上 下
12 / 398
第一部

明かされるスキル

しおりを挟む
「坊主は気絶してたから気づいてないかもしれんが、この家は魔の森に一軒だけポツンと建っているオレの家だ」

 まずはこのあたりの地理などを教えてくれた。
 魔の森と呼ばれるこの地域は、この大陸の北東側六分の一ほどを占める広大な森だそうだ。あまりに広すぎて魔物の生態系も不明かつ、強力な魔物も棲息しているため魔の森と呼ばれて恐れられているらしい。
 ちなみに俺たちが召喚されたアークライト王国は、魔の森の南西に広がるそこそこ大きい国だという。魔族の国――ベルグシュテインは、アークライト王国の北側の山脈を超えた先にあるそうだ。

「ちなみにこの家は魔の森の西側に位置するが……、それでもアークライト王国方面へ森を抜けるまで徒歩でも二十日はかかるぞ」

「ええっ!? そんなところに一人で住んでるんですか?」

 驚く柚月さんだけど、俺としては森を抜けるのに二十日もかかるという現実の方がショックだった。

「ははっ、これでもそこそこ強さに自信はあるんだぜ。もうかれこれ魔の森に住み続けて五十年は経つからな」

 何でもないように肩をすくめてみせる。

「えっと、ヴェルターさんって、おいくつなんですか?」

「あー、そうだな……。三百からは数えてないな」

 恐る恐ると柚月さんが問いかけるも、気を害した風もなく、むしろ思い出せないことに眉間にしわを寄せて答えてくれた。三百歳以上って……、魔族って長生きだな……。そりゃ俺たちが子どもに見えるわけだ。

「まぁそんなわけだが……」

「そうですね……。正直、俺たち二人だけでこの森を抜けられる気がしません」

「だろうなぁ。まったく……、くくくく、デスメグの実を食って……、吐き気でのたうち回るとか……くはははは!」

 死にかけた苦い思い出なんだけど、ヴェルターさんの笑いのツボに入ったようだ。いやまぁ確かに、知ってる人からすれば何やってんだって感じだよな。

「まぁすぐに吐き出せてよかったな」

 ひとしきり笑ったあと、真顔になって話を続ける。

「そうなんですか」

「あぁ、あれの実の下半分の黒い部分は、木の実が食った虫が堆積してる部分だからな」

「うげっ」

 想像してしまって気分が悪くなってきた。

「しかも魔の森にいる虫だろう? いろんな毒を持ってるやつらがうじゃうじゃいるからなぁ」

「マジですか……」

 話を聞くだけで血の気が引いてきた。マジで俺、死んでたかもしれないのか。

「まぁ上の白い部分は美味いんだがな」

「えぇっ!? あれは食べられるんですか!?」

 顔を蒼白にしながらも、柚月さんが衝撃に身を震わせている。

「ちょっとでも黒い部分が残ってるとダメだがな。しっかり分離すれば大丈夫だ」

「はは……、そういえば、ちょっと黒いところ残ったまま食ったかも」

「だろうな」

 まったくもって笑えない。魔の森怖い。もう無理。もう帰りたい。……ってどこに?

「そういえば……、魔王を倒せば元の世界に戻れるって聞いたんですけど、ヴェルターさんの話を聞いた限りだと嘘くさいですよね」

「そんな話は聞いたことがないな」

 魔王を倒せば元の世界に戻れるような強力な力が手に入るといったことなどありえないとのこと。無駄だと思いつつも聞いてみたけど、これでかすかな希望も完全に砕かれてしまった。本当に俺たちは、この世界で生きていくしかないらしい。

「そうなんですね……」

 肩を落とす柚月さんが、俯いて震えている。

「空間転移するような魔法はあるが、さすがに世界を超えるものは聞いたことがないな」

 空間魔法! 八種類って聞いてたけど、やっぱりそれ以外にもあったのか。ってか、基本が八種類ってだけか。

「そんな魔法があるんですね……」

「あぁ。……で、だ。話を本題に戻すが……」

「はい」

「森を抜けるまで送ってやってもいいんだが……、どうせならここでオレがお前らを鍛えてやろうか?」

「へっ?」

 思ってもみなかった提案に間抜けな声が漏れる。単純に送ってもらえるよりも、むしろありがたいくらいだ。辺鄙なところに住んでいる魔族とはいえ、知識は豊富なのだ。いろいろこの世界について教えてもらえると、自分たちの生存率も上がる。

「どうして……?」

 柚月さんも思ったのか、ヴェルターさんに問いかけている。確かに、ヴェルターさんにとってはメリットがないのだ。むしろ放り出すのが一番楽だろう。

「くくく、お前ら、面白いスキル・・・を持ってるよな?」

「「えっ!?」」

 衝撃的な言葉に、二人そろって固まってしまう。
 え、どういうこと? 今、スキルって言った? 職業じゃなくて?

「俺たちが持ってるスキルがわかるんですか? ……職業じゃなくて?」

「あぁ、わかるぞ。オレは『鑑定』持ちだからな」

 そういえば神様のところでスキルを選んでたとき、鑑定もあったなぁ。そりゃそうか、あそこで選べるんだったら、持ってる人もいるよね。

「特に坊主の鑑定結果が面白い。毒耐性に空腹耐性に気絶耐性とか、マジで魔の森を彷徨ってデスメグの実を食った証拠がしっかり残ってやがる」

「ええぇぇぇっ!?」 

 またもや笑い出すヴェルターさんに衝撃の事実を告げられる。そんなスキル取った覚えないんですけど、マジですか!?

「いやー、マジで坊主は面白いわ。取得経験十倍に、成長速度、成長率十倍だろ? 鍛えれば鍛えるだけ面白いようにスキルを覚えるんじゃねぇか? あぁ、嬢ちゃんも取得経験五倍に成長速度五倍だ。魔力成長率に至っては百倍か? 完全に魔法特化じゃねぇか。こりゃ面白くなってきた」

 次々と告げられる衝撃の事実とヴェルターさんのワクワクした表情に、俺たちは素直に『よろしくお願いします』と答えていたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜

KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。 クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。 山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。 魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。 山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。 しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。 友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...