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第三部
謁見
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予想通りというかかなり待たされている。そろそろ一時間がたつんじゃなかろうか。忙しいのはわかるが、ここまで待たせるくらいなら後日ってことにできなかったんだろうか。
それに壁を挟んだ隣の部屋からの監視もいただけない。最初は隣にも人がいるのかと気にしてなかったけど、よく気配を感じてみればこの部屋に近い壁際から動こうとしなかったのだ。のぞき穴もあるし間違いないだろう。
とまぁ文句を言ったところで待ち時間が短くなるわけでもない。そろそろ帰っていいですかとメイドさんに聞いてみるか、監視用のぞき穴から覗き返してやろうかと本気で考え始めた頃、部屋の扉がノックされる音が響いた。
「どうぞ」
間髪を入れずに言葉を返すと、「失礼する」と副団長が部屋に入ってきた。
「待たせて済まないね。ようやく陛下の準備が整ったよ」
お詫びの言葉が出るところがもう、傲慢なラグローイ侯爵家と違っていい人さがにじみ出てる気がする。最悪な貴族を見た直後だから余計にそう感じるだけかもしれないけど。
「では行こうか」
「はい」
もうちょっと遅かったら帰るところでした。と言う言葉を飲み込んで、素直についていく。すでにかなり奥に来ていたようで、目的地はすぐ近くだった。
ひと際豪華な鎧を纏った騎士が大きな扉を守るように両脇に控えている。副団長と守衛の騎士が頷き合うと、扉を開けるべく後ろを向く。
「冒険者のシュウ殿とリオ殿、ご到着!」
よく通る声で告げると、ゆっくりと扉を開いていく。
「最初の段差手前で立ち止まって跪くのだ」
扉が開き切る前に副団長がボソリと俺たちに作法らしきものを教えてくれる。ってかそんな直前で言われてもうまくできる気がしないんですけど……。跪いた後どうすんのさ。
開いていく扉を見ていると、そんな質問をする空気なわけもなく。副団長から中に入るように促されたので、先頭を切って扉の中へ入っていく。
真っ先に目に入ったのは、真正面にいる立派な玉座に座った人物だ。どっしり構えた風格のある姿は、さすが皇帝といったところか。その両隣後方には鎧姿の騎士と、ローブ姿の魔法使いらしき人物が控えている。そして入り口の扉から玉座へと続く左右には、着飾った貴族と思しき人たちがずらりと並んでいる。
うん、間違いなく謁見の間ってやつだな。
キョロキョロすると田舎者みたいに見えるので、真正面を見据えてまっすぐに歩いて行く。手前の段差までくると、跪いて首を垂れる。
さてさて、アークライト王国の王族はクソだったけど、グローセンハング帝国はどうだろうな。それほど期待してるわけでもないけどね。
「面を上げよ」
言われたとおりに顔を上げると、先ほどよりは間近に皇帝の姿が目に入ってくる。細身ではあるが程よく筋肉のついた均整の取れた体型をしている。口元に生える髭は白くなっていて、そこそこの年齢なのかもしれない。
「直答を許す。あの海皇亀を討伐するとは、大儀であった。帝国を救ってくれたことに感謝する」
直答ね。直接答えていいってことなんだろうが、こういうときに返す言葉はこれしかないか。
「は、勿体なきお言葉」
満足そうに皇帝は頷くと、髭をしごきながら「ふむ……」と溜めを作る。
「港街レブロスを救ってくれたそなたには、褒美を取らせねばなるまいな」
ほう? お礼の言葉だけだと思ってたけど、いきなり褒美の話に持っていきますか。正直これといって欲しい物は思い浮かばないんだけどな。
「……よし、ではそなたには我が帝国の男爵位を与えよう」
考え込んでから思いついたかのように宣う皇帝。
男爵ね。
芋なら美味いんだろうが、あんたの言う男爵は美味いんだろうか。
「……どうした? 黙っていればわからぬぞ?」
回答を促してくるが、説明もなしというのはちょっと性急すぎやしないだろうか。
「男爵位とはどういったものでしょうか。各地を旅してはおりますが、そういった制度には疎いもので」
「ははっ、それはそうだな。アルカイン、説明してやれ」
「承知しました」
皇帝の後方に控えていたローブ姿の人物が一歩前に出てくる。白髪交じりの青い髪をした知的な人物だ。俺たちを冷めた目で見下ろすと、皇帝に気付かれないように小さくため息を漏らす。
「平民にもわかりやすく言うと、男爵位を賜るということは帝国に仕える貴族になれるということである」
話を聞けば、以前リンフォードが零していた話と同じだった。正確にいうとただの男爵ではなく名誉男爵らしい。それでも帝都に屋敷を賜ることができ、毎年年金が入ってくるとのことだ。他にもどういったことにメリットがあるかを偉そうに告げられた。
「以上だ。わかったな?」
「……なんとなくわかりました」
帝国に縛り付ける気満々だな。でも一応念のため確認はしておこうか。こんなに大勢の偉い人に囲まれて威圧感のある雰囲気ではあるが、しっかり聞いておかねば。あとで『知りませんでした』は通じない。
「デメリットはありますか? 俺たちは各国を旅しているんですが、帝国を出れば帰ってくるかわからないので」
気になったことを聞いただけなんだが、俺の一言でローブ姿をした偉い人の表情が固まる。
「……は? ……何を言っている。まさか断る気ではあるまいな。不敬であるぞ?」
あるぇ? 帰って来ないかもと言っただけなのに、一足飛びでなんか一気に不穏な空気になったぞ?
それに壁を挟んだ隣の部屋からの監視もいただけない。最初は隣にも人がいるのかと気にしてなかったけど、よく気配を感じてみればこの部屋に近い壁際から動こうとしなかったのだ。のぞき穴もあるし間違いないだろう。
とまぁ文句を言ったところで待ち時間が短くなるわけでもない。そろそろ帰っていいですかとメイドさんに聞いてみるか、監視用のぞき穴から覗き返してやろうかと本気で考え始めた頃、部屋の扉がノックされる音が響いた。
「どうぞ」
間髪を入れずに言葉を返すと、「失礼する」と副団長が部屋に入ってきた。
「待たせて済まないね。ようやく陛下の準備が整ったよ」
お詫びの言葉が出るところがもう、傲慢なラグローイ侯爵家と違っていい人さがにじみ出てる気がする。最悪な貴族を見た直後だから余計にそう感じるだけかもしれないけど。
「では行こうか」
「はい」
もうちょっと遅かったら帰るところでした。と言う言葉を飲み込んで、素直についていく。すでにかなり奥に来ていたようで、目的地はすぐ近くだった。
ひと際豪華な鎧を纏った騎士が大きな扉を守るように両脇に控えている。副団長と守衛の騎士が頷き合うと、扉を開けるべく後ろを向く。
「冒険者のシュウ殿とリオ殿、ご到着!」
よく通る声で告げると、ゆっくりと扉を開いていく。
「最初の段差手前で立ち止まって跪くのだ」
扉が開き切る前に副団長がボソリと俺たちに作法らしきものを教えてくれる。ってかそんな直前で言われてもうまくできる気がしないんですけど……。跪いた後どうすんのさ。
開いていく扉を見ていると、そんな質問をする空気なわけもなく。副団長から中に入るように促されたので、先頭を切って扉の中へ入っていく。
真っ先に目に入ったのは、真正面にいる立派な玉座に座った人物だ。どっしり構えた風格のある姿は、さすが皇帝といったところか。その両隣後方には鎧姿の騎士と、ローブ姿の魔法使いらしき人物が控えている。そして入り口の扉から玉座へと続く左右には、着飾った貴族と思しき人たちがずらりと並んでいる。
うん、間違いなく謁見の間ってやつだな。
キョロキョロすると田舎者みたいに見えるので、真正面を見据えてまっすぐに歩いて行く。手前の段差までくると、跪いて首を垂れる。
さてさて、アークライト王国の王族はクソだったけど、グローセンハング帝国はどうだろうな。それほど期待してるわけでもないけどね。
「面を上げよ」
言われたとおりに顔を上げると、先ほどよりは間近に皇帝の姿が目に入ってくる。細身ではあるが程よく筋肉のついた均整の取れた体型をしている。口元に生える髭は白くなっていて、そこそこの年齢なのかもしれない。
「直答を許す。あの海皇亀を討伐するとは、大儀であった。帝国を救ってくれたことに感謝する」
直答ね。直接答えていいってことなんだろうが、こういうときに返す言葉はこれしかないか。
「は、勿体なきお言葉」
満足そうに皇帝は頷くと、髭をしごきながら「ふむ……」と溜めを作る。
「港街レブロスを救ってくれたそなたには、褒美を取らせねばなるまいな」
ほう? お礼の言葉だけだと思ってたけど、いきなり褒美の話に持っていきますか。正直これといって欲しい物は思い浮かばないんだけどな。
「……よし、ではそなたには我が帝国の男爵位を与えよう」
考え込んでから思いついたかのように宣う皇帝。
男爵ね。
芋なら美味いんだろうが、あんたの言う男爵は美味いんだろうか。
「……どうした? 黙っていればわからぬぞ?」
回答を促してくるが、説明もなしというのはちょっと性急すぎやしないだろうか。
「男爵位とはどういったものでしょうか。各地を旅してはおりますが、そういった制度には疎いもので」
「ははっ、それはそうだな。アルカイン、説明してやれ」
「承知しました」
皇帝の後方に控えていたローブ姿の人物が一歩前に出てくる。白髪交じりの青い髪をした知的な人物だ。俺たちを冷めた目で見下ろすと、皇帝に気付かれないように小さくため息を漏らす。
「平民にもわかりやすく言うと、男爵位を賜るということは帝国に仕える貴族になれるということである」
話を聞けば、以前リンフォードが零していた話と同じだった。正確にいうとただの男爵ではなく名誉男爵らしい。それでも帝都に屋敷を賜ることができ、毎年年金が入ってくるとのことだ。他にもどういったことにメリットがあるかを偉そうに告げられた。
「以上だ。わかったな?」
「……なんとなくわかりました」
帝国に縛り付ける気満々だな。でも一応念のため確認はしておこうか。こんなに大勢の偉い人に囲まれて威圧感のある雰囲気ではあるが、しっかり聞いておかねば。あとで『知りませんでした』は通じない。
「デメリットはありますか? 俺たちは各国を旅しているんですが、帝国を出れば帰ってくるかわからないので」
気になったことを聞いただけなんだが、俺の一言でローブ姿をした偉い人の表情が固まる。
「……は? ……何を言っている。まさか断る気ではあるまいな。不敬であるぞ?」
あるぇ? 帰って来ないかもと言っただけなのに、一足飛びでなんか一気に不穏な空気になったぞ?
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