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第三部

帝都の冒険者ギルド

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「ミ、ミスリルのプレート……」

 胡散臭い目で冒険者証に手を伸ばす職員さんだったが、その手がピタリと止まる。ハッとした表情から何かを思い出したのかもしれない。

「少々お待ちいただけますか」

 一言告げると俺たちの冒険者証を持って引っ込んでしまった。
 イヴァンはキョロキョロと物珍しそうにギルド内を見回しており、フォニアは鼻息を荒くして興奮気味だ。

『ここがギルドなのね……。すごい!』

 よくわからんがすごいらしい。ちょっとはニルを見習いたまえフォニアよ。ほら、今もきりっとした表情で周りの冒険者を牽制して大きなあくびを一発……。あー、うん、なんでもないです。

「お待たせしました。奥の部屋へどうぞ」

 しばらく待っているとさっきの職員さんが戻ってきて、奥へと促されたのでついていく。このパターンはギルドマスターが出てくるやつかな。

「お連れ様もどうぞ」

「あ、はい」

 そのままぞろぞろと三人と二匹が奥の部屋へと入っていく。なんかもうギルドにくると個室に入ることが増えたなぁ。
 会議室といった部屋へと入ると、それぞれ思い思いの席へと座る。フォニアも獣の姿のまま椅子に座ろうとしていたが、ニルが部屋の隅に座り込んだのを見てその隣に座る。

『座れなかった……』

『そりゃそうだろ……』

 何とも悲しそうな言葉にはそう返すしかない。今まで獣化のまま過ごす機会は少なかったのかもしれないな。

「待たせたな」

 しばらくすると頭部と頬と顎が茶色い毛で囲まれた、ずんぐりむっくりとした男が会議室に姿を現した。後ろにはさっきの女性職員もいる。

「ギルドマスターをやっているブルドリフだ。話は聞いている。あんたらがシュウとリオ……か?」

 ギルドマスターという予想は当たっていたみたいだけど、なんでイヴァンと莉緒を見て疑問形になるかね?

「柊は俺です」

「なぬっ、これは失礼を」

 三人の中じゃ俺が一番背が低いし、パッと見た目なら熊人族のイヴァンのほうが強そうに見えるのは間違いない。なんかこう、威圧感とか出しておいたほうがいいんだろうか。改めて自己紹介をすると、お互いに着席する。

「冒険者証については今手続きをしている。もう少し待っていてくれ」

「わかりました」

「残りの用事も先に済ませておこうか」

「では、こちらをお願いします」

 海皇亀の首の配達依頼完遂票を差し出す。

「うむ。確かに」

 確認すると、後ろにいる女性職員へと渡す。

「あとは……、従魔の登録じゃったか」

「はい。あっちの妖狐をお願いします」

 部屋の隅でゴロゴロしているフォニアを指し示す。ニルは大人しいけど、大きいフォニアがゴロゴロしてるとちょっと鬱陶うっとうしい。子どもか。静かにしなさい。

「なぬっ、妖狐じゃと?」

 ガタッと音を立てて立ち上がるギルドマスター。

「……あれがか?」

 指をさされて注目されたからか、フォニアが動きを止めてきょとんとしている。

「Sランク冒険者の従魔だからどれだけすごいのかと思ったが……」

 言わんとしてることはわかる。中身は子どもだしね。

「でも尻尾は五本あるわよね?」

「五尾だとっ!?」

 今度はガゴンと激しい音をたてて椅子を蹴倒すギルドマスター。

「だ、大丈夫です、ギルドマスター。きちんとテイムされています」

 慌てた様子でフォニアの状態を伝える女性職員。彼女がテイムの手続きをしてくれる人かな。鑑定できるならテイムされているかどうかわかるし、安全がすぐに確認できていいね。

「まさか……、五尾まで育った妖狐を見ることができようとは……」

「けっこうレアな魔物らしいですね」

「ああ、そうじゃな。儂も過去には四尾までしか会ったことはないが……、それでもAランクの魔物じゃ。五尾ともなればSランクじゃろう」

「へー」

 ゴクリと喉を鳴らして説明してくれるけど、だいたい予想できていたから驚きはない。ステータスを見ると物理寄りのニルと、魔法寄りのフォニアといった感じだもんな。Sランクと言われたニルと近いのであれば、フォニアもSランクだろう。

「五尾で……、Sランクの魔物……だと?」

 話を聞いたイヴァンが戦慄で声が震えている。とんでもない狐耳と一緒にいたのかと思えば恐ろしくもあるんだろうか。
 俺と莉緒、ニルとフォニアと順番に視線を向けたかと思うと、盛大に机に突っ伏して。

「もしかして、この中で最弱なのは俺なのでは……」

 どうやら違ったらしい。

「わかった……、Sランクの従魔で登録しよう。名前はどうするかね?」

『フォニアだよ!』

「フォニアで」

「うむ。承知した。従魔のタグを用意させよう。最後に、そちらの男の冒険者登録じゃったかな」

「はい。お願いします」

 言葉と共に女性職員が登録用紙をスッと差し出してくる。そのまま机に突っ伏しているイヴァンへと渡すが。

「……読めねぇし、書けない」

 ちょっと前まで奴隷だったわけだし、読み書きはできなくてもおかしくはないか。この世界、識字率低そうだもんな。

『イヴァン兄、今日はずっと情けないままだね』

『はは、しょうがないさ。可哀そうだから本人には言ってやるなよ』

『え? なんで?』

 いやいや、なんでもいいからもうやめたげて。イヴァンのライフはもうゼロなんだから。
 フォニアも読み書きできないだろ? と諭してあげると納得はしてくれた。

「じゃあ私が代筆するね」

「お願いします……」

「職業はお調べになりますか?」

「あ、わかってるので大丈夫です」

「え? マジで? ……聞いてないんだけど!?」

 親切に提案してくれた職員に断ると、イヴァンから激しいツッコミがきた。いやほんと、今日はツッコんだり突っ伏したり忙しい奴だな。

「聞かれてないからな。ちなみにはっきりと狩人と出てるぞ」

「ちょっ、えっ……、マジか……! っしゃきたーーー!」

 今度はテンション上がりまくりだな。そういえば職業が出る確率って半分以下だっけか。はっきり出るとなれば運がいいと言っていいだろう。

「はい、登録用紙は大丈夫です。確かに承りました。これでイヴァンさんもFランク冒険者です」

「ふむ。これで全て要件は終わりじゃな」

「そうですね。ありがとうございました」

「冒険者証ももうすぐだ。できたらここに持ってこさせよう。……それにしても」

 ぐるっと室内を見回すとギルドマスターがポツリと零すその言葉は。

「三人と二匹のうち、Sランクが二人と二匹の中にFランクが一人か……。なんとも面白い取り合わせじゃの」

 がっはっはと笑うギルドマスターに、職業を聞いてテンションが最高潮だったイヴァンがまたもや地に落ちるのだった。
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