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第五部

予想外の招待

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 スキャンした地形によると、この先に分かれ道はなく一本道が行き止まりまで続いている。途中に三か所ほど部屋のようになっている広場があるだけのようだ。そのうちのひとつがどうやら魔物で埋まっているらしい。

「よし、行ってみるか」

 ワクワクしながらも、音を立てないように遮音結界を張ってから壁を壊していく。
 聞いた話によればダンジョンの壁などは、壊しても数日すれば修復されるという話だ。倒した魔物も放置していればダンジョンに吸収されるのか、消えてなくなると聞いている。冒険者たちもダンジョン内で死んでしまえばそのうち消えてしまうのだ。だからこそ新人狩りなどという犯罪がまかり通ってしまうのだろう。

「雰囲気はあんまり変わらないわね」

 よく見えるようになった向こう側の感想が莉緒から漏れる。

「何もいないよ?」

 同じく向こう側を覗き込んでいたフォニアが振り返って首を傾げる。

「一番奥の部屋に固まってるみたいだからな。……なんで通路に出てこないんだろうな?」

「……さぁ?」

 ふと疑問に思ったことを呟くが、誰が知っているわけもない。

「ここは踏んだらだめだぞ」

「え?」

 指さした地面を足でつつくと、床が崩れて落とし穴が現れた。今まで罠はなかったけど、スキャンすれば罠も見つかるから楽でいい。

「お兄ちゃんすごい」

「すごいだろう」

 フォニアの尊敬を集めながらも、まずは通りかかった最初の部屋を覗き込む。

「何もないね」

「そうだな」

「わふぅ……」

 学校の教室の半分くらいの空間がただ広がっているだけだった。ニルも残念そうな声を上げている。
 そして次の部屋を覗き込むと。

「あれ、何かあるわね?」

「ほんとだ。なんだろう」

 警戒も何もなく部屋に踏み込んでいき、フォニアが部屋の奥にある四角い物体へとまっすぐに走っていく。罠も何もないことがわかっているので咄嗟に呼び止めたりしないが、ちょっとあとでお説教だな。

「ちょっと、フォニアちゃん?」

 慌てて莉緒が追いかけて声を掛けると、奥の四角い物体の数メートル手前でピタリと止まる。ゆっくりと振り返るころには耳と尻尾と眉がへにょりと垂れ下がっていた。

「ご、ごめんなさい……」

「ふふ。わかってるならいいわよ。次から気を付けましょうね」

「うん」

 慎重に周囲を見回しながらゆっくりと四角いモノへ近づいていく。コンクリートみたいな見た目で、地面から蓋のない四角い箱が生えている感じだった。五センチくらいの厚みで高さ二十センチ、一辺も二十センチの壁で四角く囲まれている。

「なにこれ」

 中を覗き込むと、不透明な灰色の陶器のような入れ物が置いてあった。鑑定するとポーションと出た。初級ポーションで、品質はDとある。オークションでエリクサーは見たけど、ポーションは初めて見たな。街でも売ってるの見たことないし、飲んだり振りかけたりするだけで怪我が治るような薬は作れないんだろうか。

「へぇ。ダンジョンで見つかるアイテムってこんなふうになってるんだ」

「ポーションですって」

「ぽーしょん?」

 てっきり宝箱みたいなものがあるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。フォニアが箱の前でしゃがみこんでこっちを振り返っている。

「飲んだり振りかけたりすると怪我が治る薬らしい。手に取っていいぞ」

 うずうずした表情が、許可を出したとたんにぱあっと明るくなる。手を伸ばしてしっかり掴むと持ち上げる。

「何か入ってる」

 こぼれないように栓がされた入れ物をしばらく観察すると、「はい」と言って手渡してくれた。

「ありがとう。仕舞っておくな」

「うん」

「じゃああとは魔物部屋だけか」

 改めてスキャンしなおしてみるが、やっぱり魔物しかいなさそうだ。特に罠もないし、さっきみたいにアイテムがあるわけでもない。
 ということを伝えると、ちゃっちゃと殲滅しようかという話になった。

「あ、ちょっと待って」

 魔物部屋を見てみようかというところで、ここの通路に入ってこようとする気配を捉えた。

「どうしたの?」

「誰かがこっちにくる」

「へぇ。通りかかった冒険者が新しい道に気が付いたのかな?」

「しんじんがりの人?」

 三人で元来た道へ視線を向けるが、まだその姿は見えない。

「どうだろうな? 五人組のパーティみたいだけど、まぁ相手の出方次第かな」

 奥の魔物部屋も気になるけど、出てこないうちは放置でいいだろう。魔物部屋へ注意を向けつつ背を向けて、近づいてくるパーティに備えて元来た通路の奥を見据える。

 と、そのときである。

 地面が淡く輝きだしたかと思ったら、次の瞬間には俺を中心として魔法陣が広がった。

「なに!?」

「え!?」

「へ?」

「わふっ!?」

 半径十メートルほどに広がった魔法陣には見覚えがある。

「これって!」

 感じ取れる魔力にも覚えがある。ニルは唸り声を上げて警戒している。

「間違いない、魔人族の召喚陣だ!」

 とりあえず二人が巻き込まれないように通路の奥へと移動すると、前回と同様に俺に魔法陣がくっついて移動してくる。しかしこの先は魔物部屋があるだけだ。

「こっちはなんとかするから、二人は近づいてくる奴らを頼んだ!」

 こんなときに厄介な!
 せっかく新人狩りの犯人かもしれない奴らとの遭遇と重なるという予想外の出来事に、どうするべきか俺は頭をフル回転させた。
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