上 下
50 / 398
第一部

狙われた莉緒

しおりを挟む
 翌日も城門を訪れるための準備に当てる。主に対人戦に関する対策だ。磁力フィールドと魔力攪乱フィールドがうまくはまったけど、次も通用するかどうかはわからない。そうそう破られないとは思うけど、次の手も考えておかないと。
 というか金属装備を持たない接近戦闘職にはどっちも効果がないからね。

「今度は重力フィールドを試してみようか」

 固定の場所に重力を掛けるとか、空を飛ぶために自分自身にかけるとかは今まで実践してきている。今回やろうとしているのは、自分を中心とした重力フィールドだ。
 磁力や魔力攪乱は、何もないところで発動しても大して影響はなかった。でも重力は別なんだよね。ピンポイントでかけすぎると陥没して地面に穴が空くし。

「いいけど、さすがにピンポイントで重力を掛ける場所を制御するのは難しいんじゃないかしら?」

「そうなんだけどね。でも自分で使って莉緒にまで影響は出したくないし」

「それなら……、自分にかけられた重力と同じだけ、逆向きに重力をかければいいんじゃないかしら?」

「なるほど」

 考え込む莉緒から出てきたアイデアについて考察してみる。確かに、莉緒の位置を常に把握しながら制御するよりは楽かもしれない。
 自分にかかった重力を検知して、逆向きに発動すればいいとなると自動化もしやすいだろう。

「よし、さっそく実験だな!」

「はいはい。じゃあ街の外でやりましょうか」

「おう」



「うーん、地表より上に影響が出るように発動するとよさげだな」

「そうね。地面が陥没することもないし、これなら歩いてる橋が落ちたりはしなさそう」

 一番懸念していた問題は解決しそうだ。これで城門を渡る橋や、建物の二階で重力フィールドを使用しても問題なさそう。

「にしてもこの魔法、かなり強力だよね……」

「だなぁ。その分しっかり魔力バカ食いしてるんだし、強力なりの理由はちゃんとあるけどな」

 確かに魔力の消費量は多いけど、使い始めからすぐに気にしないといけないというほどでもない。魔力をつぎ込めばつぎ込むほど威力が上がるのもわかりやすい。

「それに……、クラスメイトが出てくる可能性もあるんだし、しっかり対策はしておかないとな」

「確かにそうね。しっかり見返してやらないと……」

 俺の言葉に莉緒は決意を新たに拳を握り締めている。なんか変な気合を入れてしまったようである。だがまぁやる気があるのはいいことだ。

「全部まとめて蹴散らしてやろうぜ」

「うん」

「でもあの使い方はヤバかったな……」

 ふと思いついた方法を試したらえらい爆発したんだよな。ちょっとクレーターみたいになったから、慌てて土魔法で地面を埋めたんだが。

「そうねぇ……、いろいろ応用も利きそうだし」

「でももうちょっと街道から離れて実験するか」

「騒ぎになりそうよね」

 かなり遠くまで移動すると、結局日が暮れるまで魔法の実験に明け暮れた。



「柊、そろそろ帰りましょう」

「ん? あぁ……、もうそんな時間か」

 莉緒に声を掛けられ改めて周囲を見渡すと、薄暗くなり始めていた。街の外に街灯なんて設置されていないので、日が沈めば真っ暗になって何も見えなくなる。魔法で明かりを灯せば問題ないが、街門はすぐに閉められてしまって中に入れなくなるのだ。

「人里が近いと実験がしづらいのはちょっと不便だなぁ」

「あんまり集中してやるのも体に悪いんだからね?」

「あ、ハイ」

 以前、生活リズムを崩してまでやるなと釘を刺されたことがあったな。あのときは俺が師匠に似てきたって言われたんだっけか。

 …………。

 断じて、似てない、はずだ。きっと。……たぶん。
 うん、自重は大事だね。

「とにかく、今日は帰ろうか」

 えぐれた地面を土魔法で均しながら、何事もなかった風を装う。一通りの惨状を隠蔽できたのでとっとと街への道を急いだ。
 街道まで戻ってくると、ちらほらと街へ戻る他の人影も見える。もうすぐ門が閉まるのでこの時間帯は混みそうだ。

「なんとか間に合いそうだな」

「そうね。柊が見境なく地面に穴をあけなかったら、もうちょっと余裕があったかも」

「あはは……」

 莉緒のツッコミに苦笑いしつつも周囲を見回してみる。いくつかの冒険者パーティに馬車で王都へ向かう商人らしき集団、他には全身黒ずくめのローブをかぶったソロの冒険者もいるようだ。

 街門が見えてきたあたりで自然と順番に並ぶようになる。商人らしき馬車がスピードを上げて先頭に並び、俺たち二人が続く。その後ろに黒ずくめと、いくつかの冒険者パーティが続いた。

「この行列を待つのも暇だなぁ」

 門へと到着し身分のチェックを受けるべく列に並ぶ。この時間帯はやっぱり人が多い。後ろに並んでいた冒険者パーティの後ろにも、さらに列が増えていた。
 莉緒と二人並んでボーっと前方の門を見る。後ろの黒ずくめも暇なんだろう、何やらごそごそして――

「莉緒!」

 咄嗟に後ろから膨れ上がった殺気は莉緒へ向けられている。「間に合え!」と思いつつ左隣にいた莉緒に手を伸ばし、引き寄せるのは無理と判断してそのまま突き飛ばす。

「きゃっ!」

 スローモーションのように倒れゆく莉緒の背中を貫き、右胸から細長い何かが生えてくるのが見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫獄桃太郎

煮卵
BL
鬼を退治しにきた桃太郎が鬼に捕らえられて性奴隷にされてしまう話。 何も考えないエロい話です。

二人とも好きじゃあダメなのか?

あさきりゆうた
BL
 元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。  正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!? ※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。 21.03.11 つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。 21.05.18 第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。 23.09.09  表紙をヒロインのおっさんにしました。

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転生美女は元おばあちゃん!同じ世界に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!

ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。 私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。 そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。 早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯ 私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。 『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』 そのために私は⋯ 『地上に降りて冒険者になる!』 これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯ ☆。.:*・゜☆。.:*・゜ こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』のスピンオフとなります。おばあちゃんこと凛さんが主人公! が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。 また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。 こちらも、よろしくお願いします。 *8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

処理中です...