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第三部
甲羅の耐久性
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「あの移動速度だと、街につくまでまだ一週間以上はかかりそうだよな」
海皇亀が発見されてから港街レブロスの様相も慌ただしさを増してきていた。まだ海皇亀だと公表はされていないが、街中は海上沖に見える島影で噂は持ち切りだ。
「今日はカントさんたちが調査に出るんだっけ」
「そうみたいだな。まだ公になってないから漁は禁止されてなさそうだけど」
翌日は港まで様子を見に来ていた。まだここからは亀の影は見えない。ある程度の高台に登らないとダメなようだ。
「地竜のときも大変だったけど、あれは絶対に地竜以上じゃないかしら」
「だよなぁ。感じた気配は地竜以上だったし」
「首を落としても動いてそうな予感がするんだけど」
「ははっ、生えてきて復活しそうだよな」
冗談交じりに口に出してみるけどここは異世界だ。そんな魔物がいても不思議じゃない。……あれ、なんだかマジで首落としても生えてきそうな気がしてきたぞ。
「生えてくる前提にしておいたほうがいいかもね」
「そうだな……。最悪を想定しておくのは大事だ。たぶん、きっと」
「あの甲羅に効きそうなものって何だろうね」
海を眺めながら考え事をしていた莉緒がふと顔を上げる。
「物理はダメな気がするから、やっぱり魔法だろうけど……。それでも顔とか甲羅以外を狙ったほうがいいと思うんだよな」
「うん。でも甲羅に効果があるなら、陸に上がってきて顔を出すのを待つ必要もないんじゃないかなと思って」
「おぉ、なるほど。――ってそうか、実際に試してみればいいんだよな」
昨日ギルドマスターから聞いた話を思い出す。確か全力で攻撃しても進路を変えずにそのまま去っていったって話だよな。
「なら多少攻撃しても気づかないだろ」
「あはは、試し打ちし放題だね」
「それにだ」
「うん?」
かつてプレイしたことのあるゲームを思い出す。そう、そこにはいろんなスキルがあったものである。
「もしかすると、防御無視な攻撃スキルとかあるかもしれないしな」
「おおー」
中には防御が高ければ高いほど与えるダメージが大きくなるスキルや武器があるゲームなんてものもあったはずだ。今からそんな武器を探している時間はないが、スキルは試してみる価値はあるはずだ。
「じゃあ魔法にもあるかな?」
「あぁ、あるかもしれないな。中には物理攻撃属性の魔法とかもあったし」
いろいろゲームを思い返してみれば、そんな魔法もあった気がする。結局なんでもありなのだ。思いついたものは全部試してみればいい。
「へぇ。いろいろあるのね。この世界の魔法もいろいろあるし、実験しまくりましょ」
こうして俺たちは再び海皇亀の元へと向かうこととなった。
第二調査部隊であるカントたちを乗せた船を追い越し、海皇亀の背中へと降り立つ。できるだけ平坦な場所で、街から遠い個所だ。万が一反撃が来たとしても、街に被害がいかないようにしたい。
「さてと」
ガントレットを両腕に装着して拳を打ち鳴らす。
「準備はできたわ」
莉緒も杖を取り出すと、先端で地面をコツコツと叩く。
「まずは甲羅に積もってる余計なものを吹き飛ばすか」
「まかせて」
莉緒が杖を構えると広範囲魔法を前方に放つ。選ばれた魔法はファイアサンドストームか。火炎であらゆるものを焼き尽くし、砂粒であらゆる物質を削り取る。嵐が過ぎ去ったそこには、甲羅特有のゴツゴツした表面が姿を現した。
「ふむ……。やっぱりというか、傷はついてないな」
「そこまで魔力は籠めてないもの」
「これで傷がついたりしたら楽だったのに」
「あはは、そこまで簡単な相手でもないでしょ」
「よし。まずは物理からいくか」
「がんばれー」
莉緒の声援を受けて数歩前に出ると両腕を腰に添えて構える。左手に装着した火と土属性の紅竜のガントレットに魔力を込める。ある程度まで魔力を込めると、真下へと正拳突きの要領で拳を振り下ろした。
激しい爆発音と共に、粉塵が巻き上がる。
しばらくして粉塵が収まると、拳を打ち付けた場所を中心にして、半径五メートルくらいの範囲で甲羅にヒビが入っていた。
「ヒビだけか」
足元の甲羅をめくりあげてみるが、表面だけヒビが入って割れただけで、その下の層にはまったく影響がなさそうだ。
「割れた部分も結構分厚いと思うけど、亀のサイズを考えるとホントに表面の薄皮だけって感じみたいね」
「むしろ垢が取れてすっきりしました。ありがとうございますってか」
「次は私の番ね」
「おう」
ヒビを入れた場所から後退すると、同じ場所へと莉緒の魔法が放たれる。
最初は超高熱の魔法か。障壁を張って防御していると、次にひんやりと冷気が漂ってきた。急激な温度差でどうなるかだな。
凍てついた甲羅の表面を、またもや火魔法で常温に戻していく。
「うーん……、これは……」
「あんまり効いてないみたいね」
ヒビを入れた表面の甲羅だけ、ボロボロと崩れているように見えるが、相変わらず下の層に影響は出ていなさそうだ。鑑定してみたけどHPは減っていない。
「まぁ、いろいろ試してみましょう」
「そうだな。時間はまだあるし。……ニルも思いっきりやっていいぞ」
「わふう!!」
俺の言葉で小さかったニルが元のサイズへと戻り、楽しそうに亀の甲羅へとじゃれつき始めた。
「……あんまり目立たないようにな」
付け加えた言葉が届いているかはわからなかったけど。
海皇亀が発見されてから港街レブロスの様相も慌ただしさを増してきていた。まだ海皇亀だと公表はされていないが、街中は海上沖に見える島影で噂は持ち切りだ。
「今日はカントさんたちが調査に出るんだっけ」
「そうみたいだな。まだ公になってないから漁は禁止されてなさそうだけど」
翌日は港まで様子を見に来ていた。まだここからは亀の影は見えない。ある程度の高台に登らないとダメなようだ。
「地竜のときも大変だったけど、あれは絶対に地竜以上じゃないかしら」
「だよなぁ。感じた気配は地竜以上だったし」
「首を落としても動いてそうな予感がするんだけど」
「ははっ、生えてきて復活しそうだよな」
冗談交じりに口に出してみるけどここは異世界だ。そんな魔物がいても不思議じゃない。……あれ、なんだかマジで首落としても生えてきそうな気がしてきたぞ。
「生えてくる前提にしておいたほうがいいかもね」
「そうだな……。最悪を想定しておくのは大事だ。たぶん、きっと」
「あの甲羅に効きそうなものって何だろうね」
海を眺めながら考え事をしていた莉緒がふと顔を上げる。
「物理はダメな気がするから、やっぱり魔法だろうけど……。それでも顔とか甲羅以外を狙ったほうがいいと思うんだよな」
「うん。でも甲羅に効果があるなら、陸に上がってきて顔を出すのを待つ必要もないんじゃないかなと思って」
「おぉ、なるほど。――ってそうか、実際に試してみればいいんだよな」
昨日ギルドマスターから聞いた話を思い出す。確か全力で攻撃しても進路を変えずにそのまま去っていったって話だよな。
「なら多少攻撃しても気づかないだろ」
「あはは、試し打ちし放題だね」
「それにだ」
「うん?」
かつてプレイしたことのあるゲームを思い出す。そう、そこにはいろんなスキルがあったものである。
「もしかすると、防御無視な攻撃スキルとかあるかもしれないしな」
「おおー」
中には防御が高ければ高いほど与えるダメージが大きくなるスキルや武器があるゲームなんてものもあったはずだ。今からそんな武器を探している時間はないが、スキルは試してみる価値はあるはずだ。
「じゃあ魔法にもあるかな?」
「あぁ、あるかもしれないな。中には物理攻撃属性の魔法とかもあったし」
いろいろゲームを思い返してみれば、そんな魔法もあった気がする。結局なんでもありなのだ。思いついたものは全部試してみればいい。
「へぇ。いろいろあるのね。この世界の魔法もいろいろあるし、実験しまくりましょ」
こうして俺たちは再び海皇亀の元へと向かうこととなった。
第二調査部隊であるカントたちを乗せた船を追い越し、海皇亀の背中へと降り立つ。できるだけ平坦な場所で、街から遠い個所だ。万が一反撃が来たとしても、街に被害がいかないようにしたい。
「さてと」
ガントレットを両腕に装着して拳を打ち鳴らす。
「準備はできたわ」
莉緒も杖を取り出すと、先端で地面をコツコツと叩く。
「まずは甲羅に積もってる余計なものを吹き飛ばすか」
「まかせて」
莉緒が杖を構えると広範囲魔法を前方に放つ。選ばれた魔法はファイアサンドストームか。火炎であらゆるものを焼き尽くし、砂粒であらゆる物質を削り取る。嵐が過ぎ去ったそこには、甲羅特有のゴツゴツした表面が姿を現した。
「ふむ……。やっぱりというか、傷はついてないな」
「そこまで魔力は籠めてないもの」
「これで傷がついたりしたら楽だったのに」
「あはは、そこまで簡単な相手でもないでしょ」
「よし。まずは物理からいくか」
「がんばれー」
莉緒の声援を受けて数歩前に出ると両腕を腰に添えて構える。左手に装着した火と土属性の紅竜のガントレットに魔力を込める。ある程度まで魔力を込めると、真下へと正拳突きの要領で拳を振り下ろした。
激しい爆発音と共に、粉塵が巻き上がる。
しばらくして粉塵が収まると、拳を打ち付けた場所を中心にして、半径五メートルくらいの範囲で甲羅にヒビが入っていた。
「ヒビだけか」
足元の甲羅をめくりあげてみるが、表面だけヒビが入って割れただけで、その下の層にはまったく影響がなさそうだ。
「割れた部分も結構分厚いと思うけど、亀のサイズを考えるとホントに表面の薄皮だけって感じみたいね」
「むしろ垢が取れてすっきりしました。ありがとうございますってか」
「次は私の番ね」
「おう」
ヒビを入れた場所から後退すると、同じ場所へと莉緒の魔法が放たれる。
最初は超高熱の魔法か。障壁を張って防御していると、次にひんやりと冷気が漂ってきた。急激な温度差でどうなるかだな。
凍てついた甲羅の表面を、またもや火魔法で常温に戻していく。
「うーん……、これは……」
「あんまり効いてないみたいね」
ヒビを入れた表面の甲羅だけ、ボロボロと崩れているように見えるが、相変わらず下の層に影響は出ていなさそうだ。鑑定してみたけどHPは減っていない。
「まぁ、いろいろ試してみましょう」
「そうだな。時間はまだあるし。……ニルも思いっきりやっていいぞ」
「わふう!!」
俺の言葉で小さかったニルが元のサイズへと戻り、楽しそうに亀の甲羅へとじゃれつき始めた。
「……あんまり目立たないようにな」
付け加えた言葉が届いているかはわからなかったけど。
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