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第二部
気難しい工房主あるある
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ひとまず無事に宿まで来ることはできた。絡まれることはなかったがまだ安心はできない。とはいえ宿の中にいる間は大丈夫だろう。たぶん。
何日この街に滞在するかわからないが、まずは三日分ほど先払いしておく。少なくとも家具を買いそろえるまではいるつもりだ。二人部屋で一泊1200フロンだった。
「ところでちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
無事に宿を取れたので、今回この街に来た目的を果たすべくオーナーに声を掛ける。
「はい、何でしょう?」
「この街で家具をいろいろ揃えたいと思ってるんですけど、腕のいい工房とか知ってます?」
「工房ですか? 家具を揃えるのであれば、生産工房よりいろいろ家具を扱っている商会のほうがいいと思いますけど……」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。けど――
「ちょっと手持ちの素材も使って作って欲しくて」
「あ、そうなんですね。それでしたら……ベルドラン工房が有名ですが、初対面の方は難しいかもしれませんね。あとはグレイアード工房はどうでしょう」
どうでしょうと言われても、むしろ聞いてるのはこっちなんだけど。にしてもベルドラン工房か。気難しい職人って感じの予想だけど、そういう感じのほうがいい仕事してくれそうだよな。
「ありがとうございます。じゃあまずはベルドラン工房に行ってみますね」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
こうして場所を聞いた俺たちは宿を出た。
「でもまずは腹ごしらえだな」
「うん。お腹すいた。屋台でいろいろつまんでいこうよ」
屋台がいっぱい出ていた中央広場へと戻ってくると、さっそく物色を始める。定番の串肉以外に挑戦してみようか。
気になった白いもちもちした焦げ目のついたものを買ってみた。
「美味い。醤油付けたらもっと美味いかも」
「ホントだ。……なんとなく、熱い緑茶が欲しくなる味だね」
餅ほどではないが、そこそこ弾力のある不思議な食感だ。
「はは、ありがとよ。リョクチャが何かわからんが、熱いお茶ならあるぞ。一緒にどうだい?」
「じゃあいただきます」
屋台のおっちゃんから陶器のようなカップを二つ受け取ると、一つを莉緒に渡す。ってか当たり前だけど熱いなこのカップ。触れないほどじゃないけども。
冷ましながら一口啜ると、緑茶とはまた違った渋みが感じられる。でも確かに料理には合うな。
「カップは返してくれよな」
しばらくするとカップも冷えて適温になってくる。……が、これは熱いままのほうが美味いよな。ふと真空加工したお風呂の湯舟を思い出したが、そういうカップは……まぁ、あったとしてもこんな屋台で出すもんじゃないか?
「また頼むぜ」
カップを返してお礼を告げると、今度こそベルドラン工房へと向かう。ちょうど中央広場と西門の中間あたりにその工房はあった。腕はいいと聞いていたけど、予想と違って小ぢんまりとした店構えだ。
「いらっしゃいませー」
中に入ると、小学生低学年ほどの小さな男の子がカウンターに座っていた。
職人と言えばドワーフ。もしかしてこの背の低い男がもしや……、とか考えたけど、肉付きなど見ればやっぱりどう見ても子どもだ。
「おかーさん、おきゃくさんきたよー」
案の定、男の子は後ろを振り返ると奥に向かって叫んでいる。
「かわいい……」
どうやら莉緒は落とされてしまったようだ。確かにかわいいけども。将来的には莉緒との間にあんなかわいい子ができたらとか妄想しつつ隣に視線をやると、莉緒と目が合ってしまった。
不意に莉緒の顔が赤くなって目を逸らされてしまう。
なんとなく同じこと考えてた気がして心の中で悶絶してしまうが、待つんだ。まだ慌てるような時間じゃない。むしろ落ち着け俺。
というか重要なことを思い出したぞ。そういえば俺たち……、結婚しようとか言ってたけどあれから有耶無耶になったままだよな? 結局結婚の儀はまだだし。
「おかーさーん?」
返事がないことに訝しんだ子どもが、ひときわ大きい声を出して首を傾げている。
うん、やっぱりかわいいです。
幸いに職人の街だけあって規模の大きい街だし、教会はあるだろう。ここらで男を見せるべきだよな。
「ちょいと待っとくれよー!」
ようやく声が届いたようで、奥から母親の声が聞こえてきた。
しばらくして出てきたのは、活発そうな雰囲気の多少露出度の高いお姉さんだ。どう見ても六~七歳くらいの子どもがいるようには見えない。
「よっと……、すみません、お待たせしました。ご用件はなんでしょう」
子どもを抱きかかえると、改めてカウンター前で背筋を正している。
「家具をいくつか注文しようかと」
「であればうちの商品はいくつかの商会で取り扱っておりますので、そちらでお願いできますか」
「いえ、できれば持ち込んだ素材で作って欲しいなと思いまして」
「素材持ち込みですか……」
何やら思案顔になってるけど、これは断られるパターンなのだろうか。宿のオーナーさんも難しそうなこと言ってた気がするし。
「ちょっと待っててくださいね。おじいちゃん呼んできます」
おじいちゃん? ここの工房主なのかな?
「あ、はい」
莉緒と顔を見合わせて肩をすくめる。
しばらく待っているといかつい体つきと顔をした、立派な髭を蓄えたいかにもドワーフといった風体の男がやってきたのだが。
「素材の持ち込みと聞いたが……。クソガキじゃねぇか。帰れ帰れ、ガキが持ち込む素材なんざロクなモンじゃねぇだろ」
いきなり帰れコールを食らってしまうのだった。
何日この街に滞在するかわからないが、まずは三日分ほど先払いしておく。少なくとも家具を買いそろえるまではいるつもりだ。二人部屋で一泊1200フロンだった。
「ところでちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
無事に宿を取れたので、今回この街に来た目的を果たすべくオーナーに声を掛ける。
「はい、何でしょう?」
「この街で家具をいろいろ揃えたいと思ってるんですけど、腕のいい工房とか知ってます?」
「工房ですか? 家具を揃えるのであれば、生産工房よりいろいろ家具を扱っている商会のほうがいいと思いますけど……」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。けど――
「ちょっと手持ちの素材も使って作って欲しくて」
「あ、そうなんですね。それでしたら……ベルドラン工房が有名ですが、初対面の方は難しいかもしれませんね。あとはグレイアード工房はどうでしょう」
どうでしょうと言われても、むしろ聞いてるのはこっちなんだけど。にしてもベルドラン工房か。気難しい職人って感じの予想だけど、そういう感じのほうがいい仕事してくれそうだよな。
「ありがとうございます。じゃあまずはベルドラン工房に行ってみますね」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
こうして場所を聞いた俺たちは宿を出た。
「でもまずは腹ごしらえだな」
「うん。お腹すいた。屋台でいろいろつまんでいこうよ」
屋台がいっぱい出ていた中央広場へと戻ってくると、さっそく物色を始める。定番の串肉以外に挑戦してみようか。
気になった白いもちもちした焦げ目のついたものを買ってみた。
「美味い。醤油付けたらもっと美味いかも」
「ホントだ。……なんとなく、熱い緑茶が欲しくなる味だね」
餅ほどではないが、そこそこ弾力のある不思議な食感だ。
「はは、ありがとよ。リョクチャが何かわからんが、熱いお茶ならあるぞ。一緒にどうだい?」
「じゃあいただきます」
屋台のおっちゃんから陶器のようなカップを二つ受け取ると、一つを莉緒に渡す。ってか当たり前だけど熱いなこのカップ。触れないほどじゃないけども。
冷ましながら一口啜ると、緑茶とはまた違った渋みが感じられる。でも確かに料理には合うな。
「カップは返してくれよな」
しばらくするとカップも冷えて適温になってくる。……が、これは熱いままのほうが美味いよな。ふと真空加工したお風呂の湯舟を思い出したが、そういうカップは……まぁ、あったとしてもこんな屋台で出すもんじゃないか?
「また頼むぜ」
カップを返してお礼を告げると、今度こそベルドラン工房へと向かう。ちょうど中央広場と西門の中間あたりにその工房はあった。腕はいいと聞いていたけど、予想と違って小ぢんまりとした店構えだ。
「いらっしゃいませー」
中に入ると、小学生低学年ほどの小さな男の子がカウンターに座っていた。
職人と言えばドワーフ。もしかしてこの背の低い男がもしや……、とか考えたけど、肉付きなど見ればやっぱりどう見ても子どもだ。
「おかーさん、おきゃくさんきたよー」
案の定、男の子は後ろを振り返ると奥に向かって叫んでいる。
「かわいい……」
どうやら莉緒は落とされてしまったようだ。確かにかわいいけども。将来的には莉緒との間にあんなかわいい子ができたらとか妄想しつつ隣に視線をやると、莉緒と目が合ってしまった。
不意に莉緒の顔が赤くなって目を逸らされてしまう。
なんとなく同じこと考えてた気がして心の中で悶絶してしまうが、待つんだ。まだ慌てるような時間じゃない。むしろ落ち着け俺。
というか重要なことを思い出したぞ。そういえば俺たち……、結婚しようとか言ってたけどあれから有耶無耶になったままだよな? 結局結婚の儀はまだだし。
「おかーさーん?」
返事がないことに訝しんだ子どもが、ひときわ大きい声を出して首を傾げている。
うん、やっぱりかわいいです。
幸いに職人の街だけあって規模の大きい街だし、教会はあるだろう。ここらで男を見せるべきだよな。
「ちょいと待っとくれよー!」
ようやく声が届いたようで、奥から母親の声が聞こえてきた。
しばらくして出てきたのは、活発そうな雰囲気の多少露出度の高いお姉さんだ。どう見ても六~七歳くらいの子どもがいるようには見えない。
「よっと……、すみません、お待たせしました。ご用件はなんでしょう」
子どもを抱きかかえると、改めてカウンター前で背筋を正している。
「家具をいくつか注文しようかと」
「であればうちの商品はいくつかの商会で取り扱っておりますので、そちらでお願いできますか」
「いえ、できれば持ち込んだ素材で作って欲しいなと思いまして」
「素材持ち込みですか……」
何やら思案顔になってるけど、これは断られるパターンなのだろうか。宿のオーナーさんも難しそうなこと言ってた気がするし。
「ちょっと待っててくださいね。おじいちゃん呼んできます」
おじいちゃん? ここの工房主なのかな?
「あ、はい」
莉緒と顔を見合わせて肩をすくめる。
しばらく待っているといかつい体つきと顔をした、立派な髭を蓄えたいかにもドワーフといった風体の男がやってきたのだが。
「素材の持ち込みと聞いたが……。クソガキじゃねぇか。帰れ帰れ、ガキが持ち込む素材なんざロクなモンじゃねぇだろ」
いきなり帰れコールを食らってしまうのだった。
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