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第三部

街を脱出しよう

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「仮に街の外に隠れ家があったとしてだ。どうやって街の外に出るんだ。帝都から逃げて港街に来たときは普通に入れたけど、捕縛依頼が出た今じゃ門でチェックされてるだろ」

「門を通らずに外に出られればいいのか?」

 逃亡奴隷の捕縛依頼が出た以上、普通に門を通って街は出られないか。なら通らなければいいってことだよな。

「それが簡単に出来たらいいけどな」

 なんとなくイヴァンが不機嫌そうだがどうしたんだ。家なんてすぐ建てられるし、ましてや街からこっそり出て行くなんて簡単だろうに。

「空から壁を越えればいけるけど、見つかっちゃうかな?」

 莉緒が一つ問題点を挙げるが、可能性としてはゼロではない。空を見上げでもしない限り見つからないとは思うけど、念には念を入れておくか。

「じゃあこういう時こその空間魔法だな」

「そうね。テレポートでいきましょう」

「……えっ?」

 会話の合間で変化するイヴァンの表情が面白い。

「じゃあさっそく座標を覚えに街の外に行ってくる」

「わかったわ。私はここを守っておくから」

「どうせならここに戻ってくるからよろしく」

「わふぅ!」

「お、ニルも来るか。じゃあ一緒に行こう」

 練習してせっかく使えるようになったテレポートだ。こういう時に活用しないとね。
 現在地であるボロ倉庫の座標を空間魔法で記憶すると、さっそく街の外へと向かう。大通りを抜けて街の門を通り抜ける。出るときは特に門番に何を言われるでもなく素通りだった。
 帝都へと向かう街道をしばらく行くと、東側に木々が生い茂った森が見えてくる。街から近い森だし、多少人の出入りがあるかもしれないな。気配察知の範囲を森へと広げると、ちらほらと人の反応もあった。何かの依頼を受けた冒険者かもしれない。

 多少奥に行くしかなさそうだ。見つかったら厄介なことになりそうだし。
 ある程度街道から見えないところまで森に入ると、またもや座標を空間魔法で記憶する。

「家を作る場所はあとで考えればいいだろ。……莉緒たちを迎えに戻るけどニルはどうする?」

「わふぅ」

 聞いてみると一声鳴いて樹の上へと登り始める。どうやら森林浴をして待っているようだ。

「はは、大人しくして待ってるんだぞ」

「わふっ!」

 ニルがソロでいるところを見つかったとしても、きっちりと従魔のタグがついてるから大丈夫だろ。
 街の中で記憶した座標を意識しながらテレポートを発動する。ふと視界がブラックアウトしたかと思うと、一瞬後には見慣れた莉緒の姿が目に入った。

「うおっ!」

「ほえー!」

 イヴァンはその場でしりもちをつき、フォニアが耳をピコピコさせて変な声を上げている。

「おかえりなさい」

「ただいま」

「あら、ニルは?」

「ああ、あいつなら森林浴してる。ここんとこずっと海だったから、森が恋しかったのかもな」

「あはは」

「ほ……、ホントに、使えるのか……」

「だから言ったでしょ。テレポートで街の外に連れて行くって」

「いやだって、空間魔法って……、伝説の魔法じゃねぇか!」

「そんなすごいもんでもないだろ?」

 絶賛するイヴァンに肩をすくめる。伝説なんて大げさじゃねぇの。どこかの王女だって使える魔法のはずだし、使える人間は他にもいると思うけどな。

「他に使える人もいるでしょ?」

 莉緒も同じことを思ったのか、イヴァンに尋ねている。

「聞いたことねぇよ! まぁ、魔法に疎い俺だけどさ、さすがに空間魔法のレア具合は知ってるさ」

「へえ、そうなんだ」

「他人事だな!」

「だってなぁ……」

「そうよねぇ」

 莉緒と顔を見合わせて肩をすくめる。

「自分が使える魔法が、他人が使えるかどうかなんてあんまり興味がないし」

「師匠も空間魔法は使えたし、そこまで珍しい魔法っていう認識がないわよね」

「そ、そうか……」

 急に優しい目つきになると、ポンポンとフォニアの頭を撫でる。もしかすると現実逃避をしているのかもしれない。
 異空間ボックスも空間魔法だけど、そういえば師匠以外に使える人って見たことないかも。やっぱり珍しいのかもしれない。

「じゃあさっそく行きましょうか。何か一緒に持っていくものはあるかしら?」

 部屋を見回すが、ボロボロになっている着替えが数着と、布団代わりに使っているのか穴の開いた毛皮があるだけだ。

「着替えと毛皮くらいしかないが……」

「ボクもこれだけ」

 二人とも片手で持てるくらいの荷物を抱えると準備完了だ。
 うーむ、もうちょっとマシな服くらい後で用意してあげよう。イヴァンはついででいいかな。

「じゃあ俺と手をつないでくれるかな。魔力で覆った相手や物がテレポートさせる対象になるから」

「あ、あぁ、わかった」

「はーい」

 恐る恐る俺の手を握るイヴァン。フォニアはどこかワクワクした表情で俺の手を握っている。莉緒は俺の背中から抱き着いてきた。
 視界をテレポート先の座標へと飛ばすと、周囲に人がいないか確認する。うん、問題なさそうだ。

「行くぞー。『テレポート』」

 コマンドワードの発言と同時にテレポートが発動する。一瞬後にはもう森の中だ。さっきまで感じていた潮の香りが、自然豊かな森の香りへと変化する。

「す、すげぇ……」

「ふわぁー」

「じゃあ隠れて野営できそうな場所を探すか」

 樹の上から降りてきたニルと合流すると、呆ける二人を促して野営地を探しに歩き出した。
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