269 / 398
第五部
予想通りの依頼
しおりを挟む
「お願い、ですか?」
「ああ。楓のことを、どうか探してもらえないだろうか」
深々と頭を下げながら懇願する仁平さん。
「私からもお願いしたい。君たちも大変な思いをして今ここにいるんだとは想像するが、私たちには君たち以外に頼れる者がいない」
二人して頭を下げられるとなんとも居心地が悪くなってくる。……というと語弊があるかもしれない。
今まで傲慢で見下してくる相手しかいなかったから、なんだかむず痒い。とはいえ依頼内容としては予想通りだ。しかもこういう頼み方をされてしまうと、受けてもいいんじゃないかと思えてくるから不思議だ。
「もちろん相応のお礼はさせてもらう。……ここではない日本からきたというのであれば、身分証明書など持っていないだろう。となればスマホを買うこともできまい」
「ああ、それはいいな。儂も礼として何がいいか考えとったが。どうせならスマホ決済もいくらでも使えるようにしておこう」
十四郎さんに続いて仁平さんが提示してきたのは、なんとスマホだった。しかもスマホ決済し放題とかマジですか。
「使い放題って……、いっぱい買い物しちゃいますよ……?」
「うむ。楓の捜索に関係ないものでも好きなように購入してくれてかまわんよ。スマホを拾ってくれた礼でもあるからの」
「そうだな。それにスマホがあればこの世界の調べ物もできるだろう」
「えっ? すまほってそんなことまでできんのかよ?」
イヴァンが驚いているが、実際スマホはいろんなことができるからな。
しかしそこまで言われればこの依頼は引き受けてもいいんじゃなかろうか。
『いいんじゃないかしら』
『莉緒もそう思うか?』
『だって、食材買い放題じゃない? これを逃す手はないわね』
『だよなぁ』
『俺にはよくわからんから二人に任せる……』
莉緒と二人で頷き合っていると、イヴァンは思考を放棄したようだ。フォニアに至ってはニルを枕にして寝ている。
「もちろん君たちにも予定はあるのはわかっているが、片手間でもいいので探してみてはくれないだろうか」
「ええ、わかりました。引き受けましょう」
「ほ、本当か!?」
「はい。もともと私たちは異世界のあちこちを食を求めて旅して回ってただけで、そんな大した目的なんてありませんでしたし」
「ありがとう……、本当にありがとう……!」
瞳を潤ませながらお礼を言う二人には「乗り掛かった舟です」と言っておいた。
「さて、もう時間も遅くなってしまったな。夕食にしようと思うが、君たちも一緒にどうだろうか。もちろんごちそうするよ」
「じゃあ遠慮なくご一緒させてもらいます」
外を見ればもう日が落ちて暗くなっていた。と言っても眼下の街には明かりが次々と灯っていて、綺麗な夜景が広がっている。
「おーい、フォニア起きろ」
席を立って窓際へと近づくと、その手前で寝ていたフォニアを起こす。
「……ふえ?」
ほっぺに涎の跡を付けたフォニアが寝ぼけたまま辺りを見渡すと、窓の外を向いたときに動きが止まった。
「きれいだねぇ……」
「はは、そうだな。腹減ったか? 晩ご飯食べに行くぞ」
「うん!」
ご飯の言葉に耳がピクリと反応すると、元気な返事が返ってきた。
「はは、静かだと思ったらそんなところで寝ていたのか……」
会議室の床とはいえ絨毯が敷いてある。ましてやニルを枕にしていたのであればそこそこ快適だったんだろう。
「では行こうか」
くわっとあくびをするニルも連れて、仁平さんのあとをついて行った。
「うまっ、うまっ!」
「うまーい!」
イヴァンとフォニアがすき焼きをフォークでかきこんでいる。
イヴァンの肉と俺たちの和食というリクエストの結果がこの晩ご飯だった。黄金比率を謳う割り下がいい味を出している。
「ははは、いっぱいあるから遠慮せずに食べてくれ」
ここは十四郎さんに連れられてやってきた、同じビルにあるすき焼きの専門店だ。お箸を器用に使えなかった二人が、豪快に肉を食べる様子を呆れて見ていたらそう声を掛けられた。
「ありがとうございます。めちゃくちゃ美味しいですね……」
個室になっていて他人に気を使う必要もないとはいえ、さすがにニルは連れてこられなかった。それもあって心持ち急いで食べている感じはある。いい匂いの漂ってくる店先で断られてショックを受けるニルに、憐憫の情が湧いてやまない。
あとで美味い飯食わせてやるから待っててくれよ……。
「卵に付けて食べるってのがすげぇよな。こんなに美味いとは思わなかったぜ……」
「ニルも食べられればよかったのにね」
「ははは、犬に味のついたものはダメなんじゃなかったかな」
フォニアの言葉に笑いながら仁平さんが言葉を続ける。
「ニルは犬じゃなくて魔物なので何でも食べますよ」
「へっ? ま、まもの?」
「ええそうですね。何だったら玉ねぎとか食べてもなんともないですし、いつも俺たちと同じもの食べてます」
尻尾もふさふさすぎてパッと見だと気づかないけど、ちゃんと三本あるしね。
ニルについてあれこれと説明していたが、柳原さん親子の二人はいつの間にか箸の動きが止まってちょっと青い顔になっていた。
「ああ。楓のことを、どうか探してもらえないだろうか」
深々と頭を下げながら懇願する仁平さん。
「私からもお願いしたい。君たちも大変な思いをして今ここにいるんだとは想像するが、私たちには君たち以外に頼れる者がいない」
二人して頭を下げられるとなんとも居心地が悪くなってくる。……というと語弊があるかもしれない。
今まで傲慢で見下してくる相手しかいなかったから、なんだかむず痒い。とはいえ依頼内容としては予想通りだ。しかもこういう頼み方をされてしまうと、受けてもいいんじゃないかと思えてくるから不思議だ。
「もちろん相応のお礼はさせてもらう。……ここではない日本からきたというのであれば、身分証明書など持っていないだろう。となればスマホを買うこともできまい」
「ああ、それはいいな。儂も礼として何がいいか考えとったが。どうせならスマホ決済もいくらでも使えるようにしておこう」
十四郎さんに続いて仁平さんが提示してきたのは、なんとスマホだった。しかもスマホ決済し放題とかマジですか。
「使い放題って……、いっぱい買い物しちゃいますよ……?」
「うむ。楓の捜索に関係ないものでも好きなように購入してくれてかまわんよ。スマホを拾ってくれた礼でもあるからの」
「そうだな。それにスマホがあればこの世界の調べ物もできるだろう」
「えっ? すまほってそんなことまでできんのかよ?」
イヴァンが驚いているが、実際スマホはいろんなことができるからな。
しかしそこまで言われればこの依頼は引き受けてもいいんじゃなかろうか。
『いいんじゃないかしら』
『莉緒もそう思うか?』
『だって、食材買い放題じゃない? これを逃す手はないわね』
『だよなぁ』
『俺にはよくわからんから二人に任せる……』
莉緒と二人で頷き合っていると、イヴァンは思考を放棄したようだ。フォニアに至ってはニルを枕にして寝ている。
「もちろん君たちにも予定はあるのはわかっているが、片手間でもいいので探してみてはくれないだろうか」
「ええ、わかりました。引き受けましょう」
「ほ、本当か!?」
「はい。もともと私たちは異世界のあちこちを食を求めて旅して回ってただけで、そんな大した目的なんてありませんでしたし」
「ありがとう……、本当にありがとう……!」
瞳を潤ませながらお礼を言う二人には「乗り掛かった舟です」と言っておいた。
「さて、もう時間も遅くなってしまったな。夕食にしようと思うが、君たちも一緒にどうだろうか。もちろんごちそうするよ」
「じゃあ遠慮なくご一緒させてもらいます」
外を見ればもう日が落ちて暗くなっていた。と言っても眼下の街には明かりが次々と灯っていて、綺麗な夜景が広がっている。
「おーい、フォニア起きろ」
席を立って窓際へと近づくと、その手前で寝ていたフォニアを起こす。
「……ふえ?」
ほっぺに涎の跡を付けたフォニアが寝ぼけたまま辺りを見渡すと、窓の外を向いたときに動きが止まった。
「きれいだねぇ……」
「はは、そうだな。腹減ったか? 晩ご飯食べに行くぞ」
「うん!」
ご飯の言葉に耳がピクリと反応すると、元気な返事が返ってきた。
「はは、静かだと思ったらそんなところで寝ていたのか……」
会議室の床とはいえ絨毯が敷いてある。ましてやニルを枕にしていたのであればそこそこ快適だったんだろう。
「では行こうか」
くわっとあくびをするニルも連れて、仁平さんのあとをついて行った。
「うまっ、うまっ!」
「うまーい!」
イヴァンとフォニアがすき焼きをフォークでかきこんでいる。
イヴァンの肉と俺たちの和食というリクエストの結果がこの晩ご飯だった。黄金比率を謳う割り下がいい味を出している。
「ははは、いっぱいあるから遠慮せずに食べてくれ」
ここは十四郎さんに連れられてやってきた、同じビルにあるすき焼きの専門店だ。お箸を器用に使えなかった二人が、豪快に肉を食べる様子を呆れて見ていたらそう声を掛けられた。
「ありがとうございます。めちゃくちゃ美味しいですね……」
個室になっていて他人に気を使う必要もないとはいえ、さすがにニルは連れてこられなかった。それもあって心持ち急いで食べている感じはある。いい匂いの漂ってくる店先で断られてショックを受けるニルに、憐憫の情が湧いてやまない。
あとで美味い飯食わせてやるから待っててくれよ……。
「卵に付けて食べるってのがすげぇよな。こんなに美味いとは思わなかったぜ……」
「ニルも食べられればよかったのにね」
「ははは、犬に味のついたものはダメなんじゃなかったかな」
フォニアの言葉に笑いながら仁平さんが言葉を続ける。
「ニルは犬じゃなくて魔物なので何でも食べますよ」
「へっ? ま、まもの?」
「ええそうですね。何だったら玉ねぎとか食べてもなんともないですし、いつも俺たちと同じもの食べてます」
尻尾もふさふさすぎてパッと見だと気づかないけど、ちゃんと三本あるしね。
ニルについてあれこれと説明していたが、柳原さん親子の二人はいつの間にか箸の動きが止まってちょっと青い顔になっていた。
10
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
二人とも好きじゃあダメなのか?
あさきりゆうた
BL
元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。
正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!?
※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。
21.03.11
つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。
21.05.18
第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。
23.09.09
表紙をヒロインのおっさんにしました。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
転生美女は元おばあちゃん!同じ世界に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!
ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。
私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。
そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。
早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯
私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。
『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』
そのために私は⋯
『地上に降りて冒険者になる!』
これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』のスピンオフとなります。おばあちゃんこと凛さんが主人公!
が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。
また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。
こちらも、よろしくお願いします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―
文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。
性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。
誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。
かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる