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第五部

城内へ侵入

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「へぇ、ここが……」

 興味深そうに周囲を見回すエルはスルーして、俺たちは何日かぶりに戻ってきた魔人族の城を裏山から見下ろしていた。
 周囲の地面は赤茶けており、相変わらず草木の一本も見当たらない。空の様子も以前見た時と変わらず、灰色に塗りつぶされている。

「とりあえず城まで降りるか」

「うん。まずは召喚陣のあったあの部屋を目指すのよね」

「そうだな。脱出したときに開けた天井の穴が残ってれば楽なんだけど」

 修復されていたとしても場所はわかっているので、また穴を開ければいいだけではあるけどね。
 さぁ出発とばかりに魔法でふわりと浮き上がるとニルが程よいサイズに大きくなり、その背にイヴァンとフォニアが跨る。空を駆けて城へと向かうと、後ろからエルが地面を蹴り、空を蹴りながら付いてきた。魔法寄りのステータスを持つエルではあるが、重力魔法を操ることはできないようで、俺たちと同じように空を飛ぶことはできていない。

 上空から城へと近づいていくと、城壁内のようすが見えるようになってくる。離れの建物を中心に、ところどころに魔物と魔人族が倒れているのが見えた。

「あれって召喚陣のあった建物だっけ?」

「そうみたいだな。送り込んだやつらってそこまで強くなかったと思ったんだけど……」

 以前鑑定した魔人族はステータスが軒並み高かった。送り込んだ魔物の鑑定はしていなかったけど、魔人族に勝てるとは思っていない。だけど何人か倒れている魔人族がいるし、近くに魔物も倒れているのできっとやられたんだろう。

「もしかして召喚したときに何か力を付与されたとか?」

「え? あぁ、そういえばシュウたちもそうなんだっけ」

 考え込んでふと呟いた莉緒に、イヴァンが声を上げる。

「可能性としてはありそうだな。神様なら人間と魔物も平等に見てるかもね」

「今のうちに召喚陣のところまで行こっか」

「そうだな」

 幸いにして魔物は全部外に出て行ったようで、離れの建物の中にいる気配はない。多少魔人族はいるようだが、できるだけ回避していこう。

「前にあけた穴は……。見た感じ塞がってるかな?」

「みたいね。でもここから入った方が早いのよね?」

「正規ルートから入るって選択肢はねーのか。穴開けたら隠密もクソも……」

 イヴァンがツッコんでくるけど『できるだけ』なので、即座に気付かれなければ問題ないとは思う。

「こっそりよりもスピード重視かな」

 早いこと召喚陣をぶっ壊しておきたい。というわけでさっそく、遮音結界を張って地面をくりぬいて異空間ボックスに入れる。

「よし行くか」

 周囲を見回すとそれぞれから頷きが返ってくる。が、エルだけは首を傾げていた。

「どうかした?」

「うーん……」

 莉緒が声を掛けると唸りながらも首を反対側に捻っている。

「ここだと目立つし、とりあえず中に行ってからで」

「それもそうだな」

 とはいえ目立つこんなところで話をすることでもないと気づいたのか、全員で倉庫の中へと入っていった。もちろん異空間ボックスに入れた地面を戻して蓋をしておいた。



「で、どうしたんだ?」

 問いかけられたエルが人差し指を出し、しばらく集中してその先に炎を灯す。

「やっと出た。……いや魔法がすごく使いづらいなと思って」

「そうなんだ」

 同じように五本の指先にいろいろ魔法を発現させてみる。

「別に普通だけど」

「ボクも使えるよー」

 フォニアも指先に火を灯しているが、特に苦労はしていなさそうだ。

「そういえば神様がスキル体系がどうのって言ってなかった?」

 ハッと気づいた莉緒の言葉に記憶が掘り起こされる。

「言ってたな。使えないスキルもあるとか」

「なん……だって?」

 驚きを顔に張り付けるエルではあったが、その視線が自分の手元から俺たちに移ってくる。

「ご主人様たちは練習したってこと?」

「いんや、神様に使えるようにしてもらった」

「は?」

 呆けるエルではあるが、重要な問題じゃなさそうで一安心だ。エルにとっては重要案件だろうが、そこはがんばってくれとしか言いようがない。しかしいつの間にかご主人様呼びが定着してきた気がするな。

「とりあえず行くべか」

 周囲を見回せば多少の荷物が運び込まれているようだ。中を見れば前回と同じくタングステンの鉱石が入っている。この国の特産品なんだろうか。

「またもらっていくけど」

「容赦ねぇなオイ」

「魔人族は敵だし、しょうがないよね」

「まぁそうだけど」

「こっちにも扉があるよ?」

 よし行くか、と廊下に出ようとしたとき、フォニアが倉庫の奥にも扉があるのを発見した。

「へぇ。前は気づかなかったけど、なんだろうな?」

 扉の向こう側の地形を把握してみるが、小部屋になっているようだ。倉庫の奥の部屋、ちょっと期待してしまうかも。
 かかっている鍵を当たり前のように壊して小部屋を覗き込む。倉庫と同じように箱が置いてあったが、中身も同じような鉱石が入っているだけだった。

「おたからあった?」

 フォニアが期待に目を輝かせて聞いてくるけど、俺にもこの鉱石の正体はわからない。鑑定すると『オブスタシオン』と出てきたが、聞いたことのない名前だ。とはいえ俺たちのやることは変わらない。

「よくわかんないけど、奥に隠してあるからお宝かもしれないな」

「おたからおたから!」

 喜ぶフォニアの頭を撫でると、改めて召喚陣の部屋を目指すべく倉庫を出ることにした。
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