きだもんな。

「途中の山菜も探しながら向かいましょうか」

「そうだな」

 久々に鑑定を全開にして植物を片っ端から調べながら行くか。せっかくの山だし、食べられるものを探すのだ。

 石造りの家々が並ぶ街並みを北方向に向かって歩いていく。街の中央を超えるころには木造の家も増えてきた。山岳地帯ではあるが森がないわけでもない。石の家だと寒いので、少し立派な家になると木造となるようだ。

 北の街門を抜けて外に出る。街へ入るための人々の列がいくらか続いている向こう側には、峻険な山脈が真っ白な雪をかぶって続いている。一部岩肌が見える山頂があるけど火山だろうか。

「じゃあ走っていくか」

「おー」

「フォニアちゃんはニルに乗って行きましょうか」

 元気よく手を挙げるフォニアを抱き上げるとニルの背中に座らせる。
 最近恒例になっている移動方法なのでみんなも慣れたものだ。イヴァンだけが柔軟体操をしていて気合十分だ。
 俺としてもスキルをフル活用して周囲の物という物に鑑定を高速でかけていく。なんとなく感覚がつかめてきたところで出発だ。

 道はまっすぐ北方向へと続いており、しばらく行くと登りの急斜面にぶつかって東西に道が分かれる。中央の山を迂回するように東側へと行くと、街道の左右に草木がちらほらとみられるようになった。徐々に右手の景色が森へと変化してくると、鑑定結果に食用という文字の入っている植物がちらほらとひっかかるようになってきた。

「どうしたの?」

 走るスピードが緩んだことを察知したのか、莉緒が声をかけてくる。いつもはイヴァンがへばる直前に止まるので疑問に思ったんだろう。

「食べられそうなものがちらほらと見つかったからちょっとね」

「へぇ、そうなんだ。……ちょっと収穫していく?」

「そうだなぁ」

 走る足を止めて振り返れば、イヴァンがぜぇはぁ言いながら両ひざに両手をついて大きく息をしている。倒れこまないところを見ればまだもうちょっと余裕はありそうだ。

「休憩がてら採集にいってみるか」

 とはいえここでイヴァンに脱落されても困るのは俺たちだ。話を聞いていたイヴァンが手だけをひらひらとこっちに振ってきたので、俺たちは心置きなく森に分け入ることにした。
 といっても目的地はすぐ近くだ。ベリーのような果実やカラフルなキノコと、山芋といったものを収穫してくると、ワサビの自生地へとむけてまた足を動かすのだった。
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