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第二章 始まりの街アンファン
第78話 面接
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あれから数日、街の東側エリアで狩猟を続けているうちに、とうとう偉い人との面接の日になった。ちなみにテイマーギルドに提出した新種登録書類はまだ審査中なので結果待ちの状態である。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
「はい」
街の食堂でフォレストテイルのみんなと昼食を摂った後、そのまま目的地まで案内をしてくれるみたいだ。もちろんスノウとトールも一緒だ。
街の中央まで来ると進路を北に変更する。こちらは街の中でも富裕層が生活する領域になっていて、私もまだ足を踏み入れたことがない。子どもになってしまった私には縁がないところだろうし、ここで売ってるものは高くて手が出ないだろうと思っているからだ。興味深くキョロキョロと周囲を見回しながら歩いていると、やがて一番大きな建物に着いた。
「ここだ」
「おぉ」
門衛が二人、槍を立てて周囲を警戒している。後ろにいるスノウたちを見て一瞬警戒を強めるけど、一緒にいるのがフォレストテイルだと気づいたのか通常状態に戻る。
改めて建物を見上げると、周囲にあるものより明らかに大きい屋敷だ。位置的にももしかするとここは領主館ではなかろうか。面接の相手となる偉い人がこの街の一番かもしれないという予想に期待しつつ、先に中へと入っていったフォレストテイルの後を追った。
案内された部屋は応接室のようだ。部屋の前にはメイドが待機しており、こちらに気が付くと恭しく頭を下げて扉を開けてくれる。クレイブがさっと手を上げて部屋に入ると私もそれに続いた。
「まあ適当に座ってくれ」
我が物顔をしながらクレイブが近くにあったソファに腰掛ける。テーブルとソファのセットは二つあるようで、一方のセットにフォレストテイルが座り込んでいる。
「アイリスちゃんもこっちにおいで」
マリンが手招きするので素直に隣に座る。空いている向こうのソファに一人でポツンと座る勇気はないのだ。スノウはソファの近くに寝そべり、トールもその隣に座り込むけど落ち着かないのかちらちらと視線をこちらに向けてくる。ちょっとかわいい。
「ここってどこなんですか?」
部屋の中もキョロキョロと見回しながら聞いてみる。高級感が漂うが、派手ではなく上品なたたずまいの部屋だ。飾られている調度品の配置なども考えられており、一見普通の部屋にも見える。
「ああ、ここは代官様の屋敷だ」
「えっ?」
代官様の屋敷? それってこの街で一番偉い人が住んでる屋敷じゃ。……いやでもその本人が出てくるとは限らないか。屋敷で働いてる人はいっぱいいるし、宰相みたいな人とか各部署の長とかいろいろ人はいるはずだ。
「そうなんだ」
ちょっとびっくりしたけど少しして冷静になる。
「忙しい人だけど、もうちょっとしたら来るんじゃねぇかな」
しばらく雑談していると扉がノックされた。クレイブが許可すると、カートを押したメイドさんが入ってきてお茶を淹れて、美味しそうな焼き菓子をテーブルに並べてくれる。
ちょうどその焼き菓子に手を伸ばして摘まんだところで、一人の男が続けて扉を開けて入ってきた。
「待たせたかな」
長身痩躯でローブを羽織った、白髪交じりのダークブルーの髪を短くまとめた男性だ。スノウたちを見て一瞬足を止めたが、そのまま私たちの座っている向かいへと歩いてくる。
「いえ、大丈夫です」
クレイブたちが一斉に立ち上がって挨拶するのを見て、私は手に持ったお菓子に視線をやる。みんなに倣ってソファから降りたほうがいい気もしたけど、なんとなく抗えずに手に持ったお菓子を一口齧った。
すごく甘くおいしくて、自然と頬が緩んでくる。ホロホロと口の中で溶けていき、優しい甘さが広がっていく。ぶらぶらと街を散策していたときには見なかったけど、北エリアにはこういうお菓子を売っているお店もあるのかもしれない。今度行ってみよう。
「おい、お前も挨拶しろよ」
幸福に浸っていると、クレイブにおでこを小突かれた。さすがに初対面の人と会うのにお菓子を口に入れていてはダメらしい。心の奥底では理解していたけどどうにも我慢ができなかったので仕方がない。一部言動が子どもっぽくなっていることを自覚しつつも、手に持ったお菓子の残りを口に詰めてソファから降りる。
「ふぉんにちは。ふぁいりふほいいはふ」
「食いながらしゃべるなって前にも言っただろ!?」
丁寧にお辞儀までしたのにクレイブからツッコミが入った。マナーとして悪いのはわかってるつもりなんだけど、子どもになっちゃったしまぁいいかという気持ちがあったのは確かだ。
なんとなく精神が子どもっぽくなっている気がしないでもない。ちょっと気を引き締めなおさないとダメかもしれない。
「はは、可愛らしい子じゃないか」
微笑ましくこちらを見つめる男がそのままソファへと腰掛けると、すかさずメイドがその前にお茶の入ったカップを置く。
「キミがダレスの探索者タグを拾ってくれた子かい?」
まだ口にお菓子が入ったままなので、言葉には出さずに首肯する。
「そうか。ありがとう。ずっと行方不明だったダレスの安否が知れてよかった」
感慨深げに口にすると、ソファに座った男が姿勢を正して真面目な顔になる。
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はこの街の代官を務めているコヴィル・ステイナーという。よろしく頼む」
そうキリっとした表情で告げる目の前の男は、この街で一番偉いお貴族様だった。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
「はい」
街の食堂でフォレストテイルのみんなと昼食を摂った後、そのまま目的地まで案内をしてくれるみたいだ。もちろんスノウとトールも一緒だ。
街の中央まで来ると進路を北に変更する。こちらは街の中でも富裕層が生活する領域になっていて、私もまだ足を踏み入れたことがない。子どもになってしまった私には縁がないところだろうし、ここで売ってるものは高くて手が出ないだろうと思っているからだ。興味深くキョロキョロと周囲を見回しながら歩いていると、やがて一番大きな建物に着いた。
「ここだ」
「おぉ」
門衛が二人、槍を立てて周囲を警戒している。後ろにいるスノウたちを見て一瞬警戒を強めるけど、一緒にいるのがフォレストテイルだと気づいたのか通常状態に戻る。
改めて建物を見上げると、周囲にあるものより明らかに大きい屋敷だ。位置的にももしかするとここは領主館ではなかろうか。面接の相手となる偉い人がこの街の一番かもしれないという予想に期待しつつ、先に中へと入っていったフォレストテイルの後を追った。
案内された部屋は応接室のようだ。部屋の前にはメイドが待機しており、こちらに気が付くと恭しく頭を下げて扉を開けてくれる。クレイブがさっと手を上げて部屋に入ると私もそれに続いた。
「まあ適当に座ってくれ」
我が物顔をしながらクレイブが近くにあったソファに腰掛ける。テーブルとソファのセットは二つあるようで、一方のセットにフォレストテイルが座り込んでいる。
「アイリスちゃんもこっちにおいで」
マリンが手招きするので素直に隣に座る。空いている向こうのソファに一人でポツンと座る勇気はないのだ。スノウはソファの近くに寝そべり、トールもその隣に座り込むけど落ち着かないのかちらちらと視線をこちらに向けてくる。ちょっとかわいい。
「ここってどこなんですか?」
部屋の中もキョロキョロと見回しながら聞いてみる。高級感が漂うが、派手ではなく上品なたたずまいの部屋だ。飾られている調度品の配置なども考えられており、一見普通の部屋にも見える。
「ああ、ここは代官様の屋敷だ」
「えっ?」
代官様の屋敷? それってこの街で一番偉い人が住んでる屋敷じゃ。……いやでもその本人が出てくるとは限らないか。屋敷で働いてる人はいっぱいいるし、宰相みたいな人とか各部署の長とかいろいろ人はいるはずだ。
「そうなんだ」
ちょっとびっくりしたけど少しして冷静になる。
「忙しい人だけど、もうちょっとしたら来るんじゃねぇかな」
しばらく雑談していると扉がノックされた。クレイブが許可すると、カートを押したメイドさんが入ってきてお茶を淹れて、美味しそうな焼き菓子をテーブルに並べてくれる。
ちょうどその焼き菓子に手を伸ばして摘まんだところで、一人の男が続けて扉を開けて入ってきた。
「待たせたかな」
長身痩躯でローブを羽織った、白髪交じりのダークブルーの髪を短くまとめた男性だ。スノウたちを見て一瞬足を止めたが、そのまま私たちの座っている向かいへと歩いてくる。
「いえ、大丈夫です」
クレイブたちが一斉に立ち上がって挨拶するのを見て、私は手に持ったお菓子に視線をやる。みんなに倣ってソファから降りたほうがいい気もしたけど、なんとなく抗えずに手に持ったお菓子を一口齧った。
すごく甘くおいしくて、自然と頬が緩んでくる。ホロホロと口の中で溶けていき、優しい甘さが広がっていく。ぶらぶらと街を散策していたときには見なかったけど、北エリアにはこういうお菓子を売っているお店もあるのかもしれない。今度行ってみよう。
「おい、お前も挨拶しろよ」
幸福に浸っていると、クレイブにおでこを小突かれた。さすがに初対面の人と会うのにお菓子を口に入れていてはダメらしい。心の奥底では理解していたけどどうにも我慢ができなかったので仕方がない。一部言動が子どもっぽくなっていることを自覚しつつも、手に持ったお菓子の残りを口に詰めてソファから降りる。
「ふぉんにちは。ふぁいりふほいいはふ」
「食いながらしゃべるなって前にも言っただろ!?」
丁寧にお辞儀までしたのにクレイブからツッコミが入った。マナーとして悪いのはわかってるつもりなんだけど、子どもになっちゃったしまぁいいかという気持ちがあったのは確かだ。
なんとなく精神が子どもっぽくなっている気がしないでもない。ちょっと気を引き締めなおさないとダメかもしれない。
「はは、可愛らしい子じゃないか」
微笑ましくこちらを見つめる男がそのままソファへと腰掛けると、すかさずメイドがその前にお茶の入ったカップを置く。
「キミがダレスの探索者タグを拾ってくれた子かい?」
まだ口にお菓子が入ったままなので、言葉には出さずに首肯する。
「そうか。ありがとう。ずっと行方不明だったダレスの安否が知れてよかった」
感慨深げに口にすると、ソファに座った男が姿勢を正して真面目な顔になる。
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はこの街の代官を務めているコヴィル・ステイナーという。よろしく頼む」
そうキリっとした表情で告げる目の前の男は、この街で一番偉いお貴族様だった。
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