上 下
92 / 398
第二部

ひとまず安心

しおりを挟む
 街の入り口でひと悶着あったものの、無事に街の中に入ることができた。門番には狼のことをシルバーウルフと間違われたままだが、特に問題ないだろう。勘違いさせたままの方が混乱は少ないと思うというのは、ワイアットさんの意見でもある。

「ギルドマスターはいるか!」

 ギルドへ入ってすぐにワイアットさんが奥へ呼びかける。
 いつにもまして視線が集まっている。注目されているのは、Bランク冒険者パーティーと一緒にいることと、あとは従魔になった狼のせいだろう。

「あ、ワイアットさん。ギルドマスターなら別室で、森に出た魔物の話をキルウェルさんから聞いてるところですが……」

「だったらそこに案内してくれ。追加情報がある」

「しょ、少々お待ちください」

 出てきた職員が慌てて奥へと引っ込んでいく。
 よし、ちょっとだけ時間ができたかな? 俺としてももう我慢の限界なのだ。うずうずして仕方がなかったが、待ってる間だけならいいよな。
 というわけで横にぴったり付き添っていた狼の傍に近づくと、頭を撫でる。

「ふおぉぉ」

 ふかふかやわらけー。

「あ、柊ずるい」

 莉緒も一緒になってもふもふしだす。まったくしょうがないやつだな。俺は首を攻めるぞ。

「わふぅぅ」

 狼も撫でられて気持ちがいいのか、目を細めてうっとりしている。

「お前ら……、緊張感がねぇな……」

 ワイアットさんから呆れた声が飛んでくるがスルーだ。
 このもふもふを今堪能せずにいつするというのだ。

「お待たせしました。奥の部屋へどうぞ」

 だがしかし、至福の時間はすぐに終わりを告げてしまう。職員に案内されてしぶしぶ奥の部屋へ向かった。
 職員がノックをして『天狼の牙』メンバーを連れてきたことを告げると扉を開ける。中にいたのは耳の尖った小柄な女性と、森の入り口を見張っていたあの時の冒険者だ。

「ご苦労様。追加情報があるって聞いたけど……」

 もしかしてこの小柄なエルフがギルドマスターなんだろうか。俺とあんまり身長は変わらないが、蒼い髪と碧の瞳が特徴の少女だ。

「その後ろの二人と狼は……?」

 訝し気な視線を向けてくるエルフ少女に、ワイアットさんが「今日の本題だ」と答えている。合わせて俺たちも自己紹介をしておいた。

「ボクはここのギルドマスターをやっているフランセスだ」

「……オレはCランク冒険者のキルウェルだ」

 ギルドマスターはまさかのボクっ娘だった。どうなってるんだこのギルドは。見た目で判断するのは間違ってるけど、どうにも威厳というものには欠ける。

 全員が座れる数の椅子もないため、キルウェルさんの隣にワイアットさんだけが腰かける。狼に至っては腹を床に着け、前足の上に顎を乗せてまったりしている。しかし狼って呼ぶのもアレだな。名前を考えた方がいいな。

「まず最初に確認したいんだが、フローズヴィトニルが出た話はどこまで伝わってるんだ?」

「まだギルドマスターにしか話していないです」

「そうだね。さっき話を聞いてこれからどうしようか考えていたところだよ」

「表では喋ってないんだな?」

 念を押すようにキルウェルさんに確認すると、何度も頷いている。一応最低限混乱しないように配慮はしていたみたいだ。

「だったらよかった」

 ホッと一息つくと一同を見回して、ゆっくりと告げる。

「そのフローズヴィトニルだが、ここにいる従魔の狼がそうだ」

「えっ?」

「は?」

 ギルドマスターとキルウェルさんの視線が従魔へと向けられる。

「いやいや、オレが見たときは六、七メートルは超えるデカさでしたよ」

 半笑いで「冗談はやめてくださいよ」と続けるキルウェルさんだが、ギルドマスターの視線は鋭く従魔に向けられたままだ。
 全員の視線を受けているが特に何も感じないようで、従魔は大きく欠伸をする。ギルドマスターがワイアットさんへと視線を向けると、ワイアットさんが何やら神妙に頷いている。

「フローズヴィトニルで間違いないみたいだね……」

 ゴクリと大きく喉を鳴らすギルドマスター。

「え、いや、マジですか……」

「あぁ、嘘をついてどうするんだ。鑑定した結果なんだから、種族名は調べればすぐにわかるよ」

「鑑定……、でもサイズが……」

「上位の魔物ともなれば自身のサイズや姿かたちまで変化できるものがいるというからね。さすがSランクの魔物ってところだろう」

「……」

 ギルドマスターの説明に何も言えなくなるキルウェルさん。
 しかし鑑定スキルを持ってるなら話が早くて助かる。どこまで鑑定でわかるのかちょっと気になるところだけど。

「ああ、俺もこの狼が小さくなるところを実際に見たからな。間違いないぜ」

「それで、このフローズヴィトニルが従魔になったから、いったん目の前の脅威はなくなったってことでいいのかな」

「あぁ、それで問題ない」

「じゅ、従魔……」

「うーん……、『天狼の牙』の誰かがテイムしたっていう話ならまだわかるんだけど、Eランクのシュウとリオの二人がいるってことは」

「はい、そうですね。この従魔は俺がテイムした魔物です。なので登録をお願いしたいですね」

「Sランクの……、従魔……」

 俺の言葉にキルウェルさんは呆然と呟き、ギルドマスターは大きくため息をついて天を仰ぐのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜

KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。 クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。 山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。 魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。 山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。 しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。 友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...