23 / 398
第一部
冒険者ギルド
しおりを挟む
意図せず俺たちのキューピッドになってしまった看板娘の女の子は、名前をアーニャと言った。彼女は二階の一番奥の部屋へと俺たちを案内すると、真っ赤になった顔はそのままにしてそそくさと走り去っていった。
「えへへ」
二人きりになった部屋のベッドへと腰かけて、莉緒がにへらと笑う。すごく嬉しそうな顔を見てると、その場のノリでも告白してよかったと思える。ボッチだった過去の自分に自慢してやりたい。
「嬉しそうだな」
「うん」
莉緒の隣に座ると、ぎゅっと抱きしめられる。彼女の方が背が高いのもあり、なんとなくすっぽりと収まる感じだ。誠に遺憾である。
どちらともなく近づくと、唇をお互いに合わせる。なんとなくこの柔らかい感触は覚えがあるような……。
「どうしたの?」
思案顔になった俺に莉緒が尋ねてくる。
「いや、莉緒と……、初めてキスした気がしないなと思って」
「あはは。たぶん黒装束に襲われて柊が死にかけたときね。私が口移しで薬を飲ませたから」
「そ、そうなんだ……」
なんてこったい。ファーストキスを覚えていないなんて。一生の不覚。
「あはは、かわいい」
一人でショックを受けていると、さらなる衝撃の言葉に襲われる。俺が……かわいい、だと? まったくもって今まで誰からも言われたことはないし、自覚もないんだが。いや待て、待つんだ。これはきっとあれだ、恋人目線というか、特定の人だからこそ感じるものであって、普通の何も知らない一般人は俺を見てかわいいとは思わないのでは。
「……あー、おほん。それにしても所持金使い果たしそうだから、さっそく金策しないとな」
自分で納得させようとしたけどちょっと無理そうだったんで、話題を変えることにする。
「うん。そうだね。師匠も言ってたけど、冒険者ギルドってところが手っ取り早いって」
「まだ時間もあるし、行ってみるか」
部屋に鍵をかけてフロントへと持っていく。おばちゃんに鍵を預けつつ、冒険者ギルドの場所を聞くと、ニヤニヤとした笑顔が返ってきた。なんだか「若いっていいわよねぇ」という言葉が聞こえてきそうな表情だった。
宿を出て大通りへと戻ると、門へと向かう方向とは反対側の街の奥へと向かう。しばらく行くと、魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板のある五階建てくらいの建物が見えてきた。
「ここかな?」
「たぶん。宿のおばちゃんに聞いた五階建ての建物は他になさそうよ」
「じゃあ入ろうか」
テンプレ的展開が起こるのかドキドキしつつも中に入る。時間帯もあるのか思ったより人はいなかったが、ほぼ全員の視線が集まる。
奥の大きなカウンターに十人くらいの受付の人がおり、左側にはたくさん紙が張り付けてある木のボードがある。右側は談話エリアのようで、椅子のない背の高めのテーブルがいくつか設置してあった。
とりあえず空いているカウンターの前へと立つと。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
金髪の尖った耳をしたエルフの受付嬢が、澄ました顔で事務的に声を掛けてきた。他のカウンターも見ると、受付の人って綺麗な女性しかいないよな……。
「ギルドへの登録ってできます?」
「あ、はい……。できますが、年齢を伺ってもよろしいですか?」
「十六歳ですけど」
首をかしげながらも答えると、隣のカウンターの前にいた冒険者がぎょっとした顔でこっちを向いた。
「えっ? ……あ、失礼しました」
エルフの受付嬢までびっくりしている。
冒険者になるのって年齢制限でもあるのかな。師匠は言ってなかったけど、俺の歳は知ってるから何も言わなかったのかもしれない。小柄なのは自覚してるから、きっと子どもに見えたんだろう。
「あ、私も十六歳ですよ」
後ろにいた莉緒も一緒に答える。
「わ、わかりました。……ではこちらの用紙に記入いただけますか」
渡された用紙を見ると、いくつか記入欄がある。名前と性別、年齢、種族と職業か。あとは得意なことをフリーワードで書けるみたいだ。
「最低限名前を記載いただければ大丈夫です。あとの情報は、パーティーを組まれる際に参考にされますので。職業については以前調べたことがあるのであればそれを記載してください。この場で調べる場合は100フロンいただきます」
ほほぅ、職業を調べるってもしかして、召喚されたときに触ったあの水晶みたいなやつがここにもあるってことなのかな。
「あ、大丈夫です」
ペンを取るとさらさらと記入していく。スキルとは異なる異世界転移特典なんだろうか。なぜかこちらの言語での会話や読み書きができた。そこはテンプレでよかったなと思う。
用紙に記載した名前は「シュウ」と「リオ」だ。もちろん家名までは記載しない。ここにきて莉緒と名前呼びにしたことが役に立ってると実感する。無職が示す通り、特に得意なものはないので書いたのは職業までだ。
「はい、記載いただきありがとうございます。受け付けました。ギルド証を作成するので、出来上がるまで冒険者ギルドのルールを説明させていただきます」
ギルド員にはランクがあり、十二歳未満はGランクから、十二歳以上はFランクから始まるが、十五歳にならないとEランクには上がれないらしい。歳を聞かれたわけがわかったけど、それは俺が十二歳未満に見えたってことだよね……。
駆け出しのランクは、
Gランク:街中の依頼のみ
Fランク:街の外の依頼ありだが採取依頼まで
Eランク:討伐系依頼が可能
といった感じらしい。Dランクになれば一人前とのこと。まぁあとは当たり前なルールかな。
「では、これがギルド証になります。無くされると再発行に100フロンかかるので気を付けてくださいね」
そう言って、名前とランクの彫られた金属プレートを渡された。チェーンを通して首にかける。
「がんばってくださいね」
エルフの受付嬢が笑顔でそう告げる。
こうして俺たちは冒険者となったのだった。
「えへへ」
二人きりになった部屋のベッドへと腰かけて、莉緒がにへらと笑う。すごく嬉しそうな顔を見てると、その場のノリでも告白してよかったと思える。ボッチだった過去の自分に自慢してやりたい。
「嬉しそうだな」
「うん」
莉緒の隣に座ると、ぎゅっと抱きしめられる。彼女の方が背が高いのもあり、なんとなくすっぽりと収まる感じだ。誠に遺憾である。
どちらともなく近づくと、唇をお互いに合わせる。なんとなくこの柔らかい感触は覚えがあるような……。
「どうしたの?」
思案顔になった俺に莉緒が尋ねてくる。
「いや、莉緒と……、初めてキスした気がしないなと思って」
「あはは。たぶん黒装束に襲われて柊が死にかけたときね。私が口移しで薬を飲ませたから」
「そ、そうなんだ……」
なんてこったい。ファーストキスを覚えていないなんて。一生の不覚。
「あはは、かわいい」
一人でショックを受けていると、さらなる衝撃の言葉に襲われる。俺が……かわいい、だと? まったくもって今まで誰からも言われたことはないし、自覚もないんだが。いや待て、待つんだ。これはきっとあれだ、恋人目線というか、特定の人だからこそ感じるものであって、普通の何も知らない一般人は俺を見てかわいいとは思わないのでは。
「……あー、おほん。それにしても所持金使い果たしそうだから、さっそく金策しないとな」
自分で納得させようとしたけどちょっと無理そうだったんで、話題を変えることにする。
「うん。そうだね。師匠も言ってたけど、冒険者ギルドってところが手っ取り早いって」
「まだ時間もあるし、行ってみるか」
部屋に鍵をかけてフロントへと持っていく。おばちゃんに鍵を預けつつ、冒険者ギルドの場所を聞くと、ニヤニヤとした笑顔が返ってきた。なんだか「若いっていいわよねぇ」という言葉が聞こえてきそうな表情だった。
宿を出て大通りへと戻ると、門へと向かう方向とは反対側の街の奥へと向かう。しばらく行くと、魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板のある五階建てくらいの建物が見えてきた。
「ここかな?」
「たぶん。宿のおばちゃんに聞いた五階建ての建物は他になさそうよ」
「じゃあ入ろうか」
テンプレ的展開が起こるのかドキドキしつつも中に入る。時間帯もあるのか思ったより人はいなかったが、ほぼ全員の視線が集まる。
奥の大きなカウンターに十人くらいの受付の人がおり、左側にはたくさん紙が張り付けてある木のボードがある。右側は談話エリアのようで、椅子のない背の高めのテーブルがいくつか設置してあった。
とりあえず空いているカウンターの前へと立つと。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
金髪の尖った耳をしたエルフの受付嬢が、澄ました顔で事務的に声を掛けてきた。他のカウンターも見ると、受付の人って綺麗な女性しかいないよな……。
「ギルドへの登録ってできます?」
「あ、はい……。できますが、年齢を伺ってもよろしいですか?」
「十六歳ですけど」
首をかしげながらも答えると、隣のカウンターの前にいた冒険者がぎょっとした顔でこっちを向いた。
「えっ? ……あ、失礼しました」
エルフの受付嬢までびっくりしている。
冒険者になるのって年齢制限でもあるのかな。師匠は言ってなかったけど、俺の歳は知ってるから何も言わなかったのかもしれない。小柄なのは自覚してるから、きっと子どもに見えたんだろう。
「あ、私も十六歳ですよ」
後ろにいた莉緒も一緒に答える。
「わ、わかりました。……ではこちらの用紙に記入いただけますか」
渡された用紙を見ると、いくつか記入欄がある。名前と性別、年齢、種族と職業か。あとは得意なことをフリーワードで書けるみたいだ。
「最低限名前を記載いただければ大丈夫です。あとの情報は、パーティーを組まれる際に参考にされますので。職業については以前調べたことがあるのであればそれを記載してください。この場で調べる場合は100フロンいただきます」
ほほぅ、職業を調べるってもしかして、召喚されたときに触ったあの水晶みたいなやつがここにもあるってことなのかな。
「あ、大丈夫です」
ペンを取るとさらさらと記入していく。スキルとは異なる異世界転移特典なんだろうか。なぜかこちらの言語での会話や読み書きができた。そこはテンプレでよかったなと思う。
用紙に記載した名前は「シュウ」と「リオ」だ。もちろん家名までは記載しない。ここにきて莉緒と名前呼びにしたことが役に立ってると実感する。無職が示す通り、特に得意なものはないので書いたのは職業までだ。
「はい、記載いただきありがとうございます。受け付けました。ギルド証を作成するので、出来上がるまで冒険者ギルドのルールを説明させていただきます」
ギルド員にはランクがあり、十二歳未満はGランクから、十二歳以上はFランクから始まるが、十五歳にならないとEランクには上がれないらしい。歳を聞かれたわけがわかったけど、それは俺が十二歳未満に見えたってことだよね……。
駆け出しのランクは、
Gランク:街中の依頼のみ
Fランク:街の外の依頼ありだが採取依頼まで
Eランク:討伐系依頼が可能
といった感じらしい。Dランクになれば一人前とのこと。まぁあとは当たり前なルールかな。
「では、これがギルド証になります。無くされると再発行に100フロンかかるので気を付けてくださいね」
そう言って、名前とランクの彫られた金属プレートを渡された。チェーンを通して首にかける。
「がんばってくださいね」
エルフの受付嬢が笑顔でそう告げる。
こうして俺たちは冒険者となったのだった。
10
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
二人とも好きじゃあダメなのか?
あさきりゆうた
BL
元格闘家であり、がたいの良さだけがとりえの中年体育教師 梶原一輝は、卒業式の日に、自身の教え子であった二人の男子生徒から告白を受けた。
正面から愛の告白をしてきた二人の男子生徒に対し、梶原一輝も自身の気持ちに正直になり、二人に対し、どちらも好きと告白した!?
※ムキムキもじゃもじゃのおっさん受け、年下責めに需要がありそうなら、後々続きを書いてみたいと思います。
21.03.11
つい、興奮して、日にちをわきまえずに、いやらしい新話を書いてしまいました。
21.05.18
第三話投稿しました。ガチムチなおっさんにメイド服を着させて愛してやりたい、抱きたいと思いました。
23.09.09
表紙をヒロインのおっさんにしました。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
転生美女は元おばあちゃん!同じ世界に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!
ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。
私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。
そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。
早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯
私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。
『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』
そのために私は⋯
『地上に降りて冒険者になる!』
これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』のスピンオフとなります。おばあちゃんこと凛さんが主人公!
が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。
また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。
こちらも、よろしくお願いします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―
文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。
性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。
誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。
かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる