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第四部
さらわれたフォニア?
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「はぁ?」
訝し気な反応を返すと、男はイラっとする仕草で肩をすくめる。
フォニアがちゃんと宿に帰れたかって? 知らんけど美味い飯食ってんじゃねぇの?
『おーいフォニア。今どこにいるんだ?』
というか直接聞けば早いよな。
『えっ? ……お兄ちゃん? どうしたの?』
とりあえず返事は返ってきたな。切羽詰まったような雰囲気は感じないからひとまずは安心か。
『まさか迷子になってないかって心配になってな。ちゃんと宿に帰れたか?』
『う……、うん』
なんか微妙に歯切れが悪いな。こりゃホントに目の前の奴が言うように誘拐でもされたか……? いやでも……。
『まさかご飯くれるって知らない人に勝手に付いていったりしてないよな?』
『し、知らない人じゃなかったもん!』
『えっ?』
『……あっ』
しまったという意味しか込められていなさそうな『あっ』をありがとうございます。もう確定でいいんだろうけど、この街に知ってるヤツっていたっけ……。
「フォニアちゃん……、宿に帰ってないの?」
莉緒が心配そうに尋ねてくるけど、まさにその通り帰ってなさそうだ。
「マジかよ。昔から知らない人には付いていくなって、口を酸っぱくして言い聞かせてたはずなんだけど……」
やっぱり異世界でもそういうのあるんだ。でもそりゃそうか、日本に比べたら誘拐なんてありふれてそうだしな。
『だ……、だって、どうくつでボクのこと心配してくれたおじちゃんが、お腹すいてるならご飯食べさせてくれるって……』
どうくつ……って、坑道で絡んできたあの冒険者か? あんまり顔まで確認はしてなかったけど、確かに目の前の奴がそうだと言われればそれっぽい気もしなくもない。
『ええー……』
今度は莉緒から呆れた調子の念話が飛んできた。フォニアと話でもしたか、ご飯に釣られてホイホイ付いていった事実を知ったようだ。
『まぁひどいことはされてなさそうだから……、ってあいつらじゃフォニアをどうこうできるとも思えないけど』
「まぁ信じないなら信じないでいいが……、ガキが一人でうろついてたら危ねぇだろうが。保護してやったんだから、ここはお礼ってやつを払っておいても損はねぇと思うぜ」
もはや身代金を要求しているようにしか聞こえないんだがどうしたもんか。
とりあえず莉緒とイヴァンを安心させるために、目の前のバカのステータスを念話で教えておく。HPはかろうじて四桁あるが、筋力体力が500って、何かのスキルで数倍になっていたとしてもフォニアが物理で勝ちそうだ。
鉄鉱石収集のEランク常時依頼の現場にいた冒険者だろうし、Eランクなんだろう。仲間がフォニアを見張ってたとしても、ステータスの数字としては似たようなもんだと思う。
「あの宿に泊まれるくらい金持ってんだろ……? 多少の勉強代だと思って恵んでくれてもいいじゃねぇか」
「はぁ……」
だんだんと要求が必至な懇願に変わってきている気がする。こんな奴に付き合うのもバカらしくなってきた。一瞬だけひねくれすぎた親切心かとも思ったけど考えすぎか。
刃物でフォニアを脅したりとかはしてなさそうだし、極悪人にはなりきれていないというか、ちょっとした良心はまだあるのかもしれない。ここは普通にフォニアに帰ってきてもらうか。
『フォニア。怒ってないからちゃんと宿に帰っておいで』
『……ホントに?』
『ああ、本当だ。……でもフォニアを宿に帰そうとしない悪い人が邪魔をするかもしれないな』
『ええっ!? ご飯くれたのに悪い人なの!?』
……フォニアの中じゃ、ご飯くれる人は全部いい人なのか。
『そうだぞ。危ないからって外に出してくれなかったり、捕まえにきたりするかもしれないけど、捕まらないようにうまく躱して宿に帰ってくるんだ』
『う、うん……。わかった!』
『よしよし、フォニアはいい子だな。無事帰ってこれたら好きなデザートを三つ、夕飯に付けようか』
『ホントに!?』
『ああ。だけど、悪い人に捕まったりするたびにもらえるデザートが一つ減るから気を付けるんだぞ』
『ええっ!? じゃ……、じゃあ三回捕まっちゃったら……』
戦慄するような震える声でフォニアの念話が届く。デザートなしはそこまで恐ろしいことのようだ。
『そうだな。残念だけどそうなったら…………、デザートはなしだな』
深刻そうな雰囲気をたっぷりと含ませてフォニアへと告げると。
『っ!? わ、わかった。ボク、がんばるよ……!』
真剣な表情で拳を握り締める姿が浮かびそうな雰囲気の言葉が返ってきた。
「あっはっはっは!」
「ぶふぉっ! ……くっくっく」
フォニアとのやりとりを莉緒とイヴァンにも聞こえるようにしていたら、耐えられなくなったのか大爆笑だ。
「な、何がおかしい!?」
いや、うん。縋るように金くれっていうアンタも十分面白いけどね。
「心配してくれてるところ悪いが、フォニアはちゃんと帰れる子なんで余計なお世話だな」
「……はぁっ!? あんな小さい子が一人で大丈夫なわけねぇだろ! 確かに小さいペットもついてたけどよ……!」
『というわけでニルもしっかりフォニアのサポートをお願いするよ』
『わふぅ!』
念のために小さいペットにお願いすると、任せておけとばかりの返事が返ってきた。
訝し気な反応を返すと、男はイラっとする仕草で肩をすくめる。
フォニアがちゃんと宿に帰れたかって? 知らんけど美味い飯食ってんじゃねぇの?
『おーいフォニア。今どこにいるんだ?』
というか直接聞けば早いよな。
『えっ? ……お兄ちゃん? どうしたの?』
とりあえず返事は返ってきたな。切羽詰まったような雰囲気は感じないからひとまずは安心か。
『まさか迷子になってないかって心配になってな。ちゃんと宿に帰れたか?』
『う……、うん』
なんか微妙に歯切れが悪いな。こりゃホントに目の前の奴が言うように誘拐でもされたか……? いやでも……。
『まさかご飯くれるって知らない人に勝手に付いていったりしてないよな?』
『し、知らない人じゃなかったもん!』
『えっ?』
『……あっ』
しまったという意味しか込められていなさそうな『あっ』をありがとうございます。もう確定でいいんだろうけど、この街に知ってるヤツっていたっけ……。
「フォニアちゃん……、宿に帰ってないの?」
莉緒が心配そうに尋ねてくるけど、まさにその通り帰ってなさそうだ。
「マジかよ。昔から知らない人には付いていくなって、口を酸っぱくして言い聞かせてたはずなんだけど……」
やっぱり異世界でもそういうのあるんだ。でもそりゃそうか、日本に比べたら誘拐なんてありふれてそうだしな。
『だ……、だって、どうくつでボクのこと心配してくれたおじちゃんが、お腹すいてるならご飯食べさせてくれるって……』
どうくつ……って、坑道で絡んできたあの冒険者か? あんまり顔まで確認はしてなかったけど、確かに目の前の奴がそうだと言われればそれっぽい気もしなくもない。
『ええー……』
今度は莉緒から呆れた調子の念話が飛んできた。フォニアと話でもしたか、ご飯に釣られてホイホイ付いていった事実を知ったようだ。
『まぁひどいことはされてなさそうだから……、ってあいつらじゃフォニアをどうこうできるとも思えないけど』
「まぁ信じないなら信じないでいいが……、ガキが一人でうろついてたら危ねぇだろうが。保護してやったんだから、ここはお礼ってやつを払っておいても損はねぇと思うぜ」
もはや身代金を要求しているようにしか聞こえないんだがどうしたもんか。
とりあえず莉緒とイヴァンを安心させるために、目の前のバカのステータスを念話で教えておく。HPはかろうじて四桁あるが、筋力体力が500って、何かのスキルで数倍になっていたとしてもフォニアが物理で勝ちそうだ。
鉄鉱石収集のEランク常時依頼の現場にいた冒険者だろうし、Eランクなんだろう。仲間がフォニアを見張ってたとしても、ステータスの数字としては似たようなもんだと思う。
「あの宿に泊まれるくらい金持ってんだろ……? 多少の勉強代だと思って恵んでくれてもいいじゃねぇか」
「はぁ……」
だんだんと要求が必至な懇願に変わってきている気がする。こんな奴に付き合うのもバカらしくなってきた。一瞬だけひねくれすぎた親切心かとも思ったけど考えすぎか。
刃物でフォニアを脅したりとかはしてなさそうだし、極悪人にはなりきれていないというか、ちょっとした良心はまだあるのかもしれない。ここは普通にフォニアに帰ってきてもらうか。
『フォニア。怒ってないからちゃんと宿に帰っておいで』
『……ホントに?』
『ああ、本当だ。……でもフォニアを宿に帰そうとしない悪い人が邪魔をするかもしれないな』
『ええっ!? ご飯くれたのに悪い人なの!?』
……フォニアの中じゃ、ご飯くれる人は全部いい人なのか。
『そうだぞ。危ないからって外に出してくれなかったり、捕まえにきたりするかもしれないけど、捕まらないようにうまく躱して宿に帰ってくるんだ』
『う、うん……。わかった!』
『よしよし、フォニアはいい子だな。無事帰ってこれたら好きなデザートを三つ、夕飯に付けようか』
『ホントに!?』
『ああ。だけど、悪い人に捕まったりするたびにもらえるデザートが一つ減るから気を付けるんだぞ』
『ええっ!? じゃ……、じゃあ三回捕まっちゃったら……』
戦慄するような震える声でフォニアの念話が届く。デザートなしはそこまで恐ろしいことのようだ。
『そうだな。残念だけどそうなったら…………、デザートはなしだな』
深刻そうな雰囲気をたっぷりと含ませてフォニアへと告げると。
『っ!? わ、わかった。ボク、がんばるよ……!』
真剣な表情で拳を握り締める姿が浮かびそうな雰囲気の言葉が返ってきた。
「あっはっはっは!」
「ぶふぉっ! ……くっくっく」
フォニアとのやりとりを莉緒とイヴァンにも聞こえるようにしていたら、耐えられなくなったのか大爆笑だ。
「な、何がおかしい!?」
いや、うん。縋るように金くれっていうアンタも十分面白いけどね。
「心配してくれてるところ悪いが、フォニアはちゃんと帰れる子なんで余計なお世話だな」
「……はぁっ!? あんな小さい子が一人で大丈夫なわけねぇだろ! 確かに小さいペットもついてたけどよ……!」
『というわけでニルもしっかりフォニアのサポートをお願いするよ』
『わふぅ!』
念のために小さいペットにお願いすると、任せておけとばかりの返事が返ってきた。
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