上 下
183 / 398
第三部

買い取り交渉

しおりを挟む
「亀の買取ねぇ……」

 食後のお茶を飲みながら、莉緒が思案顔で呟いている。

「正直すぐにでも帰りたいと思ってたけど、さすが城の昼飯は美味かったな」

「あはは、それだけは確かね」

 海が近いだけあって魚介類をふんだんに使用した昼食だ。今まで港でしか食べてこなかったからか、漁師飯というか豪快なものが多かったように思う。

「たまにはこういうお上品な飯もいいかもしれない」

「たまにはねー。でもやっぱりちょっと緊張しちゃったかも」

「へぇ。そうは見えなかったけど……」

 思い返してみてもそんな様子はなかった気がするけど。あ、でも俺の方をちらちらとは見てたな。

「柊がフィンガーボウルの水を飲んでしまわないか心配だった」

「ぶふっ」

 いやいやいや、ちょいとお待ちなさい莉緒さんや。

「……さすがにそんな失敗はしないよ?」

 平静を装いつつも声を絞り出す。まさか莉緒に使い方を知らないってバレてると思わなかった……。莉緒より先にフィンガーボウルに手を出さなくてよかった……。まさか手を洗うだなんてな。

「さて、次は海皇亀買取の話だったっけ」

「うん。迎えが来るって言ってたからここで待ってればいいかな」

 あからさまな話題逸らしだったけど、そこまで突っ込んでこなくて安心する。
 二人で他愛のない話をしていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。姿を現したメイドに連れられて会議室へと向かう。通された会議室にはもちろん誰もいない。十人ほど座れる長机が設置されたシンプルな部屋だった。

「また長時間待たされるのかな」

 入り口手前の椅子へと腰かけると、莉緒がげんなりしている。

「あんまり待たせるようなら途中で帰ろうか」

 別にお金が欲しいわけじゃないしな。

「あはは、そうね。……あの海皇亀、私の異空間ボックスに入るかしら?」

「どうだろうなぁ。たぶん入るとは思うんだけど……。入らなかったら小さくすればいいと思うぞ」

「待たせたな」

 亀の収納方法を話し合っていると、予想外に早く会議室に人が現れた。皇帝の隣で控えていたローブ姿の人物と、奴隷を虐待する息子を持つドゲスハだ。二人ともすこぶる不機嫌そうだ。
 ローブ姿はアルカインと名乗った。どうやら帝国の宰相をやっているらしい。ドゲスハは言うまでもなく帝国軍団長だ。

「時間がないのでさっそく本題に入るが……、五十億でどうだ」

 いきなり五十億と言われても対象がわからんぞ。オークションに出した地竜は合わせて百億超えたはずだから、この五十億ってのも海皇亀全部でってことはないだろう。

「えーっと、今回私たちが持ってきた首一本につきでしょうか」

 首を傾げながら莉緒が俺の思いを代弁してくれる。それくらいなら譲ってやらんでもない金額だと思う。海皇亀でかいしね。

「「は?」」

 と思ったんだが、二人とも何言ってんだコイツみたいな顔をされてしまった。お前らこそ何言ってんだ。

「首二つと海皇亀の本体、全部に決まっておるではないか」

「えっ?」

 全部かよ。地竜より厄介で巨大な海皇亀が地竜の半分以下って。

「討伐記録のない魔物なのだ。素材が何に使えるのかもわかっておらん。さらに解体費用もバカにならんのだ。最悪使える素材がない可能性もある。それを考えれば五十億でも破格というものだ」

「海から海岸へ亀を引っ張ってくるだけでも軍船を二隻使ってようやくだ。まだ解体作業に取り掛かれてすらおらん」

 宰相のアルカインに続き、ドゲスハが苦々しく呟く。亀を殺して二日ほど経ったと思うけど、まだ海から陸に引き上げられていないのか。

「うーん……」

「ふん。SランクになったとはいえさっきまではCランクだったのだろう? Sランクともなれば報酬は跳ね上がるだろうが、五十億などという大金そうそう入ってくるものではないぞ」

 渋る俺たちを説得してくるが、金はいらないんだよなぁ。亀も倒してイヴァンとフォニアも解放できたし、そろそろこの街に留まる理由もなくなっている。いやむしろとっとと出て行きたい。

 というか――

「使えるかどうかわからない不安な素材というのであれば、俺たちが全部もらっていきますよ」

「そうですね。船で亀の体を陸まで引っ張ってきてくれたお礼と言ってはなんですが、首の一本は置いていきましょうか」

「なっ!?」

「そうしようか。倒したのは俺たちですし。あ、でも海皇亀のブレスからドゲスハ殿を一度守った分はどうしようか。……まぁそれはおまけしておいておきましょうか」

「くっ……」

 顔色の悪くなってきている二人を差し置いて、心の奥から湧いてくる言葉をそのままぶつけていく。

「だいたいお礼と言って呼び出した挙句、こちらの希望を聞かずにいらないものを押し付けるって何なんですかね」

「表向きそちらから協力要請してきたくせに、手を出すなとか言われましたし」

 そういえばそうだった。莉緒に言われて思い出したけど、だんだん腹立ってきたな。

「あ、それと。奴隷虐待の罪でメロウ・ラグローイはきちんと捕まえておいてくださいね」

「ぐぬっ……、息子からきちんと話は聞いておく……」

 ついでだし、額に血管を浮かべる父親にきちんと状況を説明しておいてやるか。皇帝の前で証言したんだ、さすがにもみ消されることはないと信じたい。

「殴る蹴るの暴行を加えた挙句、レイピアで刺されたと本人は言ってましたのでね」

「なん、だと……。あのバカ息子が……!」

「そういうわけなので、こちらも忙しいので失礼します」

 勢いよくまくし立てるとそのまま席を立つ。

「ま、待て!」

 待てと言われて待つ奴がいますかっての。
 後ろから投げかけられる言葉を無視して、俺たちは会議室を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜

KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。 クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。 山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。 魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。 山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。 しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。 友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

本条蒼依
ファンタジー
主人公 山道賢治(やまみちけんじ)の通う学校で虐めが横行 そのいじめを止めようと口を出した瞬間反対に殴られ、後頭部を打ち 死亡。そして地球の女神に呼ばれもう一つの地球(ガイアース)剣と魔法の世界 異世界転移し異世界で自由に楽しく生きる物語。 ゆっくり楽しんで書いていけるといいなあとおもっています。 更新はとりあえず毎日PM8時で月曜日に時々休暇とさせてもおうと思っています。 星マークがついている話はエッチな話になっているので苦手な方は注意してくださいね。

処理中です...