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第一部

冒険者ギルド

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 意図せず俺たちのキューピッドになってしまった看板娘の女の子は、名前をアーニャと言った。彼女は二階の一番奥の部屋へと俺たちを案内すると、真っ赤になった顔はそのままにしてそそくさと走り去っていった。

「えへへ」

 二人きりになった部屋のベッドへと腰かけて、莉緒がにへらと笑う。すごく嬉しそうな顔を見てると、その場のノリでも告白してよかったと思える。ボッチだった過去の自分に自慢してやりたい。

「嬉しそうだな」

「うん」

 莉緒の隣に座ると、ぎゅっと抱きしめられる。彼女の方が背が高いのもあり、なんとなくすっぽりと収まる感じだ。誠に遺憾である。
 どちらともなく近づくと、唇をお互いに合わせる。なんとなくこの柔らかい感触は覚えがあるような……。

「どうしたの?」

 思案顔になった俺に莉緒が尋ねてくる。

「いや、莉緒と……、初めてキスした気がしないなと思って」

「あはは。たぶん黒装束に襲われて柊が死にかけたときね。私が口移しで薬を飲ませたから」

「そ、そうなんだ……」

 なんてこったい。ファーストキスを覚えていないなんて。一生の不覚。

「あはは、かわいい」

 一人でショックを受けていると、さらなる衝撃の言葉に襲われる。俺が……かわいい、だと? まったくもって今まで誰からも言われたことはないし、自覚もないんだが。いや待て、待つんだ。これはきっとあれだ、恋人目線というか、特定の人だからこそ感じるものであって、普通の何も知らない一般人は俺を見てかわいいとは思わないのでは。

「……あー、おほん。それにしても所持金使い果たしそうだから、さっそく金策しないとな」

 自分で納得させようとしたけどちょっと無理そうだったんで、話題を変えることにする。

「うん。そうだね。師匠も言ってたけど、冒険者ギルドってところが手っ取り早いって」

「まだ時間もあるし、行ってみるか」

 部屋に鍵をかけてフロントへと持っていく。おばちゃんに鍵を預けつつ、冒険者ギルドの場所を聞くと、ニヤニヤとした笑顔が返ってきた。なんだか「若いっていいわよねぇ」という言葉が聞こえてきそうな表情だった。



 宿を出て大通りへと戻ると、門へと向かう方向とは反対側の街の奥へと向かう。しばらく行くと、魔法陣の上に剣と盾が描かれた看板のある五階建てくらいの建物が見えてきた。

「ここかな?」

「たぶん。宿のおばちゃんに聞いた五階建ての建物は他になさそうよ」

「じゃあ入ろうか」

 テンプレ的展開が起こるのかドキドキしつつも中に入る。時間帯もあるのか思ったより人はいなかったが、ほぼ全員の視線が集まる。
 奥の大きなカウンターに十人くらいの受付の人がおり、左側にはたくさん紙が張り付けてある木のボードがある。右側は談話エリアのようで、椅子のない背の高めのテーブルがいくつか設置してあった。

 とりあえず空いているカウンターの前へと立つと。

「本日はどのようなご用件でしょうか」

 金髪の尖った耳をしたエルフの受付嬢が、澄ました顔で事務的に声を掛けてきた。他のカウンターも見ると、受付の人って綺麗な女性しかいないよな……。

「ギルドへの登録ってできます?」

「あ、はい……。できますが、年齢を伺ってもよろしいですか?」

「十六歳ですけど」

 首をかしげながらも答えると、隣のカウンターの前にいた冒険者がぎょっとした顔でこっちを向いた。

「えっ? ……あ、失礼しました」

 エルフの受付嬢までびっくりしている。
 冒険者になるのって年齢制限でもあるのかな。師匠は言ってなかったけど、俺の歳は知ってるから何も言わなかったのかもしれない。小柄なのは自覚してるから、きっと子どもに見えたんだろう。

「あ、私も十六歳ですよ」

 後ろにいた莉緒も一緒に答える。

「わ、わかりました。……ではこちらの用紙に記入いただけますか」

 渡された用紙を見ると、いくつか記入欄がある。名前と性別、年齢、種族と職業か。あとは得意なことをフリーワードで書けるみたいだ。

「最低限名前を記載いただければ大丈夫です。あとの情報は、パーティーを組まれる際に参考にされますので。職業については以前調べたことがあるのであればそれを記載してください。この場で調べる場合は100フロンいただきます」

 ほほぅ、職業を調べるってもしかして、召喚されたときに触ったあの水晶みたいなやつがここにもあるってことなのかな。

「あ、大丈夫です」

 ペンを取るとさらさらと記入していく。スキルとは異なる異世界転移特典なんだろうか。なぜかこちらの言語での会話や読み書きができた。そこはテンプレでよかったなと思う。
 用紙に記載した名前は「シュウ」と「リオ」だ。もちろん家名までは記載しない。ここにきて莉緒と名前呼びにしたことが役に立ってると実感する。無職が示す通り、特に得意なものはないので書いたのは職業までだ。

「はい、記載いただきありがとうございます。受け付けました。ギルド証を作成するので、出来上がるまで冒険者ギルドのルールを説明させていただきます」

 ギルド員にはランクがあり、十二歳未満はGランクから、十二歳以上はFランクから始まるが、十五歳にならないとEランクには上がれないらしい。歳を聞かれたわけがわかったけど、それは俺が十二歳未満に見えたってことだよね……。
 駆け出しのランクは、

 Gランク:街中の依頼のみ
 Fランク:街の外の依頼ありだが採取依頼まで
 Eランク:討伐系依頼が可能

 といった感じらしい。Dランクになれば一人前とのこと。まぁあとは当たり前なルールかな。

「では、これがギルド証になります。無くされると再発行に100フロンかかるので気を付けてくださいね」

 そう言って、名前とランクの彫られた金属プレートを渡された。チェーンを通して首にかける。

「がんばってくださいね」

 エルフの受付嬢が笑顔でそう告げる。
 こうして俺たちは冒険者となったのだった。
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