上 下
126 / 398
第二部

結婚の儀

しおりを挟む
 そして迎えた今日。莉緒との結婚式である。
 金糸と銀糸の装飾のついた濃青の上着に真っ白いパンツスタイルの礼服を着た俺と、オフショルダーのレース編みがところどころに施された純白のワンピースドレスに身を包んだ莉緒が、神殿への道を歩いている。

「ちょっとだけ恥ずかしいな……」

 宿のオーナーに聞いたところ、結婚の儀にはみんな着替えてから神殿に向かうということだった。どうも更衣室といったものは神殿にないらしい。

「えへへ……、でもちょっと嬉しいかも」

 俺の腕を取って歩く莉緒は、俺へと嬉しそうに笑いかけてくる。
 こうして神殿への道を歩いているだけでも、そこら辺の通行人から「おめでとう」やら「お熱いねぇ」などと祝福や揶揄いの言葉が飛んでくる。悪意のない言葉を聞くと、この世界の人間すべてが悪いものでもないと実感ができる。

「そうだな。異世界に来なけりゃ莉緒とこうして二人でいられなかったことを考えると、悪いことばっかりじゃなかったな」

「うん」

 異世界に召喚されるまではまったく接点のなかった俺たちだ。一応はクラスメイトだったけど、しゃべった記憶はほとんどない。

「よう来たの」

 注目を浴びながら神殿へと到着すると、以前神殿で対応してくれた神官服姿の婆さんに出迎えられた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「ひっひっひ、そんなに畏まらんでもええわい。今すぐ始められるが、誰か招待してる人物などいるかね?」

「あ、はい。もう来てると思うので大丈夫です」

 神殿へ向かう途中でラシアーユ商会へ寄ったが、フルールさんは先に神殿へ向かったと教えられたので問題ない。

「ほうほう。では始めるとするかの。お前さんはここで見ているといい」

 後半は従魔のニルへの言葉だ。言われたニルは大人しく座り込むとクワッと大きく欠伸をする。

「しばらくすると鐘が鳴るのでな。それを合図に真正面からゆっくりと祭壇に向かって歩いていくのじゃ」

「わかりました」

 その他手順や注意事項などを聞いていると、『ガランガラン』と屋根の上から鐘の音が響き渡ってきた。
 合図もなく唐突な鐘の音に緊張が高まっていく。いやある意味この鐘の音が合図なのか。

 隣にいる莉緒へと視線を向けると、二人そろって頷き合う。莉緒が俺の腕を取るのを確認すると、真正面にある祭壇の女神さまを視界の中心に据え、ゆっくりと歩き出した。
 後ろからはバタバタと神殿に入ってくる人たちの気配も感じられるが、厳かな雰囲気の中振り返るわけにもいかない。
 ニルの一声が後ろから聞こえたけど、きっとニルも祝福してくれているに違いない。

 真正面にある女神像の後ろに窓があるせいか、後光が射しているような、女神像が光っているような錯覚に襲われる。
 思わず目を細めていると、女神像手前の祭壇にさっきまであれこれ説明をしてくれていた婆さんが姿を現した。ちょっとだけ豪華なローブを羽織っているが、雰囲気を読んでかその表情は真面目そのものだ。

 ゆっくりと祭壇手前までくると、片膝をついて跪く。婆さんが頷くのを見て取ると、莉緒と二人そろって両手を合わせて目を瞑る。
 婆さんがゆっくりと女神像へと振り返る気配を感じた後、朗々と神様へ祈りをささげる言葉が聞こえてくる。次第に瞼の向こう側が眩しくなってくる気がするけど、今目を開けるわけにはいかない。

 周囲の人間がざわつく声が大きくなってくる。いったい何が起こっているというのか。前に結婚の儀を見学したことはあったけど、なんとなく女神像が光ってる気がしたくらいだったはずだ。本当に光ってるんだろうか。
 疑問に思っていると、女神像に祈りを終えた婆さんがこちらを振り向く気配がする。

「シュウ、そしてリオよ、目を開けるがよい」

 言葉通りに目を開いたところで息をのんだ。婆さん眩しい。いや違う。女神像がすげぇ光ってる。なんなのこれ。

「では、女神さまへの誓いの言葉を続けるぞ」

「は、はい」

 聞きたいことはあるけど、ここで横槍を入れるわけにもいかない。

「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しむことを誓うかの?」

 そうだ。俺は、これから莉緒と二人でこの世界を生きていくんだ。多少わけのわからないことが起こったって、ここは魔法の存在する異世界だ。婆さんは通常通り結婚の儀を進めているし、特に変なことが起こってるわけではないのだろう。

 そう思うと気が楽になった。莉緒へと顔を向けて微笑みかけると、同じく笑みが返ってきた。うん。問題ない。

「「はい。誓います」」

「では誓いの口づけを」

 その場で立ち上がると、女神さまの前で莉緒と二人向かい合う。

「莉緒。左手を出して」

「え?」

 疑問の声を上げるも、素直に左手を差し出してくれたのでその手を取る。異空間ボックスから昨日手に入れた指輪を取り出すと、莉緒の左手薬指へとはめる。自動でサイズ調整がかかり、ぴったりとフィットした。

「これ……」

「うん。よく似合ってるよ」

 オリハルコンを使用した黄金の輝きに、宝石部分には淡いブルーの輝きを放つ魔石が嵌められている。この指輪は『身代わりの指輪』というやつだ。なんでも致命傷を一度だけ防いでくれるという。

「ありがとう」

 指輪を見つめてにへらと笑う莉緒に笑みを返す。両肩に手を添えると、莉緒がこちらに視線を向けて瞳をゆっくりと閉じる。
 そっと近づくと口づけを交わし――眩しく輝いていた女神像がさらに輝きを増したかと思うと、視界が白に塗りつぶされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転生美女は元おばあちゃん!同じ世界に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!

ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。 私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。 そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。 早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯ 私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。 『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』 そのために私は⋯ 『地上に降りて冒険者になる!』 これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯ ☆。.:*・゜☆。.:*・゜ こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』のスピンオフとなります。おばあちゃんこと凛さんが主人公! が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。 また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。 こちらも、よろしくお願いします。 *8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

処理中です...