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第五部
被害者じゃなくてすいません
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「ところであんたたちはどうしてあのダンジョンにいたんだ……?」
緊張感をはらんだ口調で、明日香が意を決して尋ねてきた。
日本で行方不明になった人物の初の保護と思っていたところだったが、そうではない可能性が浮上してきたのだ。
「えーっとですね……」
多少の気まずさを覚えつつも正直に話をしていく。ケモ耳のイヴァンとフォニアもいるし、魔法も目の前で使えば信じざるを得ないだろう。
「…………マジかよ」
ある程度時間をかけた話し合いの結果、とりあえず明日香には納得いただけることができたようだ。この施設にいた連中への説明とかまではする気はないので悪しからず。そこはがんばってもらうことにしよう。
と言っても行方不明になった楓さんを探す云々については話していない。他にいなくなったやつらも探してとか言われかねないからな。
「えーっと、ちなみになんですけど、ここの部隊って何なんですか?」
呆然とした表情で机に突っ伏す明日香に別の話を振ってみる。一応俺たちを助けてくれた? 組織だけど、何なのかがよくわからない。
「ハハ……、そういえばちゃんとした自己紹介はまだだったね」
ちょっとだけ持ち直したのか、背筋を伸ばして改めて向き直る。
「アタシは日本軍ダンジョン部隊の第七小隊員、黒羽明日香だ。よろしくお願いするよ」
「日本軍……?」
「ダンジョン部隊?」
莉緒と揃って首を傾げるが、日本軍ってなんだろうな。日本は軍隊を持ってなかったと思うんだけど、こっちの日本は別ってことか。
「もしかして、何度か報復作戦を行ったとかって……」
莉緒が何かに気付いたようで言葉にするが、そういえば仁平さんからそんな話を聞いたような気がしないでもない。
「ああ、そうだね。何度かアイツらには泡を吹かせてやったこともあるけどね。でもその時も行方不明者は誰一人見つからずだったんだよね……」
いかな日本と言えど、実際に侵略されてまで黙っていることはないってことか。ついさっき目にした廃墟を思い出せば、日本で激しい戦闘が行われたことにも想像がつく。
……それから軍隊ができたのか、元からあったのかはわからないけど。
とそこに、ポケットに仕舞っていたスマホが着信音とバイブの振動音を知らせてきた。俺と莉緒以外が大げさに反応するが、イヴァンに至っては驚きすぎたのか椅子から落ちてた。
スマホ画面を見れば相手は仁平さんだ。こっちの話はひと段落したし、特に電話に出ても問題ないかな。
「もしもし」
『ああ、柊くんか。儂だ。仁平だ』
「どうかしたんですか?」
『いやすまんな。GPSの反応が出たもんで、待ちきれずについ連絡してしまった』
「ああ、そういうことですか。と言っても……、残念ながらまだ何も報告できることはないですけど。ここと違ってインターネットどころか電話すらない世界なので」
情報伝達速度は日本とは比べ物にならないだろう。あっちでもスマホを作って配布はしたけど、各組織のトップどころかすべての街にすら行き渡っていない。
とはいえようやく見つかった手掛かりに気が気でない気持ちはわからないでもない。しかし俺たちのスマホって監視されてるのか……。まあいいけど。一般人と違っていつでも連絡が取れるわけじゃないしなぁ。
『そ、そうか……』
残念そうな声が聞こえてくるがこればっかりはしょうがない。
『ううむ……。そういった話も含めて、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか』
「ええ、かまいませんよ。会社のビルに向かえばいいですか?」
『ああ、悪いね。また夕食でも一緒にどうかな』
仁平さんの声にフォニアの耳がピクピクと動いたかと思うと、「ごはん……」と呟いて表情がだらしなく緩む。
とはいえ今回は一人多いんだよね。しかも言葉がわからないっていう。
「以前より一人増えてるんですが、大丈夫ですか?」
『はは、何、柊くんが連れている人物ならいくら増えてもかまわんよ』
なんとも太っ腹な仁平さんの言葉にちょっとだけ恥ずかしくなる。今まで接してきたロクでもない人種とは根本から異なるようだ。
「ありがとうございます。ではこれから向かいますね」
『ああ、待っているよ』
なんとなくここもいづらくなってたしちょうどいい。電話を切ってポケットに仕舞うと、明日香が呆けた表情でこっちを見ていた。
「ここじゃない日本から来たとは聞いたけど、こっちにも知り合いはいたんだな」
「……そりゃ何人かはね」
楓さんの話は端折ってたから出てこなかったが、いるにはいるのだ。楓さんの家族である十四郎さんと仁平さんだけだけど。あと運転手さんも何度か送り迎えしてもらって顔見知りだけど、そういえば名前聞いてないな……。
「じゃあ俺たちはそろそろ行きますね」
「あ、ああ……」
席を立つ俺たちを何気なく眺めていた明日香だったが、ふと我に返ったかのように立ち上がると。
「どこかに向かうんなら送っていくよ」
「いいんですか?」
送ってくれるというのであれば助かる。スマホの地図アプリがあればたどり着けるかもしれないけど、あんまり地理には詳しくない。前回物資調達のために倉庫店や大型モールを回った時も車で送り迎えしてもらったしね。
「ああ、大丈夫だ。……むしろあいつらになんて説明すりゃいいのか……」
後半はよく聞き取れなかったが、送ってくれるというのであればありがたい。素直に甘えることにした俺たちだった。
緊張感をはらんだ口調で、明日香が意を決して尋ねてきた。
日本で行方不明になった人物の初の保護と思っていたところだったが、そうではない可能性が浮上してきたのだ。
「えーっとですね……」
多少の気まずさを覚えつつも正直に話をしていく。ケモ耳のイヴァンとフォニアもいるし、魔法も目の前で使えば信じざるを得ないだろう。
「…………マジかよ」
ある程度時間をかけた話し合いの結果、とりあえず明日香には納得いただけることができたようだ。この施設にいた連中への説明とかまではする気はないので悪しからず。そこはがんばってもらうことにしよう。
と言っても行方不明になった楓さんを探す云々については話していない。他にいなくなったやつらも探してとか言われかねないからな。
「えーっと、ちなみになんですけど、ここの部隊って何なんですか?」
呆然とした表情で机に突っ伏す明日香に別の話を振ってみる。一応俺たちを助けてくれた? 組織だけど、何なのかがよくわからない。
「ハハ……、そういえばちゃんとした自己紹介はまだだったね」
ちょっとだけ持ち直したのか、背筋を伸ばして改めて向き直る。
「アタシは日本軍ダンジョン部隊の第七小隊員、黒羽明日香だ。よろしくお願いするよ」
「日本軍……?」
「ダンジョン部隊?」
莉緒と揃って首を傾げるが、日本軍ってなんだろうな。日本は軍隊を持ってなかったと思うんだけど、こっちの日本は別ってことか。
「もしかして、何度か報復作戦を行ったとかって……」
莉緒が何かに気付いたようで言葉にするが、そういえば仁平さんからそんな話を聞いたような気がしないでもない。
「ああ、そうだね。何度かアイツらには泡を吹かせてやったこともあるけどね。でもその時も行方不明者は誰一人見つからずだったんだよね……」
いかな日本と言えど、実際に侵略されてまで黙っていることはないってことか。ついさっき目にした廃墟を思い出せば、日本で激しい戦闘が行われたことにも想像がつく。
……それから軍隊ができたのか、元からあったのかはわからないけど。
とそこに、ポケットに仕舞っていたスマホが着信音とバイブの振動音を知らせてきた。俺と莉緒以外が大げさに反応するが、イヴァンに至っては驚きすぎたのか椅子から落ちてた。
スマホ画面を見れば相手は仁平さんだ。こっちの話はひと段落したし、特に電話に出ても問題ないかな。
「もしもし」
『ああ、柊くんか。儂だ。仁平だ』
「どうかしたんですか?」
『いやすまんな。GPSの反応が出たもんで、待ちきれずについ連絡してしまった』
「ああ、そういうことですか。と言っても……、残念ながらまだ何も報告できることはないですけど。ここと違ってインターネットどころか電話すらない世界なので」
情報伝達速度は日本とは比べ物にならないだろう。あっちでもスマホを作って配布はしたけど、各組織のトップどころかすべての街にすら行き渡っていない。
とはいえようやく見つかった手掛かりに気が気でない気持ちはわからないでもない。しかし俺たちのスマホって監視されてるのか……。まあいいけど。一般人と違っていつでも連絡が取れるわけじゃないしなぁ。
『そ、そうか……』
残念そうな声が聞こえてくるがこればっかりはしょうがない。
『ううむ……。そういった話も含めて、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか』
「ええ、かまいませんよ。会社のビルに向かえばいいですか?」
『ああ、悪いね。また夕食でも一緒にどうかな』
仁平さんの声にフォニアの耳がピクピクと動いたかと思うと、「ごはん……」と呟いて表情がだらしなく緩む。
とはいえ今回は一人多いんだよね。しかも言葉がわからないっていう。
「以前より一人増えてるんですが、大丈夫ですか?」
『はは、何、柊くんが連れている人物ならいくら増えてもかまわんよ』
なんとも太っ腹な仁平さんの言葉にちょっとだけ恥ずかしくなる。今まで接してきたロクでもない人種とは根本から異なるようだ。
「ありがとうございます。ではこれから向かいますね」
『ああ、待っているよ』
なんとなくここもいづらくなってたしちょうどいい。電話を切ってポケットに仕舞うと、明日香が呆けた表情でこっちを見ていた。
「ここじゃない日本から来たとは聞いたけど、こっちにも知り合いはいたんだな」
「……そりゃ何人かはね」
楓さんの話は端折ってたから出てこなかったが、いるにはいるのだ。楓さんの家族である十四郎さんと仁平さんだけだけど。あと運転手さんも何度か送り迎えしてもらって顔見知りだけど、そういえば名前聞いてないな……。
「じゃあ俺たちはそろそろ行きますね」
「あ、ああ……」
席を立つ俺たちを何気なく眺めていた明日香だったが、ふと我に返ったかのように立ち上がると。
「どこかに向かうんなら送っていくよ」
「いいんですか?」
送ってくれるというのであれば助かる。スマホの地図アプリがあればたどり着けるかもしれないけど、あんまり地理には詳しくない。前回物資調達のために倉庫店や大型モールを回った時も車で送り迎えしてもらったしね。
「ああ、大丈夫だ。……むしろあいつらになんて説明すりゃいいのか……」
後半はよく聞き取れなかったが、送ってくれるというのであればありがたい。素直に甘えることにした俺たちだった。
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