上 下
152 / 398
第三部

甲羅の耐久性

しおりを挟む
「あの移動速度だと、街につくまでまだ一週間以上はかかりそうだよな」

 海皇亀かいおうきが発見されてから港街レブロスの様相も慌ただしさを増してきていた。まだ海皇亀かいおうきだと公表はされていないが、街中は海上沖に見える島影で噂は持ち切りだ。

「今日はカントさんたちが調査に出るんだっけ」

「そうみたいだな。まだ公になってないから漁は禁止されてなさそうだけど」

 翌日は港まで様子を見に来ていた。まだここからは亀の影は見えない。ある程度の高台に登らないとダメなようだ。

「地竜のときも大変だったけど、あれは絶対に地竜以上じゃないかしら」

「だよなぁ。感じた気配は地竜以上だったし」

「首を落としても動いてそうな予感がするんだけど」

「ははっ、生えてきて復活しそうだよな」

 冗談交じりに口に出してみるけどここは異世界だ。そんな魔物がいても不思議じゃない。……あれ、なんだかマジで首落としても生えてきそうな気がしてきたぞ。

「生えてくる前提にしておいたほうがいいかもね」

「そうだな……。最悪を想定しておくのは大事だ。たぶん、きっと」

「あの甲羅に効きそうなものって何だろうね」

 海を眺めながら考え事をしていた莉緒がふと顔を上げる。

「物理はダメな気がするから、やっぱり魔法だろうけど……。それでも顔とか甲羅以外を狙ったほうがいいと思うんだよな」

「うん。でも甲羅に効果があるなら、陸に上がってきて顔を出すのを待つ必要もないんじゃないかなと思って」

「おぉ、なるほど。――ってそうか、実際に試してみればいいんだよな」

 昨日ギルドマスターから聞いた話を思い出す。確か全力で攻撃しても進路を変えずにそのまま去っていったって話だよな。

「なら多少攻撃しても気づかないだろ」

「あはは、試し打ちし放題だね」

「それにだ」

「うん?」

 かつてプレイしたことのあるゲームを思い出す。そう、そこにはいろんなスキルがあったものである。

「もしかすると、防御無視な攻撃スキルとかあるかもしれないしな」

「おおー」

 中には防御が高ければ高いほど与えるダメージが大きくなるスキルや武器があるゲームなんてものもあったはずだ。今からそんな武器を探している時間はないが、スキルは試してみる価値はあるはずだ。

「じゃあ魔法にもあるかな?」

「あぁ、あるかもしれないな。中には物理攻撃属性の魔法とかもあったし」

 いろいろゲームを思い返してみれば、そんな魔法もあった気がする。結局なんでもありなのだ。思いついたものは全部試してみればいい。

「へぇ。いろいろあるのね。この世界の魔法もいろいろあるし、実験しまくりましょ」

 こうして俺たちは再び海皇亀かいおうきの元へと向かうこととなった。



 第二調査部隊であるカントたちを乗せた船を追い越し、海皇亀の背中へと降り立つ。できるだけ平坦な場所で、街から遠い個所だ。万が一反撃が来たとしても、街に被害がいかないようにしたい。

「さてと」

 ガントレットを両腕に装着して拳を打ち鳴らす。

「準備はできたわ」

 莉緒も杖を取り出すと、先端で地面をコツコツと叩く。

「まずは甲羅に積もってる余計なものを吹き飛ばすか」

「まかせて」

 莉緒が杖を構えると広範囲魔法を前方に放つ。選ばれた魔法はファイアサンドストームか。火炎であらゆるものを焼き尽くし、砂粒であらゆる物質を削り取る。嵐が過ぎ去ったそこには、甲羅特有のゴツゴツした表面が姿を現した。

「ふむ……。やっぱりというか、傷はついてないな」

「そこまで魔力は籠めてないもの」

「これで傷がついたりしたら楽だったのに」

「あはは、そこまで簡単な相手でもないでしょ」

「よし。まずは物理からいくか」

「がんばれー」

 莉緒の声援を受けて数歩前に出ると両腕を腰に添えて構える。左手に装着した火と土属性の紅竜のガントレットに魔力を込める。ある程度まで魔力を込めると、真下へと正拳突きの要領で拳を振り下ろした。

 激しい爆発音と共に、粉塵が巻き上がる。
 しばらくして粉塵が収まると、拳を打ち付けた場所を中心にして、半径五メートルくらいの範囲で甲羅にヒビが入っていた。

「ヒビだけか」

 足元の甲羅をめくりあげてみるが、表面だけヒビが入って割れただけで、その下の層にはまったく影響がなさそうだ。

「割れた部分も結構分厚いと思うけど、亀のサイズを考えるとホントに表面の薄皮だけって感じみたいね」

「むしろ垢が取れてすっきりしました。ありがとうございますってか」

「次は私の番ね」

「おう」

 ヒビを入れた場所から後退すると、同じ場所へと莉緒の魔法が放たれる。
 最初は超高熱の魔法か。障壁を張って防御していると、次にひんやりと冷気が漂ってきた。急激な温度差でどうなるかだな。
 凍てついた甲羅の表面を、またもや火魔法で常温に戻していく。

「うーん……、これは……」

「あんまり効いてないみたいね」

 ヒビを入れた表面の甲羅だけ、ボロボロと崩れているように見えるが、相変わらず下の層に影響は出ていなさそうだ。鑑定してみたけどHPは減っていない。

「まぁ、いろいろ試してみましょう」

「そうだな。時間はまだあるし。……ニルも思いっきりやっていいぞ」

「わふう!!」

 俺の言葉で小さかったニルが元のサイズへと戻り、楽しそうに亀の甲羅へとじゃれつき始めた。

「……あんまり目立たないようにな」

 付け加えた言葉が届いているかはわからなかったけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転生美女は元おばあちゃん!同じ世界に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!

ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。 私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。 そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。 早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯ 私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。 『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』 そのために私は⋯ 『地上に降りて冒険者になる!』 これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯ ☆。.:*・゜☆。.:*・゜ こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』のスピンオフとなります。おばあちゃんこと凛さんが主人公! が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。 また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。 こちらも、よろしくお願いします。 *8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

処理中です...